深刻化する砂漠化問題

  • 更新日:2021/01/21

所属:創価大学

インターン生:Y.Hさん

深刻化する砂漠化問題の写真

近年、世界中で地球環境問題が喫緊の課題となり、多様なセクターがその解決に向けて行動を起こしています。その一つである砂漠化問題は、かねてから深刻な問題として注目されてきました。小学生のころ教科書で学んだ覚えのある人も多いのではないでしょうか。本記事により砂漠化問題に興味を持っていただけたら幸いです。

砂漠化の定義と現状

砂漠化について考えるにあたり、その定義を明確にしておく必要があります。1994年に採択された国連砂漠化防止条約によると、砂漠化とは「気候の変動や人間の活動など、さまざまな要因による乾燥、半乾燥、乾燥した亜湿地帯の土地の劣化」であると定義されています。世界の陸地面積の40%がすでに砂漠化し、多くの人が砂漠化により故郷を追われているといわれています。

環境省の資料(下図)によれば、世界全体から見た、乾燥地における土地劣化総面積は10億ヘクタールを超えています。砂漠化による土壌劣化の進行がとりわけ深刻な地域はアジアとアフリカで、アジア地域ではおよそ370百万ヘクタール、アフリカ地域ではおよそ320百万ヘクタールの健康な土壌が失われています。

アジア、アフリカ両地域での土壌劣化の主要な要因は若干異なり、より農業が盛んなアジアでは過放牧、森林減少、過耕作が主要要因として考えられています。他方、アフリカでは過放牧が主要要因を圧倒的に占めており、ほぼ6割に上ります。なお、両地域で過開拓の割合が1割強ほど占めていることも注目すべき点でしょう。近年の急激な人口増加という社会的潮流から都市開発が進み、今後この部分の要因が拡大してくる可能性も十分に考えられます。

砂漠化について

出典:環境省

砂漠化の被害にあった乾燥地域に住む人々はおよそ20億人といわれています。そのうちの9割以上が開発途上国に住む人々です。こうした乾燥地域の住人は経済的不安や極度の貧困に苦しんでいます。

砂漠化と砂漠の違い

砂漠化(desertification)と砂漠(desert)は言葉としては似ていますが、それぞれが意味する概念は異なります。1977年に行われた、国連砂漠化防止会議において、「砂漠」とは、「不十分な降雨あるいは土壌の乾燥が原因で、植生が極めて少ないかあるいは欠如している地域」とされました。一方「砂漠化」とは、前段落で定義を明確にしたように、気候変動や人為的要因による土地の劣化を言います。

砂漠は元来の地域的な特徴として植生が欠如している状態を指す一方で、砂漠化はもとある豊かな土地を劣化させてしまうプロセスというわけです。砂漠化は、私たち人間が引き起こす環境問題のひとつとして深刻に考えなくてはならない問題ですが、砂漠それ自体はそうではありません。サハラ砂漠のあるモロッコなどアフリカの国では、砂漠は観光資源にもなるため、砂漠すべてが問題であるということではありません。もともとあった肥沃な土壌を、人為的な営みによって劣化させてしまうことが問題なのです。

ちなみに日本にも国の天然記念物として指定された鳥取砂丘があり、観光客を集める名所として有名ですが、砂丘も砂漠とは異なる概念です。鳥取砂丘ビジターセンターによれば、砂丘は風で運ばれた砂が作る丘のことを言います。対して砂漠とは、年間降雨量が250mm以下、あるいは降雨量より蒸発量のほうが多い地域のことを指し、砂や礫、岩石の多い土地のことをいいます。

砂丘は触った砂の表面が乾いていても、掘ると湿った砂が出てきます。砂漠は砂の表面が乾いているのはもちろんのこと、降雨量より蒸発する水分量の方が多いため、たとえ掘っても乾いた砂しか出てきません。鳥取県には鳥取大学乾燥地研究センターがあり、この機関の乾燥地研究は世界からも注目されています。

砂漠化の要因

深刻な被害をもたらす世界の砂漠化の進行は気候変動問題と深いかかわりがあり、また、人口増加による食糧問題とも繋がっています。一般的には、砂漠化が発生する原因は、自然的要因と人為的要因の二つの原因に分類できるとされています。

①自然的要因

自然的要因は気候変動、干ばつなどの自然災害、乾燥化などが挙げられます。この自然的要因の例として、1968〜1973年にかけて西アフリカを襲った大干ばつがあり、これによりサハラ砂漠は拡大、10万人以上の死者が出るという悲劇的な結末を迎えました。また、自然的要因には土地の浸食や劣化も含まれます。水食、風食、化学的劣化や物理的劣化などがこれにあたります。

水食とは、雨などにより土壌が地表から流れ出す現象のことで、肥沃な土壌が流れてしまうことで土地が劣化し農業生産性の低下につながります。風食は風により土壌が分散し運搬されてしまうことをいいます。化学的劣化とは不適切な灌漑による塩類集積・酸性化・化学物質による汚染等を指し、物理的劣化とは土壌表面の硬化を指します。

