環境問題に潜む悪の連鎖。地球の色の変化で北極の国際関係まで動いてしまう
所属:バーミンガム大学
インターン生:D.Sさん

環境問題に対して解決策を模索する際は一つの環境問題だけに焦点をあてるのではなく、他の環境問題や一見関係のないように見える他の国際問題と合わせて考える必要があります。環境問題Aの解決が遅れた場合、環境問題Bの悪化につながり、それが貧困、紛争、食糧危機、経済成長の低下、国家の安全保障問題を含む別の国際問題に影響するということも稀ではありません。とてもネガティブに聞こえてしまう一方で環境問題にはサイエンスとしての「面白さ」もあります。今回は環境問題と意外なつながりを持つ地球の色や、それによって動かされる国際関係などを紹介していきます。
北極や砂漠の色と気候変動の関係性
航空機の窓から見た北極の氷

私がイギリスに渡航した日はロシアのウクライナ侵攻開始からおよそ1年半がたった2023年9月でした。現在もウクライナ侵攻は続いており、その影響で多くの飛行機はロシア上空を避けて飛行しています。
私が使った航空会社は日本からアメリカのアラスカの方へ向かい、ユーラシア大陸の北を飛行したあと、アイスランドやスカンディナビア半島を経てヨーロッパまで飛んでいました。
通常であれば日本からヨーロッパまでは10時間程のフライトですが、ロシアを回避した航路では大体14時間かかりました。私は飛行機に乗るのが嫌いではないのですが、ヨーロッパまで14時間のフライトであることがわかった時は苦痛でした。
しかし、ロシアを回避した14時間のフライトにも良いことが一つありました。それは北極海の上空を通過するということです。私の飛行機は北極点にかなり近い場所を飛んでおり、その際に窓から見えた北極の景色は素晴らしいものでした。北極の雪氷はあまりに白いため、最初は雲海のようにも見えますが、目を凝らすと小さな湖や丘陵があり北極の雪氷であることがよくわかります。
この美しい北極の雪氷は残念なことに地球上で最も気候変動による影響を受けている地域のうちの一つです。NOAAのリサーチによると1990年代以降北極における気温上昇は地球平均の倍であるそうです(NOAA)。皮肉なことに、私の乗っていた飛行機も莫大な二酸化炭素を排出しながら飛行し、この気候変動に大きく加担してしまっているわけです。ここでは北極の雪氷が減少する意外な理由と関連する様々な問題を紹介します。

地球の色の変化が北極の氷を溶かす

大気や海水の温度が上昇することによって北極の氷の融解がもたらされることは非常に容易に理解できます。しかし、北極の氷の面積の減少が大気の温度を上昇させ気候変動をもたらすという逆の流れも起こっており、これには北極の色が大きく関係しています。暗い色は明るい色よりも熱を吸収し、逆に明るい色は吸収する熱の量が低いということは一般的によく知られていることかも知れません。
例えば、夏の暑い日に黒い服を着て歩いた時は白い服を着た時より暑く感じます。ウェザーニュースの実験では白い服が一番涼しく、続いて黄、赤、グレー、紫、青、深緑、黒の順で熱の吸収量が上がっていくことがわかったそうです(ウェザーニュース)。このように色における熱の吸収量の違いは日常生活で実感できるほど身近なサイエンスです。しかし、この色の光の吸収率が気候変動問題と大きく関わっており、またそれが気候変動解決において意外な影響を与えるという事実は世間的にあまり知られていない印象を受けます。
東海大学の長幸平氏は太陽から地球に放射されたエネルギーのうち約7割は地球(またはその大気圏内)に吸収され、残りの約3割は大気圏外に反射されるため、地球の反射率は30%だと言います。これをアルベドとも呼びます。
しかし、重要なのはこの割合は地球全体の平均であり、よって地球のどの地点で考えるかによって数字が大きく異なることです。言い換えれば、地球には海、陸、雪氷など様々な地理的特徴があり、それぞれの場所は異なった反射率を有します。例えば、海だと青い服の熱の吸収量が高かったように反射率はたったの10%以下、また森林は深緑の服と同じように30%の反射率だと考えられています。
それに比べ、白や黄色に近い雪氷や砂漠、雲は30〜90%と非常に高い反射率を有し、地球の反射率を大きく上昇させています(長幸平、東海大学第二工学部)。北極を特徴づける純白は太陽のエネルギーを地球外に放出することで大気の温度を低下させる役割を果たしています。
雪氷の融解は白く反射率の高い氷の面積を減らし、暗く反射率の低い海が占める割合を大きくすることから、地球全体の反射率を低下させてしまうという脅威を秘めていることがわかります。地球全体の反射率が下がれば地球の平均気温は必然的に上がり、平均気温が上がればさらに多くの北極や南極の雪氷を溶かしてしまいます。このように悪循環が始まると、その動きを止めるのは非常に困難であると言えます。
アルベドは砂漠とも大きな関連がある?

