その選択はペットと環境、どちらにも優しいものですか?
所属:跡見学園女子大学
インターン生:Y.Iさん
「特定外来生物」という言葉を耳にしたことはありますか?口で説明するのは難しいですが、生態系にとって良い影響を与えない悪い生き物という漠然としたイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。では、「条件付特定外来生物」という言葉を耳にしたことはありますか?おそらく多くの方が「特定外来生物」と「条件付特定外来生物」の違いを説明することができないのではないのでしょうか。可愛いから生き物を飼いたい、という安易な考えが生態系に影響を及ぼす可能性があります。この記事で外来生物についての問題を知り、熟考した上でペットを飼育する方が増えることに繋がれば幸いです。
はじめに
ペットを飼いたいと思ったことはありますか?最近は動画サイトやSNSで可愛い動物を見ることが出来ます。コロナ禍でペットの需要が高まっているというニュースも一時期話題でした。実際に、コロナ流行前の2019年と比べて2020年、2021年の新規飼育者飼育頭数、新規飼育世帯数はともに増加しています。しかし、その裏では問題が発生していることは知っていますか。ホームステイ期間中にペットを飼い始めたものの、通常の生活に戻り始めると、仕事が忙しくて世話をすることができないというケースやペットが大きくなり、想像以上に餌代が掛かり面倒を見きれなくなるケースなどがありました。また、旅行先にペットを連れて行きそのまま置き去りにしたケースもあったそうです。このように、一時の感情に任せ、将来について深く考えずにペットを迎える非常に浅慮な人達がいました。
これらの話では犬や猫の場合が多いですが、ペットといってもカメ、金魚、ザリガニ、インコなど様々な動物がいます。果たして飼い主、若しくはこれから飼い主になろうとしている人はどのくらい自分のペットに理解があるのでしょう。生き物を飼うということはいろいろな意味で責任があります。自分のペットに対してきちんと理解をすることも責任の一つであると思います。特に、川や池で捕まえた生物を飼おうとしている場合、自分が捕まえた生物が何であるのか、知らなければなりません。生き物を飼うことを決めた以上、「知らなかった」では済まされません。外来生物(外来種)とは?
環境省の用語集によると、外来生物とは、海外などの本来生息している場所または生育地の外に何らかの方法で国内に運び込まれ存することになる生物と定義されています。つまり、国外から導入されたものが対象で、国内のものは指しません。外来種は人為的に自然分布している範囲の外に移動させたことによって、その生物が本来の能力で生息できる範囲の外に存する生物種と定義されています。厳密に言えば、外来生物と外来種は異なる定義を持ちますが、同じ意味で用いられることが多いです。
身近なところに存在する外来生物
道端に咲いている花を見て、きれいだな、と深く考えずに思うことがあると思います。余程の興味が無ければ、その花の名前を知ろうとは思わないでしょう。ここでは、身近な外来生物を4種類紹介していきます。もしかしたら意外な生物が含まれているかもしれません。
ナガミヒナゲシ
この植物を見たことはありますか?春先に咲いているのをよく見かけます。かわいらしい形と優しい色が特徴的ですね。実はこの植物、「ナガミヒナゲシ」といって外来生物なのです。
和名 | ナガミヒナゲシ |
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学名 | Papaver dubium |
原産地 | ヨーロッパ |
開花時期 | 4~6月 |
分類 | ケシ科/ケシ属 |
車のタイヤに種子が付着することによって日本全国に広く分布していったと考えられています。アレロパシーという他の植物の成長を阻害する作用があることから、生態系に影響を及ぼすとされ、多くの自治体では駆除を呼び掛けています。しかし、駆除が難しいことに加えて、可愛らしい見た目から残してしまう場合が多く、なかなか減らすことが出来ていないというのが現状です。
シロツメクサ
小さい頃、四葉のクローバーを探したり、花の冠を作ったりした人は多いのではないでしょうか。実はシロツメクサも外来生物なのです。
和名 | シロツメクサ |
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学名 | Trifolium repens |
原産地 | ヨーロッパ |
開花時期 | 4月~10月 |
分類 | マメ科シャジクソウ属 |
もともとは、ガラス器を衝撃から守るために使用されていたそうです。日本には明治時代に牧草として導入されました。それが全国に分布して現在に至ります。しかし、シロツメクサに悪いイメージを持つ人はあまりいないですし、驚異的な繁殖力を持つためこれからも分布し続けるでしょう。
モンシロチョウ
誰しもがモンシロチョウを見たことがあるのではないでしょうか。ヒラヒラと飛ぶ姿はとても美しく、惹かれるものがあります。そんなモンシロチョウも外来生物です。
和名 | モンシロチョウ |
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学名 | Pieris rapae |
分類 | 節足動物門/昆虫綱/チョウ目/アゲハチョウ上科/シロチョウ科 |
奈良時代にダイコンや菜の花が持ち込まれた際に混入したと考えられています。モンシロチョウの幼虫の食草はキャベツ、ブロッコリー、アブラナ、ショカッサイ、イヌガラシ、タネツケバナなどのアブラナ科の植物を食べます。農業では害虫で、駆除の対象です。
ホテイアオイ
ホテイアオイは水草としてお馴染みです。ホテイアオイのホテイは漢字で「布袋」と書きます。葉の付け根の部分が膨らみ、浮袋の役割を果たしているのですが、この浮袋が、日本では七福神の一柱として信仰されている「布袋尊(ほていそん)」のふくよかな体型に見立てられて名付けられました。しかし、繁殖力が強すぎるため、水面を覆いつくし、他の植物の成長を妨げてしまうとても厄介な面があります。
和名 | ホテイアオイ |
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学名 | Eichhornia crassipes |
原産地 | 南アメリカ |
開花時期 | 6月~11月 |
分類 | ミズアオイ科ホテイアオイ属 |
外来生物が意外に身近な存在であることをご理解いただけましたでしょうか。
特定外来生物とは?
