電力の効率化のカギを握るのは”AI”!!
所属:東洋大学
インターン生:Y.Tさん
地球温暖化や資源の有限性により、電力の効率化が重要性を増している中、AIの活用が注目されています。AIは、発電から消費までの各段階で効率化を実現し、再生可能エネルギーの不安定さを補いながら、電力の供給と消費を最適化します。これにより、日本の持続可能なエネルギー社会への移行が期待されています。
はじめに
地球温暖化の進行や資源の有限性を背景に、電力の効率的な利用はますます重要になっています。電力の効率化には、発電から消費までの各段階での最適化が求められます。これに加え、再生可能エネルギーの導入が進む中、電力供給の不安定さを補う技術の必要性も増しています。これらの課題を解決するために、人工知能(AI)の応用が注目されています。本文では、AIが電力効率化にどのように影響を与えることができるかについて探ります。
人工知能(AI)…人工的に作られた知能であり、機械に人間と同じような知能を与える技術のことをいいます。知能を持つだけでなく、自ら学習し分析や提案などができることも、AIの大きな特徴です。
再生可能エネルギー…石油や石炭、天然ガスなどの化石エネルギーとは違い、太陽光や風力、地熱といった地球資源の一部など自然界に常に存在するエネルギーのこと。
電力の効率化の重要性
電力の効率化は、エネルギーコストの削減、二酸化炭素排出の抑制、または資源の節約につながります。化石燃料による発電は多くの二酸化炭素を排出し、地球温暖化の主要な原因となっています。したがって、エネルギー効率の改善は、地球単位での環境保全の視点から見ても大切だと考えます。
エネルギーコスト…電気代や水道代、ガス代などのオフィスの光熱費のこと。
電力分野におけるAIと統計学の活用
AIの導入は、電力システム全体の効率化に大きくな影響を与えています。以下に、電力の効率化におけるAIの具体的な応用例を電力の発電から消費にかけて各段階に分けて挙げます。
電力システム…発電から需要設備まで送配電網と電気的に繋がる大規模なシステム全体のこと。
まずは第一段階! 発電の効率化
発電所の運用において、AIは発電効率の向上に貢献しています。例えば、AIは過去のデータを分析して、最適な運転条件をリアルタイムで提案することが可能です。また、AIを活用した予測モデルにより、発電機の故障を未然に防ぐことができます。これにより、突発的な停止による損失を最小限に抑え、安定した電力供給が可能になります。
中部電力では水力発電においてAIを大いに使用しています。水力発電を行うにあたっては、翌日の天候や水位を予測した上でダムへ水の流入量を予測して発電計画を作成しています。ですが、この発電計画には高度な技術や知見が必要となっており、取得するために多くの時間と経験が必要です。特に、大規模かつ複雑な飛騨川水系の発電計画は、人力で毎日4時間かけていたと言います。しかし、AIを使用したシステムの導入は、日々の作成業務の効率化や既存技術の継承、増電に大きな貢献をしました。どのようなシステムなのか以下で具体的に挙げていきます。
- 流入量予測AI…予測降水量をもとにダムへの水の流入量を予測するAI
- 過去検索AI…翌日の天候やダムの水位などの予測情報をもとに過去の発電計画から類似するものを検索するAI
- 最適化AI…ダムの水位や業務上の運用制約を基に売電金額最大化などの目的に合わせて発電計画を算出すAI
この3つのAIを掛け合わせることによって作成した発電計画を、さらに人の手によってチェック・修正を行い、最終的に決定する形です。
このように発電の現場でAIが利用されています。どれだけ効率の良い発電機があったとしてもそれは物理的な限界があります。なので、自然を利用する再生可能エネルギーの不安定性を解消するには、発電量の最大化・最適化するためのAIシステムの普及・強化が今後さらに必要になってくると考えます。
次! 送電・配電の効率化
そもそも送電・配電とは…
