心理学から見る、環境問題への招待
所属:目白大学
インターン生:Y.Hさん
環境問題と心理学、一見すると全く違う分野の話に聞こえます。しかし、環境を考え、行動することも心や感情と密接に関わっているのです。環境について私たちがどのように考え、行動しているのかを心理学から考えてみませんか?
環境問題と対策の歴史
はじめに、環境問題と対策の歴史を簡単にたどっていきます。環境問題が日本で最初に取り上げられたのは、1960年代の公害問題です。高度経済成長期に発展した重化学工業による産業公害問題が起こりました。
特に四大公害病と呼ばれる「水俣病」「新潟水俣病」「イタイイタイ病」「四日市喘息」は社会の授業で取り上げられています。この公害問題は裁判の場で争われ、すべて原告が勝訴しました。
また、産業公害問題にたいして政府から公害に関する法案が採択された他、環境庁が設置されるなど、国・企業ぐるみでの公害防止の取り組みによって、公害大国から公害防止先進国へと変わっていきました。
続いて問題になったのが、1970年代に発生した2度にわたるオイルショックです。第一次オイルショックでは、中東で発生した戦争によって石油価格を引き上げられた他、原油生産を制限されたため、日本の経済はインフレし、打撃を受けました。
また、紙節約を訴えられたことからトイレットペーパーを買いだめしようと買い物客が殺到した、トイレットペーパー騒動の写真を教科書で見たことがある人もいるかもしれません。
第二次オイルショックでは革命によってイランからの石油輸入がストップしました。しかし、第一次オイルショックがあったこともあり、経済への影響は少なくすみました。二度のオイルショックによって、日本の環境問題だけでなく世界の環境問題へと関心が移ることになります。
世界に目を向けると、1972年に国連人間環境会議が開催され、「人間環境宣言」や「世界環境行動計画」が採択されたことで、環境について世界全体で考えていく流れがスタートしました。1984年には国連が日本の提案によって「環境と開発に関する世界委員会」を設置し、現在強く関心をもたれている「持続可能な開発」という言葉が普及し始めています。
1990年代へ入ると、地球環境そのものへの環境問題へも関心が持たれ始めました。地球温暖化やオゾン層の破壊、海洋汚染などが主な関心となります。地球環境問題の特徴として、影響が長期にわたること、地球環境自体が変動するので被害を受ける人が多数にわたることがあげられます。また、テクノロジーの進歩による解決が困難なこともあり、世界全体で対策に取り組むことがより重要視されました。
地球温暖化対策に世界全体で取り組むために行われたのがCOPと呼ばれる「気候変動条約・締約国会議(COP)」です。1997年に行われたCOP3は京都で行われ、京都議定書が採択されました。
2005年に京都議定書が発効され、日本には2008年~2012年のまでに6%のCO2排出量削減が求められました。日本は、京都議定書目標達成計画を策定し、企業の排出量削減や新エネルギー対策の推進により、-8.4%の排出量削減を達成しました。
京都議定書は2012年までの取り組みだったため、2013年以降の排出量削減の協定が必要となり、2015年にパリで開かれたCOP21でパリ協定が採択されました。
京都議定書は温暖化ガスの排出量を削減することが目標でしたが、パリ協定では世界平均気温の上昇を産業革命以前の2度未満に抑えることが目標になりました。また、今世紀末にはCO2の排出量を自然の吸収量と均衡させることを目指しています。
また、持続可能な社会に向け、2015年には「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、現在関心がもたれているSDGsへの動きが加速しています。日本では第5次環境基本計画として策定され、行動に移されています。
ここまで、簡単に環境問題と対策についてみてきました。時代の流れとともに問題が変化し、対策も国レベルから国際的なレベルへと拡大していったことがわかります。しかし、私たち個人でも省エネ活動は行っています。各レベルではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
環境問題対策の6つのレベル
今井(2007)は環境対策について、国際レベルから個人レベルまで、6つの段階に分かれていると述べています。
①国際レベル
最も大きなレベルでの環境対策が国際レベルです。ここに当てはまるのは国家間の温室効果ガス排出量の取り決めで、京都議定書やパリ協定が当てはまります。地球全体で取り組むため効果が大きいですが、先進国と発展途上国で考え方の違いから対立したり、アメリカが不参加だったりと課題も多いです。
②国レベル
