コウノトリの事例をもとに、絶滅危惧種の問題について知る

  • 更新日:2021/05/08

所属:明治大学

インターン生:K.Kさん

コウノトリの事例をもとに、絶滅危惧種の問題について知るの写真

近年,絶滅危惧種の増加が問題となっています。絶滅危惧種の増加には,人間による活動が大きくかかわっていると考えられています。では,人間と生物が共生することは可能でしょうか。兵庫県豊岡市では,絶滅したコウノトリの野生復帰を成功させたという事例があります。事例をもとに,人間と生物の共生について考えてみましょう。

絶滅危惧種の現状

日本には,未だ知られていない生物も含めて約30万種を超える生物がいると考えられています。世界的に見ても日本は自然豊かな国であり,私たちの生活は,多様な生物種によって形成される自然の恵みに支えられています。

しかし現在,絶滅危惧種が著しい速度で増加し,生物多様性の保全が大きな課題となっています。過去100年で,地球上の種の絶滅速度は1000倍になったと言われています。また,環境省が2020年に公表したレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)によると,3,716種が絶滅危惧種であるとの評価をされました。2019年のレッドリストでは3,676種であったため,1年間で40種増加しています。

絶滅危惧種増加の原因

それでは,なぜ近年絶滅危惧種が増加しているのでしょうか。第1に,人間による開発が原因であると考えられています。森林の伐採や道路・河川の工事により生物の生息場所が破壊され,個体数の大幅な減少が起こりました。

第2に,人間による里山への働きかけが減少したことです。人の手によって維持されてきた里山は,田んぼ,小川,雑木林などが多様な環境を形作る,生物の重要な生息地であります。しかし,産業構造の変化などにより里山が維持されなくなったことで,生息・生育に適した環境が失われてしまいました。

第3に,外来種の影響です。ブラックバス,マングース,グリーンアノールなど人間によって持ち込まれた外来種が,在来種の食べ物や住処を奪うことなどにより,地域固有の生態系を脅かしています。特に,他の地域と海で隔てられた島には固有種が多く生息・生育しており,外来種の影響を強く受けると考えられています。

第4に,地球温暖化の影響です。日本では,2100年までに地球の平均気温が3~4℃上昇した場合,気候帯が年間4~5㎞北上するとの報告があります。こうしたことにより,高山帯や寒冷な地域を好む生物にとって,生息・生育に適した環境が減少し,絶滅の危険性が高まります。例えば,北極の氷が解けてホッキョクグマが生息できなくなることや,海水の温度が上がってサンゴが死滅してしまう恐れがあることがその代表的な例です。

以上のような絶滅危惧種の増加の原因を見ると,すべてにおいて人間の活動が関わっていることが分かります。経済発展に伴い,人間の生活が豊かになっていく裏側では,人間による自然環境の改変により,生物多様性が損なわれているという実態があります。そのため,私たちはその現状を自覚し,絶滅危惧種の保全にむけて責任を持って取り組むべきであると言えるでしょう。それでは,日本において現在どのような取り組みがなされているのでしょうか。

絶滅のおそれのある野生生物の種の保存に関する法律(種の保存法)

日本では,絶滅のおそれのある野生生物の種を保存するため,平成5年4月に「絶滅のおそれのある野生生物の種の保存に関する法律」(種の保存法)が制定されました。種の保存法では,レッドリストの中でも特に絶滅のおそれが高いと評価された種を,対策が必要な種として国内希少野生動植物種に指定し,以下の取り組みが行われています。

①個人等の取扱い規制

国内希少野生動植物種については,販売・頒布目的の陳列・広告,譲渡等(あげる,売る,貸す,もらう,買う,借りる等),捕獲等(捕獲,採取,殺傷,損傷),輸出入が禁止されています。個体に直接影響を与える行為を禁止することで,野生生物の保全を図るのが目的です。

②生息地の保護

国内希少野生動植物種のうち,捕獲や採取などの規制を行うだけでは個体群の存族が困難であり,その生息・生育環境を保全する必要がある場合は,その生息地を生息地等保護区に指定しています。生息地等保護地区は,管理地区と監視地区に分けられ,それぞれの地区内では開発行為などが規制されます。現在,全国で9か所,合計885haが生息地等保護地区として指定されています。

③保護増殖事業

国内希少野生動植物種のうち,その個体の繁殖の促進,生息地の整備等の事業の推進をする必要がある場合には,保護増殖事業計画を策定し,保護増殖事業を実施しています。保護増殖事業とは具体的に,餌条件の改善,繁殖場所の整備,飼育下の増殖,生息環境の整備などのことです。環境省は,希少種が生息する地域に,保護増殖事業を推進する拠点として野生生物保護センターを設置し,調査研究を行うのに加え,展示や映像等によって,訪者に対して希少生物の解説や普及啓発も行っています。

