日常に溶け込みつつある生成AI。それが環境に悪影響を及ぼす!?

  • 更新日:2024/08/23

所属:東洋大学

インターン生:Y.Kさん

日常に溶け込みつつある生成AI。それが環境に悪影響を及ぼす!?の写真

近年、ChatGPTなど文章や画像を生成する「生成AI」が私たちの日常にますます浸透しています。利便性や創造力を向上させる一方で、生成AIが学習および運用のために大量の電力を消費することをご存知でしょうか?普及が進む中、生成AIがもたらす環境への影響について考えていきましょう。

生成AIと電力の関係

生成AIの仕組み

人工知能(AI)を使ったチャットサービス「ChatGPT」など、自動で文章や画像を生成する「生成AI(Generative AI)」が普及しつつあります。この生成AIは「プロンプト」と呼ばれる指示をAIに送ることで、過去に学習したデータから文章や画像を生成しますが、AIがデータを学習するには大規模なサーバーが必要です。特に多くの生成AIでは、高速な演算処理を行う高性能の装置「GPU(Graphics Processing Unit)」を使用するため、大容量のサーバーが必要となり、消費電力も自ずと増加します。

生成AIはどのくらい電力を消費するのか。

IEA(国際エネルギー機関)のレポートによると、生成AIなどの影響で世界のデータセンターの電力需要は増え続けており、2026年にはその消費電力量が約1,000TWhに達する可能性があり、これは日本全体の総消費電力量に匹敵します。

生成AIの消費電力は実際どれほどなのかというと、AIのモデルによってCO2排出量や消費電力量には大きな差があります。スタンフォード大学の研究によれば、大規模言語モデル「BLOOM」が言語を学習する際に排出したCO2の量は25tであり、これは平均的なアメリカ人が1年間に排出するCO2量の1.4倍に相当します。また、消費電力量は433MWhで、平均的なアメリカ家庭の41年分の電力量に相当します。一方で、OpenAI社の言語モデル「GPT-3」は、CO2排出量が502t、消費電力量が1,287MWhと、BLOOMを大きく上回っています。 ChatGPTは1日あたり約2億件の対話を処理し、50万kWhを超える電力を消費しており、これは米国1万7000世帯分の1日あたりの電力使用量に相当します。

スタンフォード大学が発表した、AIモデルの種類別のCO2排出量(学習時) 出典:スタンフォード大学(Artificial Intelligence Index Report 2023)

生成AIの消費電力は決して一律ではなくモデルによって異なります。生成AIの普及により消費電力が増加すると、発電時に排出されるCO2量も増える可能性があり、地球温暖化など環境への影響が懸念されます。

生成AIによる電力消費でCO2の排出量増加による環境への影響

AI技術の進化と普及に伴い、大量の電力が消費され、その結果CO2の排出量が今後も増加する恐れがあります。CO2の増加は地球温暖化を加速させ、地球の平均気温が上昇します。この気温上昇は、異常気象の発生、地域の気候特性の変化、海水面の上昇、生態系の変化など多岐にわたる悪影響を及ぼし、私たちの生活に重大な問題を引き起こします。以下にその影響について詳述します。

海水面の上昇

海水面の上昇温暖化により、北極や南極の氷河、氷床が溶け始めます。溶けた氷の水が海に流れ込むことで海面が上昇し、標高の低い土地やサンゴ礁からなる島々などが水没する危険が高まります。さらに、気温が1度上昇すると海水は膨張し、その体積が約0.025%増加するため、これも海水面上昇の一因となります。

異常気象の進行

異常気象の進行地球温暖化による平均気温の上昇は、海や地面から蒸発する水分の量を増やし、水蒸気の量が増えることで、豪雨や洪水、干ばつ、森林火災といった異常気象を引き起こします。近年では、日本各地で記録的な豪雨が観測され、アメリカのカリフォルニア州では熱波に襲われるなどの事例が報告されています。

農業や漁業への影響

農業や漁業への影響農作物の生育は気温や雨量に大きく依存しており、温暖化による気温上昇や日照りが農作物の不作をもたらします。また、海の水温変化や酸性化は海洋生物に影響を及ぼし、漁業においても収獲量が減少する可能性が高まります。