先ほど、外来生物について紹介しました。では、よく耳にする「特定外来生物」とは一体何なのでしょうか。
特定外来生物とは、外来生物の中で、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼす、又は及ぼす恐れがある生物のことを指します。現在、特定外来生物に指定されている生物は、哺乳類25種類、鳥類7種類、爬虫類22種類、両生類15種類、魚類26種類、昆虫類25種類、甲殻類6種類、クモ・サソリ類7種類、軟体動物等5種類、植物19種類の合計157種類です。
特定外来生物に指定された生物は輸入、放出、飼養等、譲渡しなどの禁止といった規制が設けられています。
条件付特定外来生物とは?
「条件付特定外来生物」とは外来生物に指定された生物のうち、特定外来生物に布かれている規則の一部を当分の間適応対象外とする生物のことを指します。2023年6月1日より規制が始まり、2023年8月現在、条件付特定外来生物に指定されているのは、アカミミガメとアメリカザリガニの2種類のみです。
規制内容
アカミミガメとアメリカザリガニの規制内容について詳しく見ていきます。
捕獲 | 飼育 | 無償提供 | 放出 | 販売・頒布・購入 |
---|---|---|---|---|
○ | ○ | ○ | × | × |
まず、規制が始まってからも今までと同じように飼育することが出来、許可や申請は必要ありません。アカミミガメとアメリカザリガニは特定外来生物と違い、捕獲し、飼育することが可能です。また、頒布(有償・無償を問わず、不特定多数または特定多数の者に配り分ける行為)ではない、無償での提供であれば許可なしで可能です。放出、販売・頒布・購入については特定外来生物と同様に禁止されています。
ここで注意したいことは、アカミミガメとアメリカザリガニは捕まえて飼育できますが、一度飼ってしまったら野外に放出することが出来なくなるということです。アカミミガメとアメリカザリガニが自力で逃げ出した場合でも、適切な飼育が行われていなかったと見なされ違法となる場合があります。違反すると罰金、罰則の対象になるので注意が必要です。
特定外来生物と条件付特定外来生物の影響
では、具体的に特定外来生物と条件付特定外来生物はどのような影響を及ぼしているのでしょうか。ここでは3つの視点から影響について見ていきます。
生態系への影響
アメリカザリガニを例に見ていきましょう。アメリカザリガニによる生態系への被害は大きく分けて3つです。
1.在来種への直接的な影響
アメリカザリガニは水草を切断します。その結果、住処を失う小魚や両生類が発生し、アメリカザリガニに捕食されてしまいます。水草や動物が減少することによって食物連鎖や栄養分が分解されるサイクルなどが崩壊し、後に残るのは悪化した水質とその環境でも生きていけるアメリカザリガニなのです。
2.種間相互作用、生態系全体への影響
アメリカザリガニの個体数を抑制する上位捕食者がいなくなると爆発的にアメリカザリガニが増加することがあります。その結果、蚊の幼虫を捕食するトンボ類の幼虫が捕食されてしまい、直接的・間接的に感染症を媒介させる生物である蚊の個体数が増加する可能性が指摘されています。
3.在来種への病気の媒介
アメリカザリガニは、ザリガニペストや白斑病などを保菌しており、在来種であるニホンザリガニを含む在来甲殻類への感染と大量死が懸念されています。特に、ニホンザリガニはザリガニペストによる致死率が高いとされているため、注意が必要です。
人の生命・身体への影響
特定外来生物のセアカゴケグモは1995年に大阪府発見されました。もともとはオーストラリアに生息していた生き物ですが、今日、日本に定着しています。名前の通り背面に赤い模様があり、神経毒を有していることが特徴です。日本での死亡例は報告されていませんが、オーストラリアでは死亡例があります。外来生物が原因で、その地域には存在しなかった病気に罹ったり感染したりするリスクが発生する可能性があります。
農林水産業への影響
