グリーンウォッシュの真実!~企業の環境主張に隠された影とその見分け方~
所属:東京情報大学
インターン生:N.Tさん
「あなたが購入する製品やサービスが、本当に環境に優しいと信じられますか?」近年、多くの企業が「エコフレンドリー」「持続可能」などのラベルを使用して自社の取り組みをアピールしています。しかし、その裏では、見かけほど環境に配慮していない現実が隠れているかもしれません。この記事では、企業の環境主張の真実を見極めるために知っておくべき「グリーンウォッシュ」の実態と、その影響や見分け方について深堀していきたいと思います。
1.グリーンウォッシュの定義と背景
グリーンウォッシュには定まった定義はないです。ただ、業界においては、一般的にグリーンウォッシュとは、企業や組織が環境に優しい取り組みを行っているかのように見せかけ、実際にはその取り組みが不十分であったり、全く行われていなかったりすることを指します。この言葉は、環境に配慮した、またはエコなイメージを想像させる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語であり、企業が環境意識の高まりを利用して利益を上げるためのマーケティング戦略として生まれました。
グリーンウォッシュの背景には、消費者や投資家の間で環境意識が高まったことが大きく影響しています。特に、20世紀後半から地球温暖化や資源の枯渇などが広く認識されるようになり、環境保護への関心が急速に高まりました。このような状況下で、1986年に環境活動家のジェイ・ウェスターベルド氏が、自身のエッセイの中で、とあるホテルが「環境に良い」と掲げる活動に対して、環境問題の観点から批判をしたのが始まりです。その文章の中で、グリーンウォッシュが「環境に良いとしながらも、実際は環境問題への対策を何もせず、ビジネスのことしか考えていない」という意味合いで使われたことから、環境問題へ取り組むと見せかけて、実際は何もしていないビジネス活動を指す言葉として一般に広まりました。その結果、一部の企業は、実質的な環境保護活動を伴わないまま、消費者を欺くような環境配慮の主張を行うようになりました。
こうした行為は、消費者の混乱を招き、本当に持続可能な製品やサービスの評価を困難にするだけでなく、環境保護そのものを軽視する風潮を助長することにもつながります。またICPENが国際的な調査の一環として行ったウェブサイト分析によると、衣料品や化粧品、食品などさまざまな分野の商品やサービスを宣伝する約500のウェブサイトのうち、40%にあたるサイトが誤解を招くような表現を使っているとのことです。今では、企業ではなくインフルエンサーによる公告が、グリーンウォッシュなどに結び付いている場合もあるということです。
2.グリーンウォッシュと指摘された過去の事例
(1)マクドナルド:紙ストローの導入
マクドナルドは、2018年にプラスチックストローを紙ストローに置き換えることを発表し、環境保護を訴えました。しかし、後にこれらの紙ストローがリサイクル不可能であることが明らかになり、環境配慮を装っただけだと批判されました。
これは、企業が小規模な環境対策を大々的に宣伝し、全体的な環境への影響を軽視するという「部分的な対策の過大評価」によるグリーンウォッシュの典型例です。
(2)ボルボ:カーボンニュートラル工場
ボルボは、2025年までに全ての工場をカーボンニュートラルにするという目標を掲げましたが、これは生産工程の一部にのみ焦点を当て、車両の使用時に排出されるCO2についてはほとんど言及していません。
これは、「全体の問題を部分的にしか解決していない」というグリーンウォッシュの手法で、特定の部分での改善を強調し、環境全体への影響が小さいかのように思わせるものです。
(3)コカ・コーラ:プラスチック削減キャンペーン
コカ・コーラは、リサイクル可能なボトルを強調し、プラスチック使用量を削減する取り組みをアピールしていますが、同社は依然として世界最大のプラスチック汚染者の一つです。また、リサイクルの現実的な実行率や、実際のプラスチック削減効果については曖昧です。
これは、「リサイクル可能性の誇張」によるグリーンウォッシュで、製品の一部がリサイクル可能であることを過度に強調し、実際の環境への影響を隠そうとする手法です。
(4)H&M:コンシャスコレクション
H&Mは、持続可能な素材を使用した「コンシャスコレクション」を宣伝し、環境に配慮したファッションを推進しているとしていますが、全体の生産量に占める持続可能な素材の割合はごくわずかです。また、ファストファッション業界そのものが環境に大きな負荷をかけていることから、同社の取り組みが限定的であると批判されています。
これは、「小規模な取り組みを過度にアピールする」グリーンウォッシュの一例です。
(5)BP(ブリティッシュ・ペトロリアム):Beyond Petroleumキャンペーン
BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)は、「Beyond Petroleum(石油を超えて)」というスローガンを掲げ、再生可能エネルギーへの転換をアピールしましたが、同社の収益の大部分は依然として石油やガスから得られています。再生可能エネルギーへの投資は全体のごく一部に過ぎません。
これは、「大規模な誤解を招く宣伝」によるグリーンウォッシュの典型で、環境への取り組みを強調しつつ、実際のビジネスの大部分が環境に悪影響を及ぼしている事実を隠す手法です。
3.グリーンウォッシュがもたらす影響
(1)消費者の混乱と不信感
グリーンウォッシュは、企業が環境に優しいと見せかけることで消費者を誤解させ、どの商品が本当に持続可能であるかを判断することを難しくします。
これにより、企業や環境保護活動全体への不信感が広がる可能性があります。
(2)持続可能性の阻害
グリーンウォッシュが横行すると、本当に持続可能な製品や企業が正当な評価を受けにくくなります。消費者が偽りの環境主張に騙されるようなことがあると、本当に持続可能な製品やサービスが市場で埋もれることとなり、これらの企業や製品が十分な支持を得ることができない可能性があります。
結果として、十持続可能な選択肢の普及が遅れ、全体的な環境保護の進展が妨げられることになります。
(3)環境への実質的な悪影響
グリーンウォッシュは、環境保護を装いながら、実際には環境への悪影響を増大させる可能性があります。例えば、ある商品が「エコフレンドリー」として宣伝され、多くの消費者に購入されると、その製品が実際には環境に対して悪影響を及ぼす場合、全体として環境への負荷が増加します。さらに、消費者が環境に優しいと信じることで、無意識に消費行動を増やす傾向もあります。
これが結果として、環境負荷を増大させることも考えられます。
(4)企業の信頼性の低下
企業がグリーンウォッシュを行うことで、その信頼性が著しく損なわれる可能性があります。グリーンウォッシュが明らかになった場合、その企業は消費者や投資家からの信頼を失い、ブランド価値の低下や売り上げの減少を招くことがあります。長期的に見れば、こうした企業は市場からの支持を失い、競争力が低下する可能性があります。
(5)規制の強化と社会的監視の増加
グリーンウォッシュの蔓延は、政府や国際機関による規制の強化を招く可能性があります。むしろ、環境分野への取り組みが進む欧米では、すでに規制が設けられている国も多くあります。例えばフランスでは、直接的な制裁措置を含むグリーンウォッシュ規制が導入されました。アメリカでも連邦取引委員会がグリーンウォッシュの疑いのある企業の摘発を行っています。
日本では環境省や消費者庁がガイドラインを発表していますが、強い規制はしかれておらず、欧米に比べるとまだまだ遅れている状況です。
こうした規制強化は、企業にとっては新たなコストや制約となり、環境主張をする際にはより一層の注意が求められることになります。
4.グリーンウォッシュを見抜く方法
ここまで、グリーンウォッシュについてだけでなく、さまざまな企業によるグリーンウォッシュの具体例とその手法について述べてきました。これらの事例から、企業がいかにして環境に優しいイメージを作り上げ、消費者を誤解させるかが浮き彫りになりました。
しかし、私たち消費者には、このような誤解を避け、本当に環境に配慮した製品やサービスを選ぶための手段があります。
次に、グリーンウォッシュを見抜き、持続可能な選択をするための具体的な方法について述べていきたいと思います。
(1)目先の情報だけで判断しない
商品を購入する際には、パッケージやイメージ画像に惑わされず、製品の実際の環境影響を調べましょう。
例えば、植物や緑を使ったデザインの「グリーン掃除機」(架空の商品)でも、製造過程で多くのCO2を排出していれば、グリーンウォッシュの可能性があります。
公式サイトで環境対策の詳細を確認し、グリーンウォッシュを疑う口コミなども参考にしましょう。
(2)曖昧な主張には注意
「リサイクル素材を使用」や「環境に優しい成分配合」といった言葉には注意が必要です。具体的な数字や裏付けがない場合、その主張は信頼性に欠けることがあります。商品を購入する際には、「リサイクル素材を〇〇%使用」のように具体的なパーセンテージや根拠が示されているかを確認しましょう。
また、「環境に優しい成分」と表示する場合は、何を根拠に「環境に優しい」と言っているのかも重要です。「しっかりと実験を行い証明されている」「専門機関でその成果を発表している」など、裏付けされた情報であるかも注目しましょう。
(3)専門用語が多い場合は疑う
一般消費者向けの商品に、難解な専門用語が多用されている場合、その商品が「環境に良さそう」という雰囲気だけで消費者を引き込もうとしている可能性があります。環境に優しく良いものと自信をもって販売できるのであれば、多くの人に手に取ってもらえるように企業側もPR方法を工夫するはずです。
