環境問題について当事者意識を抱いて考えるためには
所属: 一橋大学
インターン生:T.Aさん
頻発する自然災害、夏の猛暑、レジ袋の有料化など近年私たちが感じる環境問題の影響が増えてきています。しかし、なぜ自分が協力しなければならないのかと考えている方もいると思います。そこでこの記事を読み、環境問題について当事者意識を抱くためにはどうすればいいのかという点について考える機会になればと思います。
当事者意識とは何か
タイトルに「環境問題にについて当事者意識を抱いて考えるためには」と書きましたが、当事者意識とは一定どういうことでしょうか。ビジネスにおいて当事者意識をいう言葉が良く用いられるようですが、辞書には、「自分自身がその事柄に直接関係すると分かっていること。関係者であるという自覚」とあります。要するに、当事者意識とは、自分自身が関わる物事であると捉え、積極的に取り組もうとする意識と説明することができます。当事者意識を抱くことで、より積極的に、責任を持って物事に取り組むことができるようになります。
環境問題は当事者意識が必要なのか
では、環境問題を考えるために当事者意識は必要なのでしょうか。そのことを考える前に、ここでいう環境問題とは何かについて明記しておきます。環境問題とは、気候変動が伴う地球温暖化、海洋プラスチック問題、廃棄物問題、大気汚染問題などが挙げられます。これらの問題を想像しても大きすぎる問題であるため、おそらく多くの方が身近に感じることはできないのではないでしょうか。そして、身近に感じられないために、自分とは関係のない事柄だと思い、対策、取組を積極的に行おうと思えないのではないでしょうか。このことが、環境問題解決が進まない要因の1つに挙げられると思います。
以上から、環境問題について、自分自身が関わる物事として認識し、問題解決に向けて取り組もうとする当事者意識が高まることによって、その解決に繋がるといえるのではないでしょうか。要するに、環境問題を解決するためには、当事者意識が必要であるとすることができるということです。
当事者意識を抱かせるためには
では、環境問題について当事者意識を抱かせるためには、どのような手段があるのでしょうか。未だ当事者意識向上のために必要な手段がこれであるということは明確にはなっていないため、ここでは、以下の3点について当事者意識向上のために考えられる手段についてご説明します。
- 自分たちに及ぼされる影響の増加
- 現実の認識
- 自身への還元があること
それぞれの項目の内容において、その取組の対象としているのが【企業】なのか【個人】なのかも示しています。ぜひ参考にしてください。また、これから挙げるものが絶対正しいというわけではないので、ぜひ読みながら他に何か方法があるかどうか考えてみてください。
①自分たちに及ぼされる影響の増加【企業】【個人】
環境問題による自分自身への影響を身近に感じる機会が増えるほど、自分自身が関わる物事として捉えることができ、当事者意識を向上させることができると考えられます。具体的かつ分かりやすい例として新型コロナウイルスが挙げられます。2020年1月に武漢から全世界に流行した新型コロナウイルスは、私たちに直接の影響をもたらし、日常の生活を一変させてしまいました。
緊急事態宣言が出され、自由に外出したり、人と会ったりすることができなくなり、テレワークによって今までの仕事の仕方も大きく変化しました。このように私たちの生活に直接的に影響を与えたことが相まって、緊急事態宣言解除後も、マスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保、アルコール消毒、検温、3密の防止などに積極的に取り組む姿が見受けられます。新型コロナウイルスは、自分自身が関わる物事として認識され、新型コロナウイルスの感染リスク削減のために、積極的な取組を個人が行っていると考えることができます。
環境問題についても、自然災害や猛暑、レジ袋の有料化によって自分自身との関わりを感じる機会が多くなった方もいるかもしれません。しかし、それは一部の方であり、今もなおあまり身近に感じられていない方が多くいると思われます。
よって、環境問題においても自分たちに及ぼされる影響が多くなることで、人々が当事者意識を抱くきっかけになるかもしれません。しかし、影響が増えるということは、被害が増えるということでもあります。被害が今以上に増えていくのを待っているというのは、問題の解決とは言えません。よって、影響増加による当事者意識の高まり以外の方法も必要であると考えられます。
②現実の認識
今起こっている事柄を認識し、危機感などを感じることで、自分自身も何か対策を練らなければいけない問題であると捉え、当事者意識を向上させることができると考えることができます。ここで紹介する今起こっている事柄とは、具体的に環境問題による被害、世の中の動向、自分自身の状況の3つです。