送電…発電所から変電所、あるいは変電所から別の変電所まで電力を送ること。 配電…変電所から各家庭や工場などに電力を配ること
現在日本では発電所から家庭に届くまでに約5%の送電損失が生じており、年間では約458億kWの損失となっております。これは東京電力最大の発電量を誇る鹿島火力発電所の最大出力の約8000日分という非常に大きな数値となっています。これほど大きな数値の電力を無駄にしているのはどうしてももったいなく感じてしまいます。
送電網および配電網の管理においても、AIと統計学は重要な役割を果たしています。例えば、AIは電力の需要予測や負荷分散をリアルタイムで行い、送電ロスを最小限に抑えることができます。さらに、統計的手法を用いて過去の消費データを解析することで、需要の変動パターンを把握し、より正確な予測を行うことが可能です。これにより、送電と配電の効率が向上し、エネルギーの無駄を削減できます。
負荷分散…パフォーマンスと信頼性を向上させるために、複数のサーバー間でトラフィックを分散させるプロセスのこと。
例えば、アメリカのsense社が開発した次世代のスマートメーターは、送電および配電網の効率化において重要な役割を果たします。このスマートメーターは、単に家庭のエネルギー使用量を測定するだけでなく、分散型エネルギーリソース(DERs)を統合し、リソースのバランスを取ることが可能です。例えば、屋上ソーラーやバッテリーストレージ、ソーラーマイクログリッドなどのDERsをリアルタイムで統合管理し、エネルギーの需給バランスを最適化します。これにより、電力会社は需要の増加に伴う負荷を効果的に予測・対応し、電力網の高額なアップグレードを延期することが可能になります。
スマートメーター…一定時間ごとの電気のご使用量を計測することができ、かつ通信機能を保有しているため、遠隔でメーターの指示数を取得することが可能の機器のこと。
分散型エネルギーリソース(DERs)… 私たちエネルギーの利用者(需要家)等が所有するエネルギー源のこと。
バッテリーストレージ…複数のバッテリー テクノロジーを使用してエネルギーを保存し、後で使用できるようにする最新のエネルギー ストレージ ソリューションのこと。
マイクログリッド…平常時には再生可能エネルギーを効率よく利用し、非常時には送配電ネットワークから独立し、エリア内でエネルギーの自給自足を行う送配電の仕組みのこと。
さらに、AIを活用したセンス対応のスマートメーターは、電力会社がグリッドの健全性を自動化し、改善するのにも役立ちます。例えば、配電網とエネルギー消費者の間で発生する問題をリアルタイムで検出し、対応することで、信頼性が向上し、問題が発生した際のダウンタイムが短縮されます。こうしたAIと統計学を駆使したシステムは、老朽化したインフラから新しいインフラへの移行を支え、電力網の近代化を促進します。
グリッド…送配電網や送配電系統のこと。
インフラ…社会や経済、国民の生活を支える基盤のこと。
最後! 電力消費の最適化
AIは消費者の側でもエネルギー効率化に寄与しています。スマートメーターと連動したAIシステムは、消費者に対してリアルタイムでエネルギー使用の最適化を提案し、無駄な消費を抑制します。また、AIはエネルギー管理システム(EMS)を通じて、商業施設や家庭での電力使用を最適化し、コスト削減を支援します。
エネルギー管理システム(EMS)…エネルギーの使用状況を可視化し、照明や空調、設備機器の稼働を制御することでエネルギーの運用を最適化するためのシステム。
AIプロジェクト・アルゴリズムの開発を手掛けているアラヤ株式会社ではAIをしようした空調管理システムを提供している。このシステムを使用することによっていくかの利点がある。
アルゴリズム…直訳で算法や問題を解く手段という意味を持つ言葉で、特定の問題や課題を解決する手順や計算方法、処理方法のこと。
①施設エネルギー管理における多様なデータ活用とAI予測モデルの応用
