劇の演出方法はどう変わってきた?歴史と電化機器による多様化
現代の舞台劇では、照明や音響など、さまざまな場面で電気を活用し、効果的な演出が行われています。では、電気が存在しなかった時代、あるいはまだ普及していなかった時代の舞台劇では、どのような演出が行われていたのでしょうか。
この記事では、人類史の中で舞台劇の演出がどのように変化してきたのかを、電気との関わりも含めて解説します。舞台劇の演出の歴史に関心がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
電気がなかった時代の舞台演出
人類と舞台劇の関わりは古く、古代ギリシャやローマの時代にはすでに演劇が楽しまれていました。そのため、舞台演出も当時から行われていましたが、当然ながら現代のような電気を利用した演出装置はありません。
では、電気がない時代の舞台演出とは、どのようなものだったのでしょうか。電気を使用しない舞台演出には、一定以上の明るさを確保しにくいという制約があります。電気の登場以前の演出では、そうした暗さや制約そのものが効果的に用いられていました。
自然光の劇場
古代ギリシャやローマでは、娯楽として舞台劇が親しまれていました。この時代の劇場は屋外にあり、円形または半円形をしていたのが特徴です。
劇場の客席には自然光を取り入れるための傾斜が設けられており、周囲に植えられた樹木の影と相まって、効果的な演出が行われていました。しかし、太陽光を活用して演出を行う以上、いつでも上演できるわけではありません。
基本的には昼間の上演に限られており、その日の天候によっては十分な演出ができないこともありました。時間帯によっても演出の見え方は異なるため、古代における自然光依存の演出には、多くの制限があったと考えられます。
ろうそく・油灯・ガス灯
自然光に依存した演出から脱却した後も、近世までは制約の多い舞台演出が続きました。
中世頃までは、燃料が貴重で照らせる範囲も狭い油を用いた油灯が使用されており、十分な照明効果は得られませんでした。16~17世紀頃のイタリアでは、ようやくろうそくが導入され、その柔らかな光を用いた舞台演出が一般化します。しかし、ろうそくの灯りは明るさの調整や影の濃淡などの細かな制御が難しく、狙った演出のために多数のろうそくが消費されることもありました。
18世紀頃になると、今度はガス灯が登場します。油灯やろうそくに比べると格段に明るく、舞台全体を照らすような均一な照明効果が得られるようになりました。ガスの量を調整すれば光量を変えることもでき、より狙いどおりの演出が可能になったのです。
とはいえ、現代ほど自由自在に照明を操れたわけではなく、俳優の動きの制限など、依然として制約は残っていました。
戯曲・演技・演出は“現場条件”で決まっていた
当時の照明環境は、世界中で知られるシェイクスピアの戯曲にも表れています。
『ロミオとジュリエット』『ハムレット』など、現代でも上演されている戯曲は、もともと当時の上演条件に沿って作られたものです。そのため、現代の常識で読もうとすると、違和感のある部分も少なくありません。
シェイクスピアの戯曲における「ト書き」と呼ばれる演出指示には、舞台を暗転させるという発想が見られません。現代の舞台劇では、場面転換のために照明を落として真っ暗にする「暗転」が当然のように用いられています。しかし、シェイクスピアの時代である16世紀末から17世紀は、まだ照明効果を人間が自在に制御できなかった時代です。
そのため、舞台を暗転させる手法そのものが存在せず、登場人物のセリフに時間や季節の情報を散りばめることで、場面の転換を示していました。このように、舞台劇の演出や台本の構造は、当時の現場でどのような演出が可能かという条件によって形作られていたのです。
電気の登場が変えたもの
19世紀後半になると、人類は電気による照明を手に入れます。これにより光を自由に制御できるようになり、舞台演出にも大きな変革が起きました。
ここからは、電気の登場以降、舞台演出がどのように変化したのかを見ていきましょう。
白熱電球と演出要素としての舞台照明の成立
電気の登場によって舞台照明に大きな影響を与えたのが、白熱電球をはじめとする電球の普及です。
電球は、ろうそくやガス灯と比べて明るく安定性があり、途中で明るさが勝手に変動したり、火が消えたりするといったトラブルがほとんどありませんでした。そのため、演出家は舞台上でより持続的かつダイナミックな演出を行えるようになったのです。
また、電球は工夫次第で光の色を変えることもでき、演出における色彩表現も発達しました。こうして電気と電球の登場により、人為的に光を制御できるようになったことで、1880年代には狭義の舞台照明史が始まったとされています。
さらに、照明器具のデザインを舞台に合わせて工夫することで、舞台上の小道具としての役割も担うようになりました。
調光装置の発展
舞台劇に電気や電球が導入されて以降、調光装置の発展も演出に大きな影響を与えてきました。
その重要な発明の一つが、限られた部分に集中的に光を当てるスポットライトです。スポットライトの登場以前は、光を用いた演出といっても、舞台全体をまんべんなく照らすものが中心でした。スポットライトの登場により、演者個人や舞台上の一部分だけを照らして、よりドラマ性の高い演出ができるようになったのです。
日本では、正確な時期は不明ながら、明治20年頃から劇場で電灯が使われ始めたといわれています。その後、欧米の事例を参考に抵抗式調光器が導入され、日本でも独自の変圧器式調光器が開発されました。さらに、半導体技術の発展によってサイリスタ調光器が登場し、現代では照明をコンピュータで制御できるまでになっています。
こうした技術の発展によって、舞台上の演出はさらに多様化し、驚くほど複雑になっているのです。
現代の「照明×コンピュータ制御」で演出はどう多様化した?