環境問題の被害【企業】【個人】
環境問題、特に気候変動による温暖化の影響は、日本だけではなく、世界中の様々なところで生じています。日本では、以下のような被害が生じています。
- 気温の上昇に伴い真夏日や猛暑日の日数が増加
- 台風や梅雨前線による豪雨、それに伴う河川の氾濫
- 豪雨の一方で、弱い雨が降る日数が減少
- 積雪量の減少と、今まで雪が降らなかった地域での積雪
- 農林水産業の品質の低下、栽培適地の変化
- 植生や野生生物の分布の変化など自然生態系への影響
また、海外でも以下のような被害が生じています。
- 世界的に平均気温の上昇
- 連日の猛暑、雨不足による大規模な森林火災(オーストラリア、アメリカ)
- 洪水の多発によってインフラや住居への影響(アジア)
- 水不足、干ばつによる農業への影響(アフリカなど)
- 海水温の上昇、海洋酸性化によるサンゴ礁への影響(オーストラリアなど)
- 気温の上昇に伴う氷河の後退(アルプス山脈など)
- 蚊やバッタの大量発生、それに伴う感染症の蔓延(アフリカ)
- 氷河、海氷の厚さと面積の縮小に伴うホッキョクグマなどの野生生物の絶滅の危機(極地域)
上記に示した被害の事例は、日本、海外ともにほんの一部です。しかし、これだけでも、気候変動が地球上に多大な影響を与え、人間だけではなく、動植物にまでも被害が及んでいるということが分かります。日本で起きていることはある程度報道などで知っている方も多いとも思われますが、海外で起こっている事柄については、報道されていないものも多く、実体をよく知っている方はあまりいないのではないでしょうか。
しかし、このような被害が地球上で生じているということを知り、そこの現地で暮らしている人々や動植物の情報を得ることができれば、気候変動に対する危機感を抱き、この問題をどうにかしないといけないと考え、自分自身が何を行えるかと考える当事者意識を抱くことにつなげるのではないかと考えられます。
世の中の動向
続いて、世の中の動向についてです。SDGsという言葉や、ESG投資という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。近年、世界的な会議において環境問題の最重要視がされていたり、経済界も経済成長と環境保全を両立させるという行動に前向きな姿勢が見られたりしています。このような世の中全体として、環境問題を考える傾向や環境保全の傾向が見られると、企業単位や個人単位でも、世の中の流れに乗り遅れないためにも、積極的に行動し、当事者意識を抱くことにつなげるのではないでしょうか。以下では、国や企業、個人に影響をもたらした具体的な事例のいくつかを紹介します。
パリ協定【企業】
パリ協定とは、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みであり、2015年にパリで行われた、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約(通称COP)」で合意されました。具体的には、世界共通の長期目標として、産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑えることを設定され、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが決められました。このパリ協定は、歴史上初めて、すべての国が参加する公平な合意であり、これによって気候変動が全世界的に取り組まなければならない問題であるということが、世界各国で認識されました。
日本は、2030年度の温室効果ガスの排出を、2013年度を基準として26%削減することを中期目標として定め、官民連携で目標達成に向けた取組を行っています。パリ協定の合意によって、向き合わなければならない問題と認識し、動き始めた国、企業は多くいると思われます。
SDGs【企業】【個人】
SDGsとは、2001年に策定された途上国の開発問題解決のためのミレニアム開発目標(MDGs)の後継の目標となっています。具体的には、2015年9月の国連サミットにて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことです。17のゴール・169のターゲットから構成されており、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。パリ協定は、数値目標でしたが、SDGsは、具体的な行動が目標として示されているため、より向き合いやすいという特徴があります。分かりやすく具体的な目標設定は、世界共通の合言葉のような存在になっています。
