森林破壊は全生命を脅かす
所属:イーストアングリア大学
インターン生:S.T.さん
森林は世界の大陸のおよそ4分の1を占めていると言われています。森は陸上生物の半分以上の生息地となっている他、大気中の二酸化炭素を吸収、固定することから、減少している生物多様性や気候変動を解決する上で大きな役割を果たしているのです。しかし、増大する食物や居住スペースの需要から、森林は農地や都市に変えられており、その面積は減少の一途を辿っているのが現状です。この記事では、森林破壊の原因、環境や人類への影響、さらに森林破壊を抑制する解決策をそれぞれ深掘りしていきます。
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1. なぜ森林破壊は止まらないのか
森林破壊の主な原因として挙げられるのが食料需要の増加に伴う農業用地の拡大です。中でも牛肉のための牧草地、大豆の生産用の農地の開発が起因する森林破壊の増加が顕著です。データによれば、世界の大豆の生産は1961年(2688万トン)から2022年(3億4886万トン)にかけて13倍近く増加し、また牛肉の生産も1961年(2875万トン)から2022年(7625万トン)にかけて約2.7倍増えています。
ほとんどの農業用地開拓は、まず大きな樹木を切断し、残りの植物を完全に焼き払う作業が伴います。ブラジルでは、2019年の1月から8月にかけて8万回を超える森の焼き払いが行われたことが確認されており、森林の減少に歯止めがかからない状況です。
食糧生産関連の他にも森林の減少の要因として、道路の開発、水力発電所設置に伴うダムの建設などが挙げられます。これらの人為的な活動により毎年スイス連邦の面積ほどの森林が消失していることが報告されています。
世界の大豆の生産量の推移(1961〜2022)
世界の牛肉の生産量の推移(1961〜2022)
2. 森林破壊の地理的影響 〜その被害は森から海まで〜
2.1. 森林の減少がもたらす洪水
森林は河川の集水域での雨水量や水の流れをコントロールする役割があります。つまり、森林の減少は河川の水の動きを調整する役割を低減させ、洪水につながると考えられています。例えば、インドのガンジス平野では、1950年以降洪水が頻繁化しており、一因としてヒマラヤ地域の森林破壊が考えられています。
2.2. 土壌悪化と富栄養化
森林破壊をきっかけに起こる現象として土壌悪化は環境に多大な悪影響をもたらします。この現象は自然界でも起こり得るものであり、全てが人類の森林破壊が原因で起こるわけではありません。しかし、農地などの開拓による在来植物の喪失は急速に土壌の劣悪化を加速させます。土壌に起こる変化には以下のような種類があります。
土壌侵食・流出
陸上の植生被覆面積(植物が土壌を覆う面積)が減少すると、土が剥き出しになります。剥き出しなった土は直接雨や風、日光に晒されるため、土壌侵食への耐性が大幅に減少することが分かっています。ある研究によると、森林伐採が起きた直後の土壌は約30〜80倍の侵食の影響を受けることが報告されました。その後も数十年、数百年にも渡って土壌が侵食運動に対して脆弱になってしまうのです。
地滑り
地滑りは斜面のある地形でより起こりやすいとされている大規模な土壌の移動です。地面を覆う植物が少なくなると、それまで土壌を支えていた植物の根が弱り、大量の土砂が崩壊を始めます。これは地面の植物が消失してしばらくその状態が続くと発生しやすくなることが分かっています。また、崩落した土砂が離れた場所の植物や植物の種を埋め立ててしまう事で、広い範囲での植物の成長に悪影響があるとされます。
土壌の圧縮・側方化
土壌圧縮とは、土壌表面が圧力を受け、土粒子間の空間が狭くなることを指します。これによって、土の中の水や空気の動き、さらに植物の根の成長を阻害し、植物の再生を難しくするのです。土壌の圧縮は大きく2つのパターンで起こり、これらの過程は人類の森林破壊と密接に関係しています。
一つは、道路を始めとする土地の開拓により、地面を覆っていた植物が無くなることで、空から降る雨粒が直接土表面を叩きつける現象が起きることです。二つ目は、森林伐採などによる人の移動、牧畜などによって、再生していない状態の土が圧縮されることです。圧縮された土壌は水の浸透能力が著しく低下し、その結果、植生の成長にとっても非常に悪影響を与えます。
塩害・富栄養化
塩害は乾燥地において発生することが多く、農地に必要な水分が低下し、塩分濃度が上昇することです。また、森林が無くなることで塩分の蓄積を助長し、塩害の発生率が高まります。また、海洋の富栄養化も問題となります。これは森林破壊による土壌流出が海に流れ込み、栄養素の供給過剰を引き起こすことから、藻類の異常繁殖を招くことです。