今まで北極の雪氷の減少が地球の反射率であるアルベドを低下させてしまうことを指摘しました。しかし地球の表面において色が明るい部分は北極や南極の雪氷だけではありません。砂漠でも同じようなことが言えます。
実際、私もイギリスから南アフリカに行く際に飛行機でエチオピア周辺の樹木が少ない地域の上空を通過しましたが、砂漠を通っている間は窓からの光がとても眩しく感じました。環境の視点で見るとあまり重要ではなさそうに見える砂漠ですが、北極の氷と同じように太陽のエネルギーを地球外に放出することで地球の反射率を高める働きを持っています。なので、砂漠が完全に暗い色で覆われてしまうと地球の反射率が低下して大気の温度を上げ、気候変動を起こしてしまう可能性があると考えられています。
気候変動へ対策を打つ際、植林をすることは空気中の二酸化炭素を固定できることから非常に有効的な手段であると言われています。しかし、一般的に良いとされる植林も過度に行われると逆効果を生んでしまう場合があります。
砂漠に植林が行われ、大部分が深緑になるとアルベドを下げ、大気の温度の上昇を招いてしまうのです(earth.com)。砂漠が拡大すれば森林の炭素固定量が減少し、一方で大規模で縮小すると地球の熱の吸収量が上がってしまうため、砂漠地域において気候変動に対策を打つのは非常に複雑です。
ただひとつ言えることとして植林はバランスよく行うとともに、適した植生を植えることが重要です。中にはアルベドを下げにくい植物もあるそうで、人口的に植樹を行う際はそのような樹木を植えることが推奨される場合もあります。要するに、気候変動問題に対して対策を打つ際はただ二酸化炭素の削減を行うのではなく地球の色についても配慮することが重要です。
北極の氷河の融解による影響:海面上昇から国際関係まで
海面上昇と沿岸地域における被害
北極や南極の雪氷が溶けることによってもたらされる懸念の一として、海面上昇とそれにおける沿岸地域への被害は非常に有名です。氷河が解けて液体となれば、個体として海面上に固定されていた水分が海に流入して海の体積が増えます。
NASAによると1993に計測を開始から現在まで、海面は約4インチ(9.4センチ)上昇しました。年間の海面上昇は1993年に2.5ミリであったのに対し現在では3.4 ~ 4.2ミリであり氷の融解のペースは年々加速しているようです(NASA)。
また2022年から2023年にかけては、赤道からの海流によって海温が年間を通して上昇するエルニーニョ現象の影響が特に強く、一年間で7.6ミリの上昇があったといいます(NASA Jet Propulsion Laboratory)。
海面上昇で最も被害を受ける地域は世界各地の沿岸地域です。まず、海面が上昇すると必然的に人間の居住地や農地として使える陸地の面積が減少します。東京、大阪、名古屋など大都市の沿岸部では人口や国の主要機能が集中するため経済的な被害が大きくなります。さらに小さな島国では国全体が海に沈んでしまう懸念もあります。
また、たとえ陸地が完全に海面下に沈まなかったとしても、高潮の際には洪水が起こり人間の居住地に海水が流れ込む水害が頻繁に起こるようになります(ベネッセ教育情報)。また海水の農地への流入は農作物に被害を加え、大規模で起こった際にはその国や地域で食料危機を引き起こします。このような懸念が一番大きい地域は太平洋に浮かぶフィジー共和国や、沿岸地域に人口が密集するバングラディシュだと言われています。
続いて、海面上昇によって安全な飲料水や産業用水の確保が難しくなる懸念もあります。通常、人間の生活に必要な水は淡水である河川や湖から取水しますが、海面が上昇すると海水が河川を逆流し、河川の淡水に海水が混ざってしまうことがあります。この場合河川の水を人間が使うことは難しくなります(ベネッセ教育情報)。
溶ける北極と地政学

北極海の氷が溶け、氷のない海の面積が拡大するとそれによって国際関係まで動かされます。T・マーシャル氏によると北極の氷が融解すれば、北極海が新たな海路として使えるようになることを指摘しています。
実際2014年には一隻の船が初めてアイスブレイカーなしで北極海を通り抜けることに成功しました。北極海を通るルートはヨーロッパと中国を結ぶ際、大陸の南を通るルートよりも短く、よって輸送コストが削減されます。
ただし、北極で新たな海路が生まれると、北極周辺諸国は新たな経済政策および軍事作戦を考案することを強いられるようになります。海の交通は貿易に欠かせず経済を大きく左右するため多くの国が海路の一部を所有することを望むのが予想されます。
例えば、ロシアにとって北極海は自国でとれたエネルギー資源を自国内で輸送したり他国に輸出したりする上で非常に便利です。欧米諸国にとっても、アラスカからヨーロッパに向けて資源を運ぶ際、北極海を介して輸送するのが最適解です。今までの歴史上世界中で各国が海へのアクセスを巡って争った事例があるように、北極海へのアクセスも大きな争いを招く原因になるかも知れません。
北極海はエネルギーの宝庫としても知られています。ある研究によるとまだ発掘されていない石油の13%が北極海の海底に眠っていると示唆します。通常、北極での掘削作業は氷があることから非常に困難ですが、雪氷が融解することで掘削作業が比較的容易になります。
これを受け、今では多くの国や企業が北極海のエネルギー資源を確保する計画を立てています。もし北極海の化石燃料が大規模で採掘されるとさらに多くの温室効果ガスが排出され、気候変動をさらに深刻化させます。すると、さらに多くの雪氷が溶け、さらに多くの燃料が採掘されるようになります。ここでまた、一つの悪循環が生まれていることがわかります。

まとめ
環境問題、特に気候変動はその影響が非常に広域に渡ることから多くの意外性を持っていることがわかりました。気候変動によって溶けた北極の雪氷は地球の色に変化をもたらし、それによってさらに多くの氷が溶けることや、その影響が海面上昇だけではなく地政学的な競争まで生んでしまうことを理解した上で、環境問題の解決には「広い視点」が非常に重要であることを実感できます。

エコモは各地を飛び回って、電力・エネルギーや地球環境についてお勉強中なんだモ!色んな人に電気/ガスのことをお伝えし、エネルギーをもっと身近に感じてもらいたモ!
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