②人為的要因

一方で、人為的要因のなかには、過放牧、森林減少、過耕作、薪炭材の過剰採集、過開墾、不適切な水管理などが挙げられます。加えて、農薬や化学肥料を用いるいわゆる近代農業といわれるものも土壌を劣化させる要因となっています。また、近年急速に進む人口増加もこれらの要因のうちのひとつです。増えた人口を養うための農地拡大が行われ、焼き畑農業が拡大しています。このような耕作システムの下では、自然資源が非持続的に搾取され、土壌劣化に繋がります。薪炭材の過剰採集も大きな要因となっています。

経済的理由から、調理用のガスや電気を支払えない貧しい人々は、多くの場合木炭を使用しています。燃料源としての木炭生産のため、木を伐採することになるので、土地劣化がおこります。これらの人為的要因は自然的要因よりはるかに砂漠化に貢献しており、一刻も早い改善が求められる課題となっています。また、人為的要因の背景にはさらに、地域住民の貧困や急激な人口増といった社会的および経済的な要因が存在すると考えられています。

砂漠化が及ぼす影響

複雑な要因によって引き起こされる砂漠化は地球環境に甚大な影響をもたらし、その被害は多岐にわたります。第一に、砂漠化が起きることは森林が破壊されることも意味するため、地球全体の二酸化炭素が総量的に増えてしまいます。結果的にさらなる気候変動に繋がることになります。また、森林破壊により植生が減少することで水循環が機能しなくなり、動植物の生息地の喪失と種の絶滅を引き起こします。

第二に、砂漠化によってもたらされた土壌の劣化、土地の生産力の減退それ自体が問題と考えられます。これにより食糧生産基盤が悪化し、生活基盤の不安定化やさらなる難民の発生、都市への人口集中など社会的な影響が現れます。このような食糧生産基盤の悪化は新たに行き過ぎた耕作や放牧、伐採を生み出すため、砂漠化は一層拡大を続けることになります。砂漠化の進行が、さらに新しい砂漠化を生みだすという悪循環が生まれてしまうのです。一度失われた表土を取り戻すには長い年月が必要と言われており、その意味でも、砂漠化が与える影響は甚大です。

砂漠化問題と他のグローバルイシューとの関わり

世界で深刻化する砂漠化は、その他のグローバルイシューとも深い相互関係があります。例えば、砂漠化が起こることで、地域の土壌水分が失われ、世界的にも深刻な水不足問題に発展すると考えられます。砂漠化という現象自体が不適切な灌漑を要因にするため、SDGs6番「安全な水とトイレを世界中に」との深い関連がみえます。

また、砂漠化により豊かな土壌が失われることで植生が減少することは、同時に動植物の生息地減少を意味し、生物多様性が失われることに繋がります。これはSDGs15番の「陸の豊かさも守ろう」に直結します。及び、砂漠化による森林の減少は温室効果ガスである二酸化炭素の吸収力低下につながり、さらなる気候変動の進行に至ってしまうため、ここにSDGs 13番「気候変動に具体的な対策を」との関連性を見出せます。

この他にも、砂漠化により土地が劣化し農地の生産性が下がれば、その影響としてさらなる飢餓や貧困に人々が苦しむことになります。これはSDGs 1番「貧困をなくそう」と2番「飢餓をゼロに」との関連があると考えられます。ひいてはこうした貧困が乾燥地域に住む人々の健康を害し、栄養不足による乳幼児の死亡率の増加につながるとも考えられ、SDGs 3番「すべての人に健康と福祉を」との関係性がみられます。

砂漠化を土壌の持続可能な利用と解せば、SDGs12番の「つくる責任つかう責任」とも関係します。究極的には、土地の生産性低下が乾燥地域の人々の生活の不安感につながり、治安の悪化が起こることも考えられなくはありません。SDGs16番「平和と公正をすべての人に」も砂漠化と関連があると考えてよいと思われます。以上のように、砂漠化という一つの問題を取っても、その他の多様なイシューと複雑な関連性を持っていることが伺えます。特に最近では、人口増加の傾向と気候変動の進行という二つの要素が、さらに砂漠化の問題を深刻なものにしており、緊急性と重要度がともに高い問題です。

バッタの大量発生により砂漠化が加速する?

2020年、さらに砂漠化問題を加速させる出来事が起こりました。それは、バッタの大量発生です。体長5~7センチ、体重約2~4グラムのサバクトビバッタといわれる害虫が異常に繁殖しています。普段は個体で存在しおとなしい昆虫ですが、いくつかの条件が揃うと群れになり、穀物や果実などのあらゆる農作物を食い荒らしてしまいます。

また、サバクトビバッタの群れは一日に100km以上風に乗って飛翔するといわれています。そのため、その被害はアフリカ、中東、アジアの20カ国以上に広がっています。さらに新型コロナウイルス流行の影響で各国が出入国や移動を制限したために、殺虫剤の調達や散布は難航しています。

こうした害虫による農作物被害は経済的に非常に大きなものであり、食糧難、かつ、家畜に食べさせる飼料不足にも陥ってしまいます。こうした大きな被害による生活の困窮が、さらなる農地の開拓や砂漠化の深刻化につながってしまうことも考えられます。