特定外来生物であるアライグマは、スイカやトウモロコシ、イチゴなどの農作物を食い荒らす被害を出します。令和3年のアライグマによる被害金額は4億1400万円に上りました。もともとは北米~中米に自然分布していましたが、野生化した原因として、動物園から集団逸出したことが挙げられます。また、1970年代のテレビアニメの影響で飼育ブームとなりましたが、アライグマは気性が荒いため、放出されたり、逸出したりして野生化したと言われています。繫殖力も高く、猛禽類などの天敵がいないためなかなか数が減少しません。このような被害は、農林水産業に携わる人を苦しめ、我々が生きていくために必要な農作物に影響を与えます。
以上が具体的に特定外来生物と条件付特定外来生物が主に及ぼしている影響です。記事の冒頭でも記述したように生態系にとって良い影響を与えない悪い生き物、というイメージ通りだったのではないでしょうか。繁殖力が強いなど、問題があって駆除するのが難しいのかもしれないが、外来生物は在来種を脅かす絶対悪であるから駆除を積極的に進めるべきだ!と思ったならば根本的な問題を見落としています。では、一体何が問題なのでしょうか。考えていきましょう。
何が問題なのか
生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害の問題はもちろんですが、何よりも問題なのは、この原因を招いたのが我々人間だということです。本来存在しえなかった生物たちが人間の手によって運び込まれたことによって生じた問題なのです。そして、この問題に対して意識を向けている人はどれくらいいるのでしょうか。人間の身勝手な行動が自分たちの首を絞め、他の生き物にも迷惑をかけているのです。
外来生物の問題は、単にその生き物を駆除してしまえばいい、という単純な話ではありません。それでは根本的な解決にはならず、同じことを繰り返すだけでしょう。まずは、現状を知ることが大切です。なぜその生物が外来生物に指定されているのか、どうすれば良いのか、根本的解決のために何が必要なのかを認識する必要があります。我々人間と生物と環境が遠く離れているようで密接な関係にあることを心にとどめておきましょう。
特定外来生物を事情があって飼えなくなった場合
事情があって特定外来生物をどうしても飼うことが出来なくなってしまった、という場合があると思います。そんな時はどうすれば良いのでしょうか。
答えは殺処分です。野外に放つと処罰の対象になり、生態系に影響を及ぼします。特定外来生物は人にあげたり売ったりすることはできません。残酷に思えるかもしれませんが、生き物を飼うということは、最後まで責任をもって面倒を見るということです。このようなことを避けたければ安易な気持ちで生き物を飼わないほうがいいでしょう。
飼う前にもう一度よく考えて!
何故飼いたいと思ったのですか?その気持ちは今後何があっても変わりませんか。ペットの将来について明確に想像することはできますか。あなただけが良ければいいと考えていませんか。何があっても最後まで責任を持ち面倒を見きれますか?もし面倒を見きれなくなったら、野外に放とうとは考えていませんか。その選択が生態系にどのような影響を及ぼすか理解していますか。生き物を飼うという行為で、何とかなる、という楽観的思考は誰も幸せになりません。もう一度よく考えてみましょう。
最後に
生態系、人の生命・身体、農林水産業へ影響を与える可能性があるため問題視されている特定外来生物、条件付特定外来生物ですが、元をたどればすべて人間に原因があるのです。縄文時代には狩猟のために犬を飼っていたそうですし、生き物を飼うという行為自体は悪いことではありません。ペットは長い歴史の中で我々と共にありました。ペットは、人生を豊かにしてくれるかけがえのない存在になりえます。その中で、危惧すべき問題は野外にペット放すという行為に問題があると理解できていないことです。
一人一人が環境と生物に対しての理解を深めなければ、生態系に影響を及ぼすことになります。同じ生き物同士、共存出来るならばなによりも良いのですが、現実はそう簡単なものではありません。未来の環境を現状より悪化させないという意識を誰もが当たり前に持てるように知識を身に付けることが大切です。それが環境と生き物のどちらにも優しい選択ができるように努めていきましょう。