レジ袋と私たち
所属:早稲田大学
インターン生:N.Kさん
プラスチックは大変便利な材料ですが、環境問題、資源不足、海洋ゴミ問題といった様々な課題を抱えています。そういった中で、これらの課題に向き合うため、国は2020年7月1日からレジ袋の有料化を開始しました。レジ袋有料化によって、私たちの生活にはどういった影響がもたらされるのか、考えていきたいと思います。
背景
以前から、レジ袋の年間消費量は305億枚と言われてきました。305億枚と聞くと想像つかないかもしれません。しかし、このデータは2002年のもので、現在では305億枚を超えるレジ袋が消費されていると予想されています。早速ですが、現在の消費量について少し試算してみます。まず、レジ袋消費量=国内出荷量+輸入量という式を立て、国内出荷量と輸入量についてそれぞれ検討していきます。
日本ポリエチレンフィルム工業組合の2019年のデータによると、国内出荷量に関しては7.8万トン、輸入量は59万トンを半分に割った28万トンでした。これをレジ袋の重さ(一枚の重さ=LLサイズの9.9g)で割ると、レジ袋年間消費量は約362億枚と推定されました。この莫大なレジ袋の消費量を抑えることで、プラスチック問題が少しでも緩和できるのでないかと考え、国はレジ袋の有料化に踏み切りました。
有料化のルール
経済産業省がレジ袋有料化の明確な定義を述べていますが、ここでは大まかなポイントを抑えて説明していきたいと思います。
対象となる業者
まず対象となる業者は主に小売店です。小売店と聞くとどこまでが小売店かという判断は難しいかもしれませんが、簡単に言ってしまうと店舗で商品を販売しているところに当たります。
対象となる買い物袋
明確に「消費者が購入した商品を持ち運ぶために用いる、持ち手のついたプラスチック製買い物袋」と定義されています。
対象外となる買い物袋
一方で有料化の対象にならない買い物袋もあります。
①プラスチックフィルムの厚さが50マイクロメートル以上のもの
50マイクロメートル以上の袋は、繰り返し利用が可能であり、レジ袋の過剰な使用や消費を抑えることができるため、有料化の対象外です。ただし、有料化されたレジ袋との区別ができるように「この袋は50μm以上であり、繰り返し使用することができます」という表示をしなければいけません。
②海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの
海で微生物によって分解され自然界へと循環する性質を持つプラスチックの重量が、プラスチック製買い物袋のプラスチックの重量の100%を占める場合、海洋ゴミ問題対策に寄与するので、有料化対象外となります。ただし、「海洋生分解性プラスチックの配合率が 100%であることが第三者により認定又は認証されたことを示す記載又は記号 」を表示する必要があります。
③バイオマス素材の配合率が25%以上のもの
ここでいうバイオマスとは、動植物に由来する有機物である資源のことで、この素材の重量がプラスチック製買い物袋のプラスチックの重量の25%を占めれば、温暖化対策に寄与するとして、有料化の対象外となります。この場合も「バイオマスの配合率が25%以上であることが第三者により認定または認証されたことを示す記載または記号」が必要です。
有料化の対象外となる条件は以上の3つになりますが、この知識を少しでも知っておくだけで、買い物の際に何かと役に立つことがあるかもしれませんね。
世界の国々の取り組み
このレジ袋によるプラスチック問題というのは、何も日本に限ったことではありません。世界中の国々が向き合わなければいけない課題です。日本では2020年の7月1日からレジ袋有料化が義務となりましたが、実は動き出しはかなり遅れています。アメリカ、インドネシア、オーストラリア、インド、イギリス、フランス、オランダ、ポルトガル、チリ、ケニア、バングラディシュ、中国、ニュージーランド、アイルランド、ドイツ、ペルーといった数多くの国々は、以前からプラスチック問題に向き合っています。この中のいくつかの国や地域を取り上げてそれぞれの取り組みを見てみましょう。
アメリカ(ハワイ)