次に大きいのが国レベルです。一部国際レベルとも重複しますが、代替エネルギーや、二酸化炭素の回収・貯留技術の研究開発が行われているほか、国内の各種法整備が行われています。日本では環境省によって「チーム・マイナス6%」と呼ばれる、国民的プロジェクトも行われています。
③地方自治・地域レベル
地方自治レベルで行われている中で最も身近なのが、ゴミの分別回収です。その分、自治体によって分別回収の方法が異なるといった課題もあります。また、道路や公共施設建設といった公共事業の環境への影響を評価することや、条例整備も行っています。
④企業・事業者レベル
国や自治体といったレベルでは、環境対策の枠組みを決めることや技術開発を中心としていましたが、企業ではその決められた枠組みを実行することが求められています。冷暖房を適切に利用することや、環境保全運動を実行し、環境対策を行うレベルです。
⑤家庭レベル
私たちに身近なレベルの1つです。具体的には牛乳パックや新聞紙のリサイクル、風呂の残り湯を選択に利用する。エコバックの持参、ゴミの分別や減量化が挙げられます。家族全体で取り組んでいくことが求められる活動が主です。
⑥個人レベル
家庭レベルと区別は明確ではないですが、特に自分ひとりからでも取り組める行動です。使わない部屋の電気は消す、衣服で室温を調節する、ゴミの減量化、公共交通機関の利用といったものが挙げられています。
私たちの身近な生活レベルから、国際レベルでの大きな枠組みの取り組みまで、様々な範囲で取り組まれていることをご理解いただけたと思います。次は、本稿の本題、「心理学から見たエコ活動のメカニズム」について解説します。
エコ活動の心理的メカニズム
現代に生きる私たちにとって、エコや省エネといった言葉は非常に身近なものになりました。リサイクルやリユース、ゴミの分別などを日常的に行っている人も多いのではないでしょうか。しかし、分別をついついめんどくさがってしまったり、リサイクルできるものもゴミに出してしまうこともあるかもしれません。そのとき、私たちはどのように考え、行動を選択しているのでしょうか。
3-1.私たちはどのようにして行動するのか
社会心理学では、私たちが行動するまでどのような心のプロセスをたどるのかについてのモデルが示されてきました。
①知識の段階
対象について知っていて、それを自覚しているということです。客観的な知識量より、自分は対象をを知っていることを自覚しているか否かということが重要になります。
②関心の段階
ただ対象をを知っているだけではなく、興味や関心を示し、どんなことがおきているのかを知ろうとしていきます。関心の強さが、その後の動機や行動意図、実際の行動まで影響していく重要な要素です。
③動機の段階
関心の段階と同じくして、対象に対して行動したい、関わりたいと考える段階になります。しかし、具体的にどのような行動をするのかは決まっておらず、漠然とした目的意識のみです。
④行動意図の段階
関心と動機が高まると、行動意図の段階へと変化します。対象に対して、行動したいと思い、具体的な行動を選択するプロセスです。4段階目の行動選択が、実際の行動につながっていきます。
3-2.心理学で考えられてきた省エネ行動への心のプロセス
より具体的な省エネ行動の心理プロセスのモデルはいくつも考案されてきました。行動を選択するためにどのような要因が影響しているのかが、モデルを考える上でのカギとなります。
かつて、省エネのための行動は、危機対処の理論として考えられていました。Honold & Nelson(1979)の危機対処モデルは、①「エネルギー問題は深刻なのかどうか」を考えた後、②「省エネはエネルギー問題に有効なのか」を考え、有効な場合には実行し、有効ではない場合は実行しないという考え方です。
この考え方は、水不足の際に節水をするか、無農薬食品を購入するかといった、個人で行える行動を予測することができます。また、庭先でゴミを焼却するか否かを決定する、Van Liere & Dunlopの規範喚起モデルでは、①「汚染の深刻さの認知」と②「汚染に対する責任感」が「ゴミを庭先で燃やすべきでないという個人的規範」を喚起して、庭でのゴミ焼きを自粛するというメカニズムが考えられています。
McClellad & Canter(1981)の社会的トラップモデルといわれるものは、エネルギーを消費することで得られる利益はすぐ得られるのに対し、環境問題を引き起こすコストは時間が経過した後々に起こるため、コストより個人の利益を優先してしまい、結果として環境問題という被害を引き起こしてしまうトラップにはまっているという考え方です。
また、Seligman & Ferigan(1990)も、自分の利益を得るのか、社会的規範を守るのかに基づいて判断すると考え、公共の場面では社会的規範を、私的な場面では自己の利益を優先するといった考え方になります。双方とも、環境へ配慮するか、資源を消費するかの選択に個人の注意が向かっています。