砂漠化問題に対してのアプローチ

砂漠化という現象は複雑な要因によって起きているため、そのアプローチも単一ではなくいくつかのものが必要であると考えられます。以下に考えうるアプローチを列挙します。

①近代農業からの脱出

砂漠化問題の解決を考えるにあたって極めて大切なのは、土壌に栄養分を戻してあげることであり、そのためにはまず農業のあり方を考え直す必要があるのではないでしょうか。慣行的に使用されてきた農薬や化学肥料は確かに一時的な作物の生長には効果的ですが、長い目で見ると地中の微生物の衰耗と減退、すなわち土壌の劣化に繋がってしまいます。

また、砂漠化が多くみられるアジアやアフリカの乾燥地域では、化学肥料等は高価で手に入りにくいという現状があります。現地で手に入りやすい家畜の堆肥による農業の推進や、マメ科植物の窒素固定能力を生かした輪作などの継続から、土壌の栄養を戻す対策が効果的ではないかと考えます。加えて、言うまでもないことですが、国際機関や国が農地や水の調査・管理を徹底することが必要であろうと思われます。

②消費者行動の変革

他方で、消費者の消費性向の変化も同様に重要です。肉などタンパク質を含む動物由来の食べ物は、その生成に多くのエネルギーを要します。肉1㎏に対し必要なのはその何倍もの穀物です。最近では高タンパク志向のトレンドがありますが、世界全体で今後起こりうる食糧不足を鑑みて、環境負荷の高い食べ物の消費量を少しずつ抑えることが重要ではないでしょうか。野菜や果物中心の食生活を消費者ひとりひとりが心がけることが、砂漠化防止の有効なアプローチの一つになると考えられます。

③植林による森林の復活

別の観点から、森林の復活、人工林の植林も砂漠化抑制に効果的な手段であると考えられますが、単一林の植林は逆効果であるという議論も存在します。当該地域の自然林の研究をもとに、多様性を保った植林などが行うことが理想的なアプローチだと思います。また、こうした森林保護の際には、同時に水資源の保護や先住民の権利保障などの点にも留意する必要があるでしょう。

国際社会による砂漠化問題に対しての取り組み

砂漠化の問題に国際的に取り組んで行くため、1994年6月17日に「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国における砂漠化に対処するための国際連合条約」(通称:砂漠化対処条約)が採択されました。砂漠化対処条約は、特にアフリカ諸国を中心とした開発途上国において深刻化する砂漠化問題に対し、国際社会がその解決に向けて協力することを目的としています。

日本は1998年からこの条約に加盟しました。2010年に行われたこの条約の目的達成に関する評価では、砂漠化や土壌劣化を正しく認識してもらうという、啓発・教育面での取り組みは進んでいることが分かりました。その一方で、砂漠化の被影響国の国家行動計画の策定・更新や資金面での統合はあまり進んでいないということもわかりました。

日本の砂漠化問題に対しての取り組み

日本政府は、砂漠化対処条約の加盟国として、砂漠化問題に対して、国際機関への拠出、二国間援助、NGO支援を通じた草の根レベルの協力等の取り組みを行っています。具体的には、ODAによる砂漠化への取り組みが挙げられます。1985年から2000年にかけて、サヘル地域において、緑資源機構による砂漠化防止に向け調査がなされました。2000 年にはJICAにより、調査の結果得られた技術をもとに小規模総合事業プログラムが、マリ共和国のセグー地方南部で、砂漠化に対する住民参加型の開発調査として行われました。

私たちにできること

UNCCDはこの問題が人類と環境に与える壊滅的な被害を鑑み、2010年から10年間を砂漠化対策のための10年と位置づけ、人々の注意・関心を集める活動を行ってきました。また、6月17日を干ばつ・砂漠化の日と設定し、食料・飼料・繊維(Food, Feed, Fibre)というスローガンのもと、民衆のライフスタイルの変革を呼び掛けてきました。

SNSなども活用し持続可能な生活を普及させていこうという狙いが伺えます。こうした国際的枠組みでの行動は、残念ながら日本ではあまり認知されていないというのが現状です。ともすれば砂漠化という問題を正しく認識している人も少ないのではないでしょうか。環境問題を考える際によく言われることですが、第一ステップとして正しく問題を認識するということが、私たちにできる最低限のことなのではないかと考えます。

おわりに

本記事では砂漠化問題をメインテーマとし、その厳しい現状についてまとめさせて頂きました。砂漠化は日本には関係ないことだと思われがちな問題ですが、その現象の要因やもたらす影響を詳しく調べていけばいくほど、私たちに無関係な事象であるとは結論づけられないと思われます。

今回取り扱った砂漠化問題に限らず、どんな環境問題も他人事としてしまっては、解決は難しいと考えます。最近は、新型コロナウイルスの流行で経済活動がストップし、地球環境が改善したという皮肉なニュースも耳にします。経済中心・人間中心の考え方にとらわれず、「どうすれば人間が自然環境と共生していけるのだろうか」ということを考え続ける謙虚な姿勢が求められていると感じます。環境問題を自分事と捉え、なにか行動を起こすことから始めてみませんか?

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エコモ博士
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