2.3. 森林の断片化
森林の断片化は、元々連続していた森林が部分的に伐採された結果、いくつかの断片的な森林が孤立する現象を指します。森林の断片化は生態系において次のような影響を引き起こします。
生物多様性の喪失
森林の断片化が進むと、多くの動植物がその住処を失うことから、生物多様性が損なわれます。これにより生物種の絶滅率が上昇し、元々の生態系が大きく変化してしまうのです。
生態系サービスの喪失
森林が断片化することで、生態系が提供するサービス(例: 水の浄化、土壌の保護など)が低下します。生態系サービスの喪失は、結果的にその地域の住民の生活にも影響を与えることが多いです。森林の断片化は広範囲にわたって悪影響を及ぼすため、森林の保護や再生が急務です。
3. 森林破壊がもたらす生態系への悪影響
森林破壊は生物多様性に多大な影響を与えています。西エクアドル、大西洋沿岸のアマゾン熱帯雨林、マダガスカルでは森林の減少に伴い、多くの生物種が絶滅しています。例えば、西エクアドルでは5000種以上の植物や動物が生息しており、その多くが森林の減少により絶滅の危機に瀕しています。また、大西洋沿岸のアマゾン熱帯雨林では数千種の動植物が住む重要な生態系が破壊されています。
4. 森林破壊がもたらす人体、人権への影響
森林破壊は健康にも悪影響を及ぼします。アマゾン熱帯雨林での森林火災は、住民の呼吸器系疾患を引き起こします。また、森林の断片化は人と動物の接触を増やし、疫病のリスクを高めることが分かっています。森林破壊により伝染病の拡散も見られ、森林と人間の健康には深い関係があります。
5. 森林破壊がもたらす気候への影響
森林破壊は温室効果ガスの排出を増加させ、気候変動を加速させます。FAOの報告によると、森林減少は世界の温室効果ガス排出量の12〜20%を占めています。森林は二酸化炭素を吸収し、気候の安定化に貢献していますが、森林破壊によりその役割が果たせなくなり、気温の上昇が進行しています。
6. 世界的に取り組むべき森林破壊への対策
森林再生、保護区の設立、持続可能な農業への移行、インフラ整備の改善などが必要です。国際的な協力と政策の見直しが重要です。各国が協力して森林の保護や再生に取り組むことが求められています。政府、NGO、企業、市民社会が一丸となって行動し、森林破壊を防ぐための戦略を実行する必要があります。
7. 日本の森林に山積する課題と対策
国土の6割以上を森林が占める日本は世界でも有数の森林大国です。しかしながら、その豊かな森林をめぐる様々な課題があるのも現状です。日本での林業はあまり採算が見込めないといった現状があり、こうした側面から間伐や伐採、植林などの手入れが適切に行われていない地域が多いです。
森林や樹木の手入れには非常に重要な役割があるため、放置された森林は脆弱になるのです。例えば、間伐には樹木の密度を減らし、その分一つ一つの木を大きく育てる効果があります。太く育った樹木は細い木々よりも地中深くに根を張るため、土壌を固定します。土壌が安定していれば、台風や豪雨と言った自然災害時に深林を地滑りから守ることができます。
さらに、樹木の密度を少なくすることは効果的に日光を地面に届け、下層植生の発生を促すことに繋がります。地面に生える植物は土壌の流出を防ぐので、先述したような土壌侵食や、森林付近の水環境での富栄養化を未然に防ぐことも期待されるのです。また、伐採や植林を繰り返すことで、高齢樹木から新しい樹木の切り替えを行うことができます。森林の炭素吸収や病害虫に対する抵抗力、回復力を高めることも可能です。
気候変動による異常気象や、将来的に予測されている大型地震など、森林を脅かす自然災害が増加する中、森を適切に手入れすることがより一層求められるでしょう。林業従事者を増やすための助成金や、間伐材の効果的な利用による利益拡大は日本の森を健全に保つ第一歩になるかもしれません。
日本は自国での石油や天然ガスの産出量は極めて少なく、資源を他国に依存していることもあり非資源国というイメージが定着しつつあります。しかし、森林こそが日本人が誇れる自然であり、資源になるのではないでしょうか。
8. まとめ
森林は生態系の健全性を保ち、生物多様性、気候調整、地域の健康を支える重要な役割を果たしています。森林の破壊は深刻な問題であり、再生と保護のための活動を強化し、持続可能な方法で森林を管理することが必要です。森林を守ることは、地球全体の未来を守ることにつながります。
エコモは各地を飛び回って、電力・エネルギーや地球環境についてお勉強中なんだモ!色んな人に電気/ガスのことをお伝えし、エネルギーをもっと身近に感じてもらいたモ!