施設内で使用された電力の履歴データに加えて、外部の気温や湿度、天気予報、さらにIoTデバイスや監視カメラから得られる人流データなど、さまざまな情報源を予測や制御に活用できます。これらのデータをもとに、AIの予測モデルを使用して、施設の将来の熱負荷やチラーによる熱生成量、消費電力を推定し、最適な制御設定を計算して予測を行います。
②データに基づくパラメータ最適化による快適な施設運用
設定温度や運転時刻などの複数のパラメータを、経験に頼らず、過去・現在・未来のデータに基づいて予測し、きめ細かく最適化することが可能です。状況に応じて柔軟に対応を変えることで無駄を削減でき、ビルや施設の利用者は常に快適に過ごせるようになります。
パラメータ…コンピュータのプログラムに対して、処理の内容を動的に決める目的で外側から与える値。
③電力の浪費の削減
上記で示した①②の利点が結果的に電力の削減につながります。夏の暑い時期に冷房の設定温度をむやみに低くするのではなく、必要な分だけ稼働することがこのAIシステムを使用することによって可能になります。
まとめ
電力の発電から消費に至るまでの過程におけるAIの活用について紹介してきましたが、ここで私の考えを少し述べたいと思います。近年、地球温暖化が進行しており、その影響で火力発電に対する環境的懸念が増しています。しかし、日本は地理的・社会的側面から火力発電に依存せざるを得ない状況にあります。そのため、電力の効率化が今後の日本の未来にとって非常に重要な要素となると考えています。
多くの企業や研究者がこの課題に対し、さまざまな取り組みを行っていますが、私はハード面での技術革新には限界があると感じています。もちろん、ハードウェアの進化によってある程度の効率化は実現可能ですが、物理的制約や経済的なコストを考慮すると、限界があるのは明らかです。その一方で、電力供給の過程においてAIを活用することにより、従来の方法では実現できなかった効率化が可能になります。
ハードウェア…システムにおいて、機械・装置・設備・部品といった物理的な構成要素のこと。
AIは、電力の供給や消費に関するデータをリアルタイムで分析し、無駄を最小限に抑えることで、供給能力を最大限に引き出し、最適化する力を持っています。このようなAIの導入により、電力の需給バランスが精密に調整され、エネルギーの効率が飛躍的に向上することが期待されます。これにより、日本の電力供給はより安定し、環境負荷の低減にもつながるでしょう。
また、AIの技術は日々進化しており、それに伴い新たな活用方法や取り組みが生まれてくることが予想されます。AIによる効率化は、発電から消費までのすべての過程において適用され、これまで想像もできなかったような電力供給の最適化が進む可能性があります。AIの能力が進化することで、日本の電力供給システム全体がさらに高度化し、持続可能なエネルギー利用に貢献することができます。
私自身、AIを活用したさまざまな取り組みがまだ多く存在していることを認識しており、今後もその動向に注目し続けたいと思っています。AIの出現によってもたらされた新たな光が、日本や世界をどのように照らしていくのか、非常に楽しみです。AIが電力供給の効率化を推進し、日本のエネルギー政策において重要な役割を果たすことを強く期待しています。電力の供給から消費まで、AIがもたらす効率化の波は、今後さらに大きく広がり、私たちの未来を明るく照らすものになるでしょう。AIの導入によって、日本が持続可能なエネルギー社会を実現し、環境と経済の両面でバランスの取れた成長を遂げることができることを願っています。
このように、AIの活用は日本の電力の未来を支える重要な柱となるでしょう。技術革新が進む中で、私たちはAIを最大限に活用し、電力供給の効率化を追求する必要があります。AIの力を借りて、限られた資源をより効果的に利用し、持続可能な社会を築いていくことが、私たちの使命であると感じています。AIがもたらす未来に期待しつつ、これからもその動向を注視していきたいと思います。AIの出現によって差した光がどのように日本あるいは世界を照らすのか楽しみです。