絶滅危惧種保全に関する課題

上述のように,法律の制定によって,絶滅危惧種の保全に対し国家レベルでの取り組みがなされています。しかし,それによってすべての問題が解決するとは言えないでしょう。例えば,私たち国民一人一人の意識が十分ではないことが課題として挙げられます。環境省は,絶滅危惧種の保全について国民の幅広い賛同と理解も重要であるとの認識のもと,種の保存法に「国は,最新の科学的知見を踏まえつつ,教育活動,広報活動などを通じて,絶滅のおそれのある野生生物の種の保存に関し,国民の理解を深めるよう努めなければならない。」との条文を追加しました。

絶滅危惧種増加の原因として4つ目に紹介した地球温暖化は,私たちの日常生活における行動が密接に関わっていることを考えると,私たち皆が絶滅危惧種の問題に関係があると言えます。しかし,内閣府が令和元年に実施した環境問題に関する世論調査では,「生物多様性」の言葉の意味を知っていたと答えた人の割合が20.1%,意味は知らないが,言葉は知っていた人が31.7%,聞いたこともなかった人が47.2%と,依然として生物種の保全に関する認知度が低い水準であることがわかります。

私たちはもっと絶滅危惧種に関する知識を高め,一人一人が自分にできることを考えていく必要があるでしょう。過去には,住民が主体となって絶滅のおそれのあった「コウノトリ」の野生復帰に取り組み,コウノトリとの共生を果たした兵庫県豊岡市の事例があります。豊岡市の事例をもとに,私たちができることについて考えてみましょう。

豊岡市におけるコウノトリとの共生

江戸時代以前,コウノトリは日本中に生息していました。浅草の浅草寺の屋根に巣を作って暮らしていたという記録もあります。しかし,1971年,コウノトリは野生下において絶滅してしまいました。その原因は,主に三つ挙げられます。まず一つ目は,明治以降の乱獲による個体数の減少です。コウノトリは水田や湿地など浅い水辺に生息する魚類,カエル,昆虫類などを捕獲し,餌としています。

そのため,餌をもとめて水田に現れては大きな足で稲を踏み倒してしまうため,かつて農家にとってコウノトリは害鳥であると認識されていました。そのような中,明治時代になると一般の人が鉄砲を使用しての狩りをすることが可能となり,農業に迷惑なコウノトリの乱獲が進んでいきました。

二つ目の原因は,戦争による生息地の悪化です。コウノトリが巣を作っていたアカマツの大木が,戦争に使用する燃料として切り倒され,生息地が奪われてしまいました。

三つめは,戦後の農業環境の変化です。水路の整備や農薬を使用した稲づくりなどが始まり,人々は多くの米を収穫できるようになりました。しかし一方で,このような農業環境の変化により,コウノトリが餌とするカエルやフナなどが水田から減少し,コウノトリが生息を続けるのは困難となりました。

このような状況の中,豊岡市ではコウノトリの野生復帰に向けた取り組みがなされました。コウノトリの乱獲が行われていた明治時代,豊岡市の出石鶴山に久しぶりに4羽のヒナがかえり,珍しいコウノトリのヒナの様子を一目見ようと1日2000人以上のお客さんが全国各地から訪れ,豊岡市は非常ににぎわいました。

このような経験から,豊岡市の人々はコウノトリを大切し,「コウノトリにとって良い環境は私たち人間にとっても良い」,「人もコウノトリも住める地域づくり」という意識の下で,コウノトリ野帰復帰に向けた取り組みが始まりました。1999年,世界で唯一のコウノトリ専門の施設「兵庫県立コウノトリの郷公園」が設置され,コウノトリの人口飼育,野生復帰のための研究に取り組みました。また,市民,団体,行政,研究者などが,コウノトリが野外で暮らしていけるよう,餌場となる湿地づくりを行ったり,コウノトリを多くの人に普及するための活動を行いました。その結果,2005年にコウノトリの放鳥が行われ,コウノトリが再び野生生物に戻り,今では豊岡市の生活に溶け込んでいます。

そして同時に,コウノトリの野生復帰は,豊岡市の人々の生活を支えることとなりました。その代表的な例が「コウノトリ育むお米」です。「コウノトリ育むお米」では,コウノトリのエサを増やすという明確な目的のもと、農薬や化学肥料に頼らず様々な生物が生息できる田んぼを作ります。その田んぼでは,カエルやクモといった生物が稲の害虫を食べることで殺虫剤を使わずに米を作ることが可能となり,安心安全な米が生産できます。無農薬栽培による「コウノトリ育むお米」は国内で人気となり,全国500店舗以上のお店で販売されました。

また,2015年5月から10月までの間,イタリアで開催されたミラノ国際博覧会において「コウノトリ育むお米」が提供されるなど,海外からも注目を集めています。コウノトリにとって良い環境を作ることで,私たちもおいしいお米を食べることができ,また豊岡市の農家の収益が上がるなど,人にとっても利益を生み出すことが出来るのです。

コウノトリの事例からわかること

コウノトリの事例には,コウノトリに対して豊かな生息地を提供すると同時に,コウノトリによって安心安全なお米を生産できるという,人と野生生物が共生するための工夫が詰まっています。絶滅危惧種の問題では,このように相互に利益をもたらすような関係性を築くことが大切ではないかと考えられます。人が一方的に野生生物保護のために取り組むのではなく,保護によって野生生物からも恵みを受けていると実感することで,保護活動を進める意欲を持つことができるためです。