広瀬(1994)は、上記のモデルを参考に環境配慮行動の2段階モデルを提唱しました。1段階目は、環境問題に対して、環境を大切にしたいと考える態度を持つかどうかの段階になり、2段階目では自分の態度を実行に移すかどうかを考える段階になります。また、各段階において影響を及ぼす3つの要因があります。
【1段階目:環境に対する態度を決めるモノ】
①環境リスク認知:環境汚染がどの程度深刻なのかの知っている危機感。
②責任帰属の認知:環境汚染や破壊の原因が自分にもあると考える責任感。
③対処有効性認知:自分たちの行動によって効果がでる有効感。
例えば、イベント後のゴミ回収ボランティアでは、①イベント後の会場は空き缶やペットボトル、紙皿などが散乱しています。それを見て、汚い、不快感を感じる方は多いと思います。
②自分もそのイベントに参加していたならば、自分たちで片付けるべきだという責任感が喚起されます。
③自分たちが実際にゴミを回収することで、会場はきれいになることは容易に想像できるでしょう。こうして、「ゴミ回収をしたほうがいいな」という態度が形成されていきます。
【2段階目:環境に対する配慮を行動に移すか決めるモノ】
①実行可能性評価:実行するための知識・技能・チャンス。
②便益・費用評価:行動をした場合のメリット・デメリット。
③社会規範評価:他の人が自分の行動をどう思うか。
先ほどの例に従ってゴミ回収で考えて見ましょう。①実行するためには、軍手やゴミ袋のようなすぐに用意できるもので始められることができます。
②デメリットとして多少のお金がかかりますが、気持ちよく終わることができることを考えると、悪くはなさそうです。会場を利用させてもらったという責任感も後押ししてくれます。
③ゴミを回収する行動は他の人からも評価してもらえそうです。サッカーワールドカップの試合終了後に日本人が行ったゴミ拾いが、海外で高く評価されたことは皆さんも知っていると思います。このようないくつもの要因が影響を及ぼして私たちの「ゴミ拾いをしよう」という行動が生まれてくるのです。
また、広瀬(1994)の研究によって判明した中でも重要なことは、行動したいと考えていても、実際に行動に移すとは限らないことです。この記事を読んでいる方の中にも、やらなきゃいけないと思っていながら、行動に移せないことを経験したことがあるのではないのでしょうか。
面倒くさい、分別が大変、費用がかかるなどのデメリットに対して行動のメリットは目に見えて返ってこないため、行動に移すことを忘れてしまう、やめてしまうといったことにつながってしまうのです。では、環境へ配慮した行動を行うためにどのようなアプローチができるのでしょうか。
環境へ配慮するための3つのアプローチ
第一に、環境へ配慮しようと思う態度を形成することが重要です。そのために、1段階目の危機感・責任感・有効感を刺激し、エコへの意識を高めることが必要になってきます。
そのためには、マスメディアや口コミで情報を提供し、日ごろから環境問題、エコについて関心を高めることが重要になります。私たちも、ニュースサイトやSNSを通して環境問題やエコに関する情報を学んでいくことが大切です。
第二に、高めた意識と行動を結びつけるアプローチが必要になります。日ごろの態度や行動を振り返りることで、できていることは継続し、できていない事は改善することができます。
改善の指標として使えるものに、電気代や水道代、ガス代ななどの明細があります。どれだけ消費したのかは明細に併記してあるので、毎月グラフをつけていくことで、消費量の変化を確認することが可能です。
心理学的にいうと、人間は行動に応じて返ってきたフィードバックによって、その後の行動が増えるか、減るかが決まってくる、オペラント学習理論というものがあります。行動によって良かったと思えたり、嫌なことが減ったと感じられれば、行動は増加していきます。逆に、行動によって嫌なことが起こったり、良かったことがなくなってしまうと、行動は減っていきます。
省エネ活動は日々の生活の中で行うにも関わらず、環境が良い方向に変化していくというメリットが見えません。ですので、省エネを数値化することや、家計へのメリットも含めて考えることで自分の行動が可視化され、続けたいと思う助けのひとつとなります。
第三に、実際に行動に移すために心の壁を取り除くアプローチが重要になります。やりたくてもやり方がわからない、やっても成果が見えてこない、無理して続けてしまうとやる気は長続きしません。
やり方がわからない方には、どんな省エネ方法があるのかを提示してくれるサイトがあります。参考にしてみてください(参考:資源エネルギー庁省エネポータルサイト)。また、電力自由化を活かして、CO2排出量の少ない電力会社に切り替えることも可能です(参考:新電力ネット新電力会社一覧)。
環境問題は現代に生きる私たちが直面している大きな課題です。しかし、ひとりひとりが無理の無い範囲で省エネ行動をとることで地球環境を持続させていくことができます。