実際、各国でSDGsのための取組が数多く行われており、日本においても政府中心の取組から、自治体の取組、企業独自の取組、個人単位での取組まで、幅広い範囲においてSDGsが浸透しています。例えば、神奈川県鎌倉市では、持続可能な都市経営「SDGs未来都市かまくら」の創造を行っており、イノベーションを生む新しい交通拠点の整備や、長寿社会のまちづくり、渋滞緩和のための鎌倉ロードプライシング推進など、経済、社会、環境の3つの側面を統合させた都市経営の在り方を見いだし、実行しています。
また、民間企業では、難民や国内避難民に対して視力権者を行い、1人ひとりに合った眼鏡を無償で寄付する活動をしていう企業や、SDGsをテーマにして番組の制作を行っている企業、古着を回収し、開発途上国に安価でリユースする企業など、それぞれの企業の特性を活かしたSDGsの取組が行われています。行政や自治体、企業に限らなくても、私たち自身が簡単に行える行動がSDGsの目標となっているため、個人としての行動も行いやすくなっています。
例えば、外食時に食べ残しをしないことや、家庭で使うエネルギーを再生可能エネルギーに変えるなど、個人での行動がSDGsに繋がるものも多くあります。SDGsの認知度の高まりによって、行政、自治体、企業、そして個人、どの媒体においても積極的に参加しようとする人が増え、当事者意識の向上にも繋がっているかもしれません。
ESG投資【企業】
ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)要素も考慮した投資のことをいいます。投資家が、企業の持続的成長を促す観点から適切な投資判断を下す投資選択の1つとなっています。もともと、欧米で浸透していたESG投資でしたが、海外市場で日本企業が共に戦うためには、日本企業もESG投資を考慮した経営戦略を取らなければならなくなり、現在は日本においても少しずつESG投資が浸透してきています。
もともと、経済と環境は両立しないものであると考えられていましたが、ESG投資によって、環境や社会に配慮しながら経済発展をしていくことも可能であるという考え方を生みだしました。 EC投資が浸透すると、ESG要素を考慮した事業を行っていなければ、投資家からの投資が望めなくなるかもしれないため、企業は自社が何をすべきなのかと考え、取り組みを始めます。
例えば、飲食店でプラスチック製ストローが廃止され、紙ストローの使用が普及したことや、働き方の見直しを行い働きやすい人事制度の導入をしたこと、地域社会への積極的な貢献なども、ESG要素を考慮した事業を行い、ESG投資を得るに行った取組であるということができます。このように、企業にとっての当事者意識向上にESG投資は大きな影響を与えていると言えます。
ナッジ(nudge)【個人】
何かをしなさいという命令や、数値目標による推進をされてもなかなか今までの行動を変えることができないという方もいるかもしれません。しかし、少し違う角度からの指摘であったり、直接的な指摘ではなかったりした場合はどうでしょう。自分自身の行動を少し変えてみようと思ったりするかもしれません。
この少し違う角度からの指摘を行い、人々の認識を変え、新たな行動を促すための手段として、「ナッジ(nudge)」という考え方があります。日本語では、「肘で突く、そっと後押しする」という意味で、行動科学の知見に基づいて、人々が環境や社会にとって良い行動を自発的に選択するよう促す政策手法として注目されている考え方です。
具体的な事例として、2000年にカルフォルニア州で行われた省エネ実証の例があります。「節約しましょうーエアコンを消し扇風機を」、「環境に優しくーエアコンを消し扇風機を」、「より良い未来のためにーエアコンを消し扇風機を」という3つのメッセージが書かれたカードを各家庭のドアノブにかけ、影響を調査するという実験でした。
この結果、3つのメッセージはどれも効果がなく、もっとも効果があったメッセージは、「ご存知ですか?ご近所さんはすでにエアコンから扇風機に変えています」という内容でした。このように、直接的なメッセージや命令的なメッセージよりも、少し遠回りにも思えるようなメッセージの方が、人々の心には届きやすいということです。このような人々の行動をそっと後押しするようなことを「ナッジ」の考え方と言います。
実際に、2017年から環境省でナッジ事業が始まっており、家庭、業務、運輸部門で排出されるCO2の量を見える化させ(CO2削減などという言葉は書かずに)、それぞれの世帯や企業に対して配り、それを見て現状を把握してもらい、今後どう行動するかを考えてもらうという取組が試験的に行われています。他にも環境問題以外の社会課題解決のためにナッジが使えないかということや、自治体で行えることはないかということなど、現在進行形で考えられている事業となっています。 指摘や広報の仕方や考え方を少し変えて人々をそっと後押しする「ナッジ」のやり方が今後主流になってくれば、当事者意識を向上させ、環境問題解決の前進に役立つかもしれません。
