ファストファッションの環境への影響とは
所属:跡見学園女子大学
インターン生:A.Tさん
服は個性や表現を通じて自己を示す手段の一つであり、日々を豊にしてくれます。様々な流行を生み出してきたファッション業界は今、SDGs実現に向けてますます注目される環境問題の解決を求められています。 特に、ファストファッションと呼ばれるブランド業態が、環境への影響を本格化させているのが現状です。そこで、ファストファッションが抱える環境問題に焦点を当て、及ぼしている影響や解決策について考えていきます。
そもそもファストファッションとは
ファストファッションとは、「安く・早く・手軽」なファストフードになぞらえており、「流行の最先端をいち早く取り入れた、低価格で、ほどよい品質」のファッションの生産、流通、販売をするブランド業態のことをいいます。
ファストファッションの誕生で、最新のファッションは値段が高く、一部の限られた人しか対象にしていないというこれまでのファッションの常識を覆しました。主なブランドはスウェーデンのH&M、スペインのZARA、米国のGAP、日本のUNIQLO・GU・しまむら・WEGOなどです。以下に、ファストファッションの主な特徴について詳しく説明します。
1.低価格
ファストファッションの特徴としてまず挙げられるのが、比較的低価格な商品の提供です。これは、効率的な供給チェーン、大量生産、安価な材料の利用、そして低コストな労働力など、様々な要因によって実現されています。
2.消費者志向
ファストファッション企業は、消費者の要望や需要に素早く応えることを重視しています。トレンドの変化や季節ごとの需要の変動に迅速に対応し、多様な商品を提供します。これによって顧客を飽きさせずに何度も店頭に足を運んでもらうことができます。
3.社会的影響
ファストファッションの成長は、一部の地域での伝統的な手工業や小規模な生産者を圧迫することがあります。また、低価格の影響で長期的な品質やデザインの重要性が軽視される場合があります。
4.労働環境の懸念
ファストファッション業界は、低賃金での労働者雇用、大量生産のための長時間労働、児童労働や強制労働などの人権侵害と労働環境が問題となっています。労働者たちは長時間働いても、労働に見合った報酬が払われないケースがほとんどです。一方で、これらの労働環境が明るみに出るようになり、労働条件の改善を求める声も年々高まっています。
5.環境への影響
ファストファッションの急速な生産サイクルと低価格戦略は、環境への影響が指摘されています。国連貿易開発会議(UNCTAD)では、ファッション業界が世界で第2位の汚染産業とみなされているのです。大量の衣料品が生産され、一部は短期間で廃棄されることがあり、廃棄物や環境負荷が増加する恐れがあります。この記事では環境への影響をさらに深堀っていきます。
資源の過剰消費と廃棄物の増加
服がごみとして出された場合、再資源化される割合は5%程でほとんどはそのまま焼却・埋め立て処分されます。その量は年間で約48万トンです。この数値を換算すると大型トラック約130台分を毎日焼却・埋め立てしていることになります。ファストファッションは低価格と流行の追求を重視するため、大量の資源を使用し、短期間で大量の衣料品を生産します。これにより、繊維資源や水、エネルギーなどの過剰消費が生じ、廃棄物も急増しています。
繊維産業の水・化学物質使用
衣料品の製造には多量の水が必要であり、ファッション業界は毎年、930億立方メートルという、500万人の ニーズを満たすのに十分な水を使用し、約50万トンものマイクロファイバー(石油300万バレルに相当)を海洋に投棄しています。また染色や加工には有害な化学物質が使用されることがあります。これが地域の水資源や水生生態系に悪影響を及ぼすことがあります。
環境への負荷と気候変動
輸送や生産の過程で排出される二酸化炭素などの温室効果ガスは、気候変動に大きく関係しています。温室効果ガス(GHG)排出量は合計12億トンのCO2に相当し、これは国際航空業界と海運業界を足したものよりも多い量を排出していることになります。また、廃棄される衣料品の一部は焼却処理されるため、有害な化学物質が放出されることもあります。
SDGs実現に取り組む企業・ファッションブランド
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)は、国際連合が2015年に採択した17の目標であり、2030年までに貧困、飢餓、不平等、気候変動などの重要な課題に取り組むための枠組みとして位置づけられています。これらの目標の達成は、政府だけでなく、企業やファッションブランドなどの協力が欠かせません。ここでは、SDGsの実現に取り組む一部企業とファッションブランドについて紹介します。
BAYCREW’S(ベイクルーズ)
東京都渋谷区を拠点とするアパレル企業です。ファッション業界が抱える問題のうち、最も大きいもののひとつが廃棄衣料です。ベイクルーズでは、スタッフが所有するファッションアイテムをリユースするショップ「CIRCULABLE SUPPLY」を運営しています。CIRCULABLE の名前の通り、不要になったものを捨てるのではなく、必要な人の元へ循環させる仕組みになっています。
Patagonia(パタゴニア)