現代では、照明をコンピュータで細かく制御しながら舞台演出に活用しています。では、そのような制御によって、実際に演出はどのように変化しているのでしょうか。
照明をどのように制御しているのかも含めて、演出の変化を見ていきましょう。
演出照明は“明るさ”から“体験設計”へ
もともと、照明器具は劇場内の明るさを確保するために用いられていました。しかし、照明器具やその制御装置の発達によって、単なる明るさの確保にとどまらず、照明効果そのものによる体験設計が可能になったのです。
コンピュータで照明装置を制御すれば、光の色や明るさだけでなく、光の動きも変化させることができます。そのため、劇中の時間の流れや登場人物の感情の動きなどを、光の演出で表現できるようになりました。これにより、観客の没入感を高め、物語の中へ引き込む効果が生まれています。
照明制御卓でできること
現代の舞台照明では、調光卓や照明制御卓と呼ばれる装置によって、照明機器がコンピュータ制御されています。こうした装置を演出家や照明スタッフが用いることで、さまざまな照明効果を生み出しているのです。
基本的な機能である「フェーダー」では、各照明器具の明るさを調整できます。これによって、舞台上の照明の明るさや色を微調整でき、“いつ・どのくらい・どんな動きで光るか”を設計することが可能です。
「シーンメモリー」という機能を使えば、複数の照明設定を一つにまとめて保存し、プログラムとして呼び出して制御できます。これにより、演出の切り替えをスムーズに行うことができるのです。
適切なタイミングで光によってシーンを切り替えることで、台詞や音楽などと連動しながら没入感を高められます。
「複数種類の機器」を同時に扱うための基礎
舞台上で用いられる照明装置は、一種類だけではありません。舞台演出では、複数の照明装置を同時に制御する必要があります。
照明の制御で重要になるのが、HTPやLTPといった制御の考え方です。HTPは、一般的な照明の調光操作で用いられる方式です。LTPは、ムービングライトやLED照明のように、明るさ以外のパラメータも扱う機器の操作で用いられます。
これらの制御情報は、統一された信号規格であるDMX512によって各照明装置に送られ、舞台上の照明が制御されます。照明制御卓の多くはプログラムを記憶できる機種であり、多段プリセットフェーダー方式やプリセットフェーダーを持たないノンフェーダー方式が主流です。
LEDの普及が“表現”を増やした理由
舞台照明の表現の幅は、LED照明の登場によってさらに広がりました。
LED照明とは、発光ダイオードという半導体を用いた照明器具のことです。従来の電球と比べて消費電力が小さく、長寿命で、安定した照明を実現できます。
LEDの登場により、舞台上の照明は、サイネージや映像作品のような演出にも活用できるようになったのです。
LEDの三大特性で「設置と表現」が変わる
LED照明は、その特性によって舞台照明でも大きな役割を果たしています。
LED照明は小型化が進んでおり、設置時の制約が比較的少ないのが特徴です。そのため、演出家が狙った位置により的確に光を当てられるようになり、演出の幅が広がりました。
また、LED照明は色のバリエーションが豊富で、単色から多色までさまざまな表現を可能にしています。これにより、視覚的に多彩な変化をもたらし、強いインパクトを与えやすくなっています。
さらに、LED照明は瞬時に明るさを変えることができ、制御しやすいという特徴もあります。このように、LED照明が持つ多様な特性によって、舞台上の演出の幅は大きく広がっているのです。
光が“情報/映像”も担う時代
LED照明の導入により、照明器具はライティングとサイニングの両方を担えるようになりました。これにより、舞台上の光が、情報の補完や映像効果も担う時代に入っています。