商品を購入する前には、理解しやすい説明がされているかを確認し、わかりにくい内容には警戒しましょう。
(4)企業の主張と商品の内容を見極める
企業が環境に配慮した活動をしていると宣伝していても、商品自体が環境に優れているとは限りません。「環境に良い活動を行っている企業が販売している=商品やサービスも環境に良い」と思いこんでしまう消費者が多く、疑うことなく購入してしまうことがあります。
また、本当はその活動を数年に一度しか実施していないのに、積極的に行っているように見せかけている企業も存在します。企業の活動と商品の具体的な環境影響が一致しているかどうかを確認し、ズレがある主張には注意を払うようにしましょう。
5.グリーンウォッシュを防ぐための戦略とアクション
先ほどは私たち消費者がグリーンウォッシュを見抜く方法を紹介しましたが、ここでは企業がグリーンウォッシュを防ぐために行うべき戦略とアクションを2つ紹介いたします。
(1)企業内部での監査と教育
グリーンウォッシュを防ぐためには、企業内部での厳格な監査と教育が必要です。
企業は、自社の環境パフォーマンスを定期的に監査し、透明性を確保するための取り組みを強化すべきです。特に、環境関連のマーケティング活動が実際の取り組みと一致しているかを検証することが重要です。
さらに、従業員教育も不可欠です。全社的に環境意識を高めるためには、従業員一人ひとりが環境問題に対する理解を深め、グリーンウォッシュを防ぐ意識を持つことが求められます。
これにより、企業全体で持続可能なビジネスモデルを構築するための基盤が整います。
(2)外部監査と第三者認証の活用
企業が自社の環境主張を信頼性の高いものにするためには、外部の監査機関や第三者認証を活用することが効果的です。独立した機関による評価や認証は、消費者に対して企業の主張が信頼できるものであることを示す強力な証拠となります。
例えば、ISO 14001(環境マネジメントシステム)やFSC(森林認証制度)などの国際的な認証は、企業が環境に対する責任を果たしていることを証明する手段として広く認知されています。
これらの認証を取得することで、企業は消費者や投資家に対して、透明性と信頼性をアピールすることができます。
6.社会全体として持続可能な未来を実現するために
(1)消費者の役割
・情報収集と批判的思考
製品やサービスの環境への影響について調べ、グリーンウォッシュの可能性がある企業の宣伝に惑わされないようにすることです。曖昧な主張には注意し、具体的なデータや第三者の評価を確認する習慣を身につけます。
・持続可能な選択
本当に持続可能な製品やサービスを選ぶことで、環境に配慮した企業を支持し、グリーンウォッシュを行う企業への経済的な圧力をかけます。
・意識の共有
自身の環境意識を高めるだけでなく、周囲の人々にもその重要性を伝えることで、社会全体の環境意識を向上させます。
(2)企業の責任
・内部監査と透明性の確保
定期的な環境パフォーマンスの監査を実施し、実際の取り組みとマーケティングの整合性を確認することです。また、消費者に対して透明性のある情報を提供し、誠実なコミュニケーションを図ります。
・第三者認証の活用
独立した認証機関や外部監査を通じて、自社の環境主張を信頼性の高いものにすることです。ISOやFSCなどの認証を取得することで、消費者や投資家に対して自社の取り組みを証明できます。
・長期的な視点での取り組み
短期的な利益を追求するのではなく、持続可能な未来を見据えた長期的な戦略を策定し、環境に優しい製品開発やエコフレンドリーなビジネスプロセスを確立することです。
(3)政府とNGOの役割
・規制の強化とガイドラインの策定
グリーンウォッシュを防ぐために、企業が環境主張を行う際の透明性を確保するための規制やガイドラインを策定することです。企業が環境に悪影響を及ぼす活動を行わないよう、厳格な監視体制を敷きます。
・環境教育と啓発活動の推進
消費者や企業に対して、持続可能な選択や行動を促すための教育や啓発活動を推進することです。特に、学校教育や公共キャンペーンを通じて、社会全体の環境意識を高める取り組みを行います。
・持続可能な経済への転換支援
持続可能なビジネスモデルを採用する企業への支援策を提供し、エコフレンドリーな技術やイノベーションを促進することです。また、社会全体が持続可能な経済へと移行できるよう、政策的な枠組みを整備します。
7.まとめ
グリーンウォッシュは、環境意識が高まる現代において、企業や消費者にとって大きな課題となっています。見かけだけの環境主張に惑わされず、本当に持続可能な選択をするためには、消費者自身も情報に基づいた判断を行うことが求められます。企業も、短期的な利益にとらわれず、持続可能な未来に向けた本当の取り組みを進める必要があります。持続可能な社会の実現には、企業と消費者の双方が責任を果たすことが不可欠です。