アメリカ・カリフォルニア州に本社を置く衣料品、アウトドア用品などを製造販売するメーカーです。2019年、国連における最高の環境賞である「地球大賞」を受賞しています。原材料の生産から店舗での販売まで全てのサプライチェーンに渡り、環境的、社会的責任に配慮するサステナブル先進企業です。
GAP(ギャップ)
アメリカ・サンフランシスコに本社がある衣料品ブランドです。気候、水、廃棄物や衣料品の循環性から従業員の地位向上、人権まで、包括的にサステナブルの実現に取り組んでいます。
H&M(エイチアンドエム)
スウェーデンに本社を置く衣料品ブランドです。ファストファッションブランドの代表とも言えるH&Mですが、「サステナブルファッション」についてお客様とともに考える活動をしており、環境・社会に配慮した活動を進めています。主な活動として、屋外広告やデジタルビジョン、Twitterでのキャンペーンなどを行いました。グローバルなファッションブランドの代表格として、ファッションとクオリティを最良の価格で提供しています。
GUCCI(グッチ)
誰もが知るハイブランドのグッチは独自の環境損益計算「EP&L」を開発し、全製品の環境負荷値を数値化しています。特にブランドの代表的な取り組みは、革製品において、クロム化合物の使用を中止し、効率的な皮革カットによる廃棄物削減などです。その結果、137トンのレザーくず削減、2,100万リットルの水消費量削減、CO2排出削減12,353トンを達成しました。さらに、海洋ごみを回収してリサイクルした再生ナイロンを使用するなどの取り組み等によって、グッチの親会社であるケリング・グループは「世界で最も持続可能な企業100社」の2位にランクインしました(2019年)。
GAPやH&Mのようにファストファッションでありながら、環境に配慮した取り組みを行っている企業もあります。これらの企業とファッションブランドは、SDGsをビジネス戦略に統合することで、環境、社会、経済の側面にわたる持続可能な変革を推進しています。この取り組みは、SDGsの達成に向けた一歩として重要な役割を果たしており、他の企業やブランドに良い影響を与えていると言えます。
持続可能なファッションへ
現在、「大量生産・大量消費・大量廃棄」の一方通行(リニア)型から、「適量生産・適量購入・循環利用」により、廃棄される衣服が少なくなる循環(サーキュラー)型への取り組みが始まっています。持続可能なファッションは、単なる流行にとどまらず、環境と社会に配慮した新たな価値観を提案しています。企業と私たち消費者が協力して、より持続可能な未来を築くためのファッション選択を進めていくことが、重要となってきます。以下では、企業と消費者が持続可能なファッションに向けてできる具体的な取り組みについて考えてみましょう
。1.企業が取り組むこと
先進的に取り組む企業による連合組織「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」が2021年に設立され、 2050年に向けて「カーボンニュートラル」「ファッションロスゼロ」を実現することを目指した取り組みが始まっています。
服から服を
リサイクル技術の更なる研究開発や低コスト化への取り組み等、個社だけでなく産業全体として衣服を再生させる仕組みの構築が求められています。ダウンサイクルさせず服から服を作る取り組みが始まっています。
長く着られる服作り
安価での提供のための雑な服作りではなく、長期間着られることを前提とした商品企画、服作成を行うことが求められます。
適正な在庫管理
事前予約受注で売れ行きを予測してから発注するなど適正在庫に取り組み、アウトレットでの販売などを通じて最終的な売残りを数%に抑えられている企業も存在します。衣類ロスの削減は環境問題解決の大きな一歩となります。
情報提供
企業は製品の製造過程や素材の起源に関する情報を透明に提供することで、消費者が選択をする際の情報を提供する役割を果たすべきです。消費者の意識改革のためにもわかりやすく正確な情報の提供が求められます。
2.消費者ができること
購買の意識
持続可能なファッションに向けては、安価なファッションに対する消費の縮小が求められます。私たちの衣類の購入単価は年々減少傾向にあります。品質の良いアイテムを選び、必要なものだけを購入することで、過剰な消費を避けましょう。
服の手入れ
衣類やアクセサリーを適切に手入れすることで寿命を延ばし、想い入れのある一着を長く着ることで廃棄物の減少につながります。洋服の修理やリメイク、クリーニングの際には、環境に配慮した方法を選びましょう。
サステナブルなブランドの支持
持続可能なブランドやエシカルなブランドを支持することで、市場にその需要を示し、より多くの企業に持続可能な方向への転換を促すことができます。
情報共有
消費者同士で情報や知識を共有し、持続可能なファッションの重要性を広めることで、より多くの人々が行動を起こす契機となる可能性があります。
まとめ
ファストファッションの環境問題は、環境破壊や資源の過剰消費など、深刻な影響を引き起こしています。しかし、一人ひとりの意識の変革、そして持続可能なファッションへの転換でこれらの問題に対処する道が開かれています。ファッション業界と消費者が連携し、地球と社会にやさしい未来を創るための努力が求められています。