多彩なカラーバリエーションの実現や調光のしやすさによって、フルカラーでの演出が可能になり、照明としてだけでなく、サイネージやビジョンのような表現にもLED照明が活用されるようになりました。LED照明を活用すれば、光で場面の激しさを強調することも、柔らかな光で穏やかな場面や静かな場面を演出することもできます。
このように、照明装置とその制御機構の発展によって、舞台上の演出は大きく多様化しているのです。
照明以外の電化製品による演出の変化
劇の演出方法に影響を与えたのは、照明だけではありません。クレーンによる吊り物や昇降装置、そのほかの機構など、舞台全体を動かす電動機器の登場によって、演出はさらに拡張されてきました。
ここでは、電動機器の登場以前と以後で、どのような変化があったのかを見ていきましょう。
“クレーン的装置”は昔からあった
そもそも、電動機器が登場する以前から、機械的な装置を用いて舞台演出を行うという発想自体はありました。
機械とは、電気によって動く装置だけを指す言葉ではありません。滑車やロープなど、一定の機構を用いた吊り上げや回転といった演出は、古代ギリシャ時代の劇場でも使われていました。
中世には移動式の舞台装置も導入され、よりダイナミックな演出が行われていたとされています。
吊物機構の変化
舞台での演出を担う装置には、バトンなどの吊り物機構もあります。
こうした吊り物機構は、かつては手動で制御されていましたが、電動機器の登場によって電動制御できるものも現れました。近年では、よりスムーズな動きを実現するために、油圧ジャッキを用いたものも使用されています。
こうした吊り物機構には、照明器具や舞台美術などの重く大きなものが吊り下げられています。万が一、事故によって落下すれば大きな被害につながる可能性が高いため、装置を安全に制御するための機械やプログラムが重要です。
また、照明や舞台美術などを吊り下げる複数のバトンを同時に制御・同期できれば、場面転換そのものを演出として見せることも可能です。照明バトンを昇降させ、光による視覚的なインパクトを場面転換に用いるのは、その一例といえるでしょう。
床機構の電動化で「転換=見せ場」に
現在の舞台劇では、床機構も電動化しています。
床機構とは、ステージの床に設置された演出用の機構であり、床の一部を昇降させたり回転させたりすることで、人物や舞台美術を移動させることができます。これにより、俳優の突然の登場や退場、瞬間的な場面転換、舞台上の奥行きの演出などが可能です。
従来の床機構は人力で動かしていましたが、電動化によって、より制御しやすくなり、安全性も向上しました。そして、ダイナミックな床の演出によって、場面転換そのものを見せ場にすることが可能になったのです。
電源設計が“多様化”のボトルネックになる
今後、演出をさらに多様化させるうえでボトルネックとなるのが、劇場における電源設計です。
電気で動く機器を多数導入するということは、その分、多くの電力とそれを供給する電源設備が必要になるということでもあります。演出を多様化しようとすればするほど必要な機器も増えるため、どのように電力を確保するかが重要です。
一つの電源にあまりにも多くの機器を接続すると、過剰な負荷によって電源が落ちる可能性があります。そのため、仮設電源などを用いて、各機材に適切に電力を供給する設計が求められるでしょう。
また、ケーブルや電源設備を適切に管理しなければ、火災が発生する可能性もあります。各機材に不足なく、かつ安全に電気を供給するには、どのような回路を構成すべきかが今後の課題となっていくでしょう。
まとめ
照明装置や舞台装置の電化により、舞台劇における演出方法はより多様に進化してきました。その一方で、電気を使用する機材が増えたことによる電源確保の難しさが課題として挙がっています。
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エコモは各地を飛び回って、電力・エネルギーや地球環境についてお勉強中なんだモ!色んな人に電気/ガスのことをお伝えし、エネルギーをもっと身近に感じてもらいたモ!