伝染病の発生

伝染病の発生気温の変化により動物は生息エリアを移動せざるをえなくなり、例えばデング熱やマラリアを媒介する蚊の分布が広がる可能性があります。また、上下水道が整備されていない地域では、水温上昇により感染症を引き起こす菌やウイルスが増加するリスクもあります。

食糧難へ

食糧難地球温暖化による気候変動が自然災害を増加させ、その結果穀物の生産量低下や病害虫の被害が深刻化します。これにより、世界的な食糧難を招くリスクが高まり、日本もその影響を受ける可能性があります。

生成AIによる電力消費や環境影響に対する解決策はあるのか。

生成AIの多くが大量の電力を消費し、CO2排出の増加を招くため、地球温暖化の一因となっていく恐れがあります。一方で、この問題を克服するための取り組みや革新技術も進行中です。

中国の解決策に注目

近年、中国の計算力産業は急速に拡大しており、年間平均成長率は30%近くに達しています。その結果、計算力の全体規模は世界で第2位にランクされています。このような計算力を持つ中国は、生成AIの消費電力問題にも積極的に対応する必要があります。

中国はAIと電力の関連技術を向上させることに加えて、マクロ的な視点からの問題解決アプローチを導入しました。具体的には、青海省のようなグリーン電力が豊富な地域を活用しています。青海省では、太陽光、風力、水力によるクリーンエネルギーの発電設備容量が2023年末には5100kWを超え、それが総発電容量の92.8%、総発電量の84.5%を占めています。

しかし、グリーン電力には「現地では使い切れず、外へ送ることもできない」という課題が存在します。そこで、AIの大量な電力需要を満たすために、青海省にデータセンターを移設するアイデアが考えられました。これにより、グリーン電力を「グリーン計算力」に転換できるのです。中国電信(国家)デジタル青海グリーンビッグデータセンターは、風力、太陽光、水力などのクリーンエネルギーを相互に補完することで、100%クリーンエネルギーによる供給を実現しています。さらに、青海の寒冷で乾燥した気候はデータセンターの冷却エネルギー消費を大幅に削減するため、全体的に約40%の省エネが可能です。

貴州省でも似たような取り組みが行われ、国家級AIトレーニング施設が建設されています。貴州省は、広東省深セン市との協力や、華為(ファーウェイ)のスマート計算力センターの設立など、AI関連の計算力サービスを大規模に展開しています。「東数西算」プロジェクトを通じて、西部地域のデータセンターを活用し、低コストで高品質な計算力サービスを提供する戦略が進行中です。

このように中国は、生成AIの普及による消費電力増加に対処するため、再生可能エネルギーを利用したグリーン計算力の開発を積極的に進めています。

生成AIの省エネ化と再エネ対応の取り組み

一部の生成AIには高い消費電力を必要とするものが存在しますが、その一方で、省エネルギーに特化した「軽量」な生成AIも登場しています。

たとえばNTTグループが開発した大規模言語モデル「Tsuzumi」は、世界トップレベルの日本語処理性能を特徴としながらも、AIモデルの軽量化によってChatGPT(GPT-3)と比較した際に、学習時のコストを最大300分の1に、推論コストを最大約70分の1に抑えることが可能です。

また、データセンターのエネルギー効率向上への取り組みも進展しています。NTTコミュニケーションズの「Green Nexcenter」というデータセンターは、生成AI向けに設計された高発熱サーバーと、優れた熱伝導性を持つ液体によるサーバー冷却装置を導入しています。これにより従来型と比較して、サーバー冷却のための消費電力を約30%削減しています。さらに、このデータセンターは実質100%再生可能エネルギーを使用しており、CO2の排出も大幅に抑制しています。

これらの省エネ・再エネ技術の進展により、生成AIの環境への負担を軽減することが可能となってきています。生成AIの普及が進む中で、こうした持続可能な技術開発はますます重要な役割を果たしていくと思います。

脱炭素エネルギーへの取り組み

データセンターの増設にあたっては、稼働をまかなう電力がどう作られているかも問われます。

生成AIの普及とともに電力需要が増大している今日、企業や政府は脱炭素エネルギーへの取り組みを強化する必要性に迫られています。以下、様々な角度から見た脱炭素エネルギーへの取り組みやその他の解決策について述べていきます。

再生可能エネルギーの拡大

再生可能エネルギーは脱炭素社会を実現するための鍵となります。日本や他の先進国は、風力、太陽光、水力、バイオマスなど、再生可能エネルギーの導入を大幅に拡大しています。