ハワイではビニール袋の使用が禁止されています。2015年からレジ袋の有料化が始まり、2018年にはレジ袋の料金を一律15セントと法律で定められました。また、レジ袋として使用が許可されているものは、再利用可能なプラスチックバック、生分解性プラスチックバック、再生紙バックに限られています。
バリ(インドネシア)
バリでは2013年にとある姉妹が「ゴミゼロ運動」を始めました。この運動はいつしか一大イベントとなり、2016年にはバリ島のスーパーマーケットやコンビニではレジ袋の有料化が導入されました。さらに2019年、バリ島の一部の町ではレジ袋の提供が禁止される条例が施行されました。この条例を見習って、他の町でも自主的にレジ袋を廃止するお店が出てきているそうです。
インド
インドはかなりゴミの規制が厳しい国です。人口が世界で一番多いという理由から、以前は人々がポイ捨てしたゴミがデリーの川を覆ってしまうほどでした。この問題を解決すべくインドでは使い捨てレジ袋、コップ、ストローなどを禁止する法律が存在します。違反した場合は罰金や懲役が科されるという点から、インドがゴミ問題を重要視していると伺えますね。なかなかここまで規制することは難しいかもしれませんが、ゴミ問題に対する厳格な姿勢は必要だと感じました。
イギリス
イギリスでは2011年からレジ袋有料化の動きが始まり、2015年には導入が義務となりました。7大スーパー(テスコ、ASDA、セインズベリー、ウエストローズ、マークス&スペンサー、モリソンズ、Co-op)ではレジ袋有料化によって、2014年と比べて、2018年の年間レジ袋消費量は、86%減少したと報告されています。また、人々のエコ意識が向上しほとんどの人がマイバックを持参しているそうです。レジ袋の価格は約5円と日本よりも高価ですが、現在はさらに値段を引き上げる検討をしています。日本もイギリスのエコ意識を見習って行きたいですね。
チリ
チリは2018年からプラスチックのレジ袋の使用を禁止する法律を施行しています。衛生上よろしくないものや廃棄物に関しては適用外となっています。また、法律を破った場合には、インドと同様に罰金が科されるそうです。罰金額ななんと、4万円です。これだけ高いと人々はビニール袋を使わなくなりますね。
バングラディシュ
バングラディシュは世界で初めてポリエチレン袋を禁止した国です。バングラディシュはかなり深刻なプラスチック問題が健在していて、悲惨な状況でした。そこでビニール袋の代わりに伝統的なジュードという自然の素材を使用するようになり、プラスチックゴミ問題は緩和されつつあります。
このように世界の他の国々の取り組みについて見てみましたが、やはり日本のスタートは少々遅れているように感じました。遅れてしまった分、今後さらに積極的にプラスチック問題と日本全体で向き合って行く必要がありそうです。
有料化のメリット
レジ袋を有料化することで日本には、どんなメリットが創出されるのでしょうか。私が思いつくメリットは主に5つありました。それぞれのメリットについて詳しく解説していきます。
①人々のエコ意識・ライフスタイルの変化
全部で5つメリットを挙げますが、私は人々の意識と生活が変わることが一番のメリットだと考えています。実をいうと、プラスチック生産量を占めるレジ袋の割合はかなり小さいです。Statistaの調査によると、日本の一人当たりの年間プラスチック生産量は106kgだそうです。これに日本の人口1億2000万人をかけると、日本の年間プラスチック生産料は約1272万トンと計算でき、その内2. 背景で求めたレジ袋35.8万トンが占める割合はなんと2.8%です。もし、レジ袋を廃止できたとしてもプラスチック問題の解決には程遠いです。
プラスチック問題を解決することはできませんが、レジ袋有料化によって人々のエコ意識や生活は変わるかもしれません。特にマイバックが持つ重要性について再認識する良い機会だと思います。レジ袋にお金がかかってしまうので、多くの人は自分専用のバックも持ち歩き始め、やがて持ち歩くことが習慣となり、マイバックを使うことが「当たり前」になると予想できます。この「当たり前」を増やしていくことが、問題を解決する上で大切なのではないでしょうか。