➂自身への還元が高まること
地球のため、環境のためにやらなくてはいけないと思っていたとしても、自分への直接的な利益がないため、なかなか行動に移せないという方もいるのではないでしょうか。そこで、行動によって自身への還元が得られ、還元によって人々の行動を促し、当事者意識を高めるという取組を紹介します。
ポイント事業【企業】【個人】
まずは、ポイント事業です。現在、様々な企業で多くのポイント事業が行われていますが、ポイントも個人の行動を促すためには有効な手段であるといえます。ポイントがたまることで、ある物を買おうとする購買意欲が向上したり、次の買物につなげたりということができます。具体的には、TポイントやPontaカードなどの様々な店舗において共通するポイントや、スーパーのポイントやメトロポイントのような自社独自のポイント、どちらにおいても、ポイントが貯まることによって、次の購買意欲向上に大きな影響力を与えているように思えます。
また、民間事業者の取組だけではなく、行政のポイント制度として、環境省の家電エコポイント制度や東京都の東京ユアコインが挙げられます。 家電エコポイント制度は、2009年から2011年までの約3間行われた制度であり、地球温暖化、経済の活性化及び地上デジタルテレビの普及を図るため、グリーン家電の購入により様々な商品・サービスと交換可能な家電エコポイントを付与するという制度です。家電エコポイント制度によって、グリーン家電に買い替える世帯が増加し、人々の行動や環境意識を変化させることができたとも言えます。
東京都の東京ユアコインとは、東京への社会的・経済的な貢献を行い、SDGsの推進に寄与した際に発行されるポイントであり、東京都の取組として、モデル事業にて実証実験が2020年の1月から2月に行われていました。モデル地域において、オフピーク通勤、マイバックでの購買、クレジットカード購買などの対象行動を行うと、ポイントが付与され、貯まったポイントで、買物などができる仕組みとなっています。
以上の事例ように、人々の購買行動や環境配慮行動を促すことで当事者意識をも向上させることにポイントが役立っていると考えることができます。企業や行政側は行動を促すことができ、消費者はポイントを得ることができるという両者にとってウィンウィンな取組ができることが、ポイント事業の特徴であるといえます。ポイントを貯め、自身の還元を実感しながら、環境や社会配慮の事柄を行えるのであれば、より良い方法ともいえるのではないでしょうか。
現金還元やプレゼント【企業】【個人】
ポイントに限らず、何かをしたことで、現金による還元やプレゼントがもらえるという取組も多く行われています。キャッシュレスの還元や懸賞品などがその例です。ポイントのように継続的な購買行動の影響ではないですが、大きな買い物や買い替えなど一度の購買行動には影響を与えることができます。環境問題関連では、環境問題に関するセミナー参加によって現金還元が得られたり、プレゼントをもらえたりすると、より多くの人がこのセミナーに参加するきっかけにもなるかもしれません。このように、活用の仕方を考えれば、現金還元やプレゼントによって、人々の環境問題への当事者意識を向上させることができるかもしれません。
私たちにできること
これまで、当事者意識を向上させるさせるためには何をすればいいのかというテーマのもと、その手段について考えてきました。かなりの数を書いてしまったので、ここで簡単にまとめておきたいと思います。それぞれの項目ごとに対象が企業、個人で誰なのかについても簡単に示しました。今後の行動の参考にしていただければ幸いです。
当事者意識を持って環境問題を考えるためには、政府や企業は国民や消費者に対して当事者意識を抱かせる政策や取組を行うことが必要となってきます。しかし、情報収集などの個人としてできることを行うことも非常に重要です。個人単位でもインターネットで現状を詳しく調べることもできますし、ポイント還元や現金還元型の取組を調べることもできます。
また、自分がどれだけエネルギーを使っているのか、どれくらい普段ごみを出しているのか、など自分自身の生活に少し環境問題という視点を取り入れることで、今まで気づいていなかったことが見えてくるかもしれません。これらに伴い、当事者意識が向上し、自分自身が取り組める環境問題解決への取組に積極的な参加につなげていくことができたら、日本、世界が抱える環境問題の解決が少し近づいてくるかもしれません。
最後に
今後ますます環境問題の被害が身近になってくるかもしれません。この記事を読んで少しでも環境問題に関心を抱き、地球に優しい生活の仕方を行おうと思う人が増えればと思っております。ぜひ、簡単なことでも構わないので、自分なら何ができるのか、何に参加できるのかということを考えてみてください。