また,「コウノトリ育むお米」は,豊岡市の農家の人だけではなく,全国の人がお米を買うことで,野生生物保護の取り組みに貢献することが出来ます。そのため,私たちは野生生物保護のためにどのような取り組みが行われているのかを知り,自分はどのように貢献できるかを考えることが大切だと思います。

途上国における絶滅危惧種の課題

豊岡市のコウノトリの事例は,海外からも広く注目を集めました。2014年にはラムサール条約事務局が豊岡市を訪問し,「多くの生きものがくらす環境が、いろいろな人の協力でつくられていることが特にすばらしい。」と高く評価しました。また,韓国や台湾,イスラエルなど,さまざまな国のメディア関係者がコウノトリの取り組みを各国で紹介しています。このように,野生生物との共生へ向けた取り組みとして,コウノトリの事例は世界から評価を受けていますが,野生生物との共生を果たしながら地元の人々の経済価値を生むという点は,途上国における生物多様性保護に必要とされることではないかと考えられます。

途上国に分布する熱帯林は,「生命の宝庫」と呼ばれ,世界の全生物種の半数以上が生息していると推測されています。しかし,1960年から1990年までの30年間に熱帯林の約2割が失われてしまいました。また,国連食糧農業機構(FAO)によると、現在も毎年約780万ヘクタールが減少しており、これは日本の面積のほぼ2割にも当たる面積が毎年消滅している計算になります。

熱帯林の減少によって多くの生物が永久に失われる可能性が高まり,生物多様性保全の観点から重要な問題であります。熱帯林減少の大きな原因は開発です。例えば,焼き畑による熱帯林の破壊が挙げられます。伝統的な焼き畑は小規模で一度焼いた場所は回復するまで待ちますが、都市部から大量に流入してくる人々による焼き畑はそうした配慮がされることは少なく,熱帯林の減少につながります。また,焼き畑の火から大規模な森林火災が発生することでも,大きな被害が生じています。

さらに,森林伐採も熱帯林減少の原因です。1970年代,80年代を中心に,先進国に向けて家具などに使用するウラン材を輸出するために伐採を行ったり,肉牛飼育のための牧場や,プランテーション農園を確保するために熱帯林の開拓が行われました。生物多様性保護のために熱帯林の減少を防ぐためには,このような開発を止めることが必要です。

しかし,途上国では地域住民の多くが農林業を営み,生活源を森林に依存しています。そのため,すぐに熱帯林の開発をやめるというのは簡単なことではありません。開発を規制しすぎると,仕事を失い生活が出来なくなる人々が増えると考えられます。そこに住む住民の生活を守りながら,熱帯林保護の在り方を考える必要があるでしょう。

そこで,コウノトリの事例のように,野生動物の保護を行いながらも,人々の経済効果を生み出すような取り組みが重要になるのではないでしょうか。実際に,中米のコスタリカにおいては,自然資源を活用した取り組みがなされています。国土の4分の1以上を自然保護区・国立公園に指定し、野生生物を見るために世界中から観光客が訪れるエコツーリズムを提唱しています。

また,欧米の大手製薬会社などと共同で薬剤となる生物の研究を行い、契約金や商品化に伴う利益を研究や自然保護活動に還元する取り組みがなされています。特に途上国では,野生生物保護にのみ重点を置きすぎると,人々の生活に経済的な被害をもたらすおそれがあります。人の生活とのバランスを考えると,野生生物保護は一筋縄ではいきません。そのため,そこに住む人々の生活も守りながら野生生物との共生を行うための工夫が求められるでしょう。

おわりに

普段の生活では,絶滅危惧種の現状や問題について考える機会はほとんどないかもしれません。しかし実は,私たち人間の生活は豊かな生物多様性の恵みを受けて成り立っています。そして同時に,環境破壊や地球温暖化によって絶滅危惧種が増加し,生物多様性を失う原因を作っているのもまた私たち人間の責任です。

そのため,絶滅危惧種の増加は一人一人が自覚をもって取り組むべき問題であると言えるでしょう。そこで,まずは絶滅危惧種の問題について知ることが大切です。絶滅危惧種の問題はどのようなものか,なぜ問題であるのか,どのような取り組みがなされているのかなど関心をもつことが,問題解決への第一歩となります。

そして,絶滅危惧種増加の原因である地球温暖化の進行を防ぐために日常生活でできる取り組みや,この記事で紹介した「コウノトリ育むお米」を購入することのように,小さなことでも,自分にできることは何であるかを考え行動することが大切だと思います。途上国での生物多様性保護が難しいように,一筋縄ではいかない問題ですが,その中でも人と野生生物が共生できる環境をつくるための工夫が現代では求められています。ぜひ皆さんも絶滅危惧種の問題に目を向け,自分には何ができるのかを考えてみてください。

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