洋上風力発電

特に注目すべきは洋上風力発電です。洋上風力発電には「着床式」と「浮体式」の2種類があります。日本では、適した遠浅の海が少ないため、浮体式の導入が重要視されています。

五島市の「浮体式洋上風力発電」は、日本国内で初の商用運転に移行したプロジェクトです。このプロジェクトは、さらなる量産化と技術の向上を目指しており、大型化とコスト低減が課題です。また、発電した電力を効率的に利用するために、送電網の整備や高性能蓄電池の開発が進められています。

太陽光発電

太陽光発電も再生可能エネルギーの中で重要な位置を占めています。日本全国でメガソーラープラントの建設が進んでおり、自治体と企業が協力して大規模な太陽光発電プロジェクトを実施しています。さらに、住宅や商業施設に小規模な太陽光発電システムを導入する動きも広がっています。

エネルギーハーベスティングという、これまで利用されていなかった小さな発電を活用していく時代が到来しつつあります。エネルギーハーベスティング技術の進化により、例えばアメリカのミズーリ州では道路の表面にソーラーパネルを敷設し、フランスでは太陽光発電道路が1キロ設置されています。また、半透明な太陽光パネルがバス停やルーフバルコニーなどで利用される事例も増えており、完全透明な太陽光パネルの開発も進んでいます。

さらに、フィルム型ペロブスカイト太陽光という革新的な技術も注目されています。既存の太陽光パネルに比べて厚みが約100分の1、重さが25分の1であり、折り曲げ可能なためビル壁面など設置が難しかった場所にも設置が可能です。製造コストや寿命、耐久性が課題とされていますが、主要材料のヨウ素の生産量は日本が世界の30%(世界第2位)を占めています。この技術は、積水化学と東京電力等による世界初の高層ビルでのメガソーラー発電(1MW導入を計画)にも採用されています。

また、政府の政策と規制も、脱炭素エネルギーの普及には重要な役割を果たします。

エネルギー基本計画の見直し

日本政府は「エネルギー基本計画」を見直し、再生可能エネルギーや原子力発電の割合を再評価しています。この計画では、生成AIの普及による電力需要増加を考慮し、安定した電力供給を確保するための具体的なロードマップが策定される予定です。

カーボンプライシング

カーボンプライシング(炭素価格設定)も、企業が脱炭素エネルギーに転換する動機となります。CO2排出に対するコストを企業に課すことで、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上を促進します。

エネルギー効率の向上とスマートグリッド

発電量そのものを増やすだけでなく、エネルギーの効率的な利用も重要です。以下に示すような様々な技術革新が行われています。

カーボンキャプチャー・アンド・ストレージ(CCS)

CCS技術は、発電所から排出されるCO2を回収し、長期的に安全に貯蔵する技術です。この技術を用いることで、既存の火力発電所のCO2排出を削減でき、脱炭素化に資することができます。

グリーン水素

グリーン水素は、再生可能エネルギーを用いて水の電気分解によって得られる水素です。グリーン水素をエネルギー源とすることで、CO2を排出せずにエネルギーを供給することが可能です。日本では、グリーン水素の生産と利用を推進するためのプロジェクトが進行中です。

生成AIの普及による電力消費増加と環境影響に対する解決策は、技術革新、政策支援、企業の取り組みが相互に作用しながら進展しています。

終わりに

AIは大量の“計算”を超高速で行うため、膨大な電力を消費します。それにもかかわらず、AIをただの電力大量消費装置として単純に問題視することはできません。適切にAIを活用することで、逆に電力の効率的な利用や電力消費の削減に役立つ可能性があるからです。さらに、日本においては、人口減少や働き手不足が経済に悪影響を及ぼす中、AIの利用は経済・社会の運営に不可欠であると言えます。

今後、生成AIがこれまで以上に社会の各方面で活用されることが予想される中で、その環境負荷を最小限に抑えるための技術開発と政策対応はますます重要となります。

生成AIの進展とそれに伴うエネルギー消費問題に対処するには、単なる電力供給の増加だけではなく、エネルギー消費の効率化や再生可能エネルギーの有効利用が不可欠です。

企業や地方自治体、そして国際的な協力を通じて、日本は生成AIと環境負荷を最小限に抑えることの両立を目指し、持続可能な未来を切り開くための一歩を踏み出すことが求められています。

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