イギリスではレジ袋有料化によって人々のエコ意識が変化したそうです。経済社会総合研究所は、イギリス人3000人を対象に調査を行いました。その結果、有料化を機にレジ袋の使用率が25%から7%まで減ったということが判明したそうです。またレジ袋有料化の支持率が51%から62%に増加している点からも人々の意識が向上したと伺えます。イギリスのように日本でも1年後の国民の意識は向上しているでしょう。
②小売店におけるレジ袋の仕入れ費用削減
レジ袋を使用するお店は、有料化によって恩恵を受けることができます。具体例で見てみましょう。年間1億枚のレジ袋を使用する小売店があるとして、レジ袋一枚当たりの費用を2円かかるとします。レジ袋が無料の場合、1億枚×2円で2億円の仕入れコストがかかってしまいます。
しかし、もし有料化し、2000万人のお客様がレジ袋を一枚2円で購入した場合、4000万円が利益として入り結果的に仕入れコストは全体で1億6000万円に抑えることができます。つまり、レジ袋の有料化は多くのお店にとってメリットがあると言えそうです。
③ゴミの減量化、ゴミ処理コストの削減
有料化によって人々のレジ袋消費量は減少することで、レジ袋がゴミとして廃棄される量も比例して減ります。その結果ゴミの廃棄量が減り、ゴミを処理する際のコストを削減することができます。また、レジ袋はプラスチックからできていて、処理をする際にダイオキシンといった有害物質が発生する恐れがあるので、プラスチックの廃棄量を抑制することは地球環境にとっても望ましいと思います。
④地球温暖化の抑制
レジ袋有料化によって少なからず地球温暖化は抑制されます。まず、石油資源の消費を抑えることができるので、石油を燃やす際に発生する二酸化炭素を減らすことが可能です。もしこのまま石油資源を使い続けてしまうと、地球温暖化は深刻な問題になると言われています。現在確認されている石油約1630億トンを燃やした場合、大気に排出される二酸化炭素の海洋や陸域生態系に吸収され、820億トンが大気に残ります。
その結果、空気中の二酸化炭素濃度は10%増加し、オゾン層、森林へのダメージ、は計り知れないとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は警鐘を鳴らしています。だからこそ石油資源の消費を少しでも抑えるために、レジ袋有料化は必要だと考えられます。
有料化のデメリット
実はレジ袋有料化はメリットばかりではなく、有料化にすることで生まれてしまうデメリットも存在します。考えられるデメリットとそれに対する解決策をいくつかご紹介していきます。
①マイバック持参による負担
レジ袋に取って代わると予想されるマイバックを持ち運ぶことは、多くに人にとって負担になると考えられます。特に学生や会社員の方々にとってはハードルが高いかもしれません。主婦やお年寄りの方々は買い物を頻繁にするので、比較的マイバックを持参する習慣が身に付いていると思います。実際に私の母に話を聞いたところ、母の友人の10人に7人はマイバックを使用して買い物をしているそうです。
また以前私がスーパーマーケットを訪れた際に、お年寄りの方の九割近くの方がマイバックを持ち歩いていました。しかし、私を含め学生でマイバックを持ち歩いている人は今まで見たことありません。マイバックを持ち運ぶという考えがないように思えます。これは会社員の方も同様で、昼食をコンビニで買ってビニール袋に入れてもらっているのをよく見かけます。
「学生と会社員の方々にマイバックを使う習慣を身に付けてもらうにはどうすれば良いか」と考えた際に、私はマイバックの機能性とデザインを改良するべきだと思いました。まず機能性に関しては、マイバックに汚れや匂いが染み付いてしまうのではないか、といった悩みが少なからずあると考えられるので、汚れや匂いが付きにくい、もしくは洗って落としやすい素材に変えることで、あらゆる場面で使えるようになります。
また、今よりもコンパクトに収納することができれば、手軽に持ち運ぶことも可能になります。デザインに関しては、マイバックらしさがなく普段のバックとしても使えるようなデザインを取り入れることで、日常生活で使用するハードルが下がるかもしれません。
②お店の業務効率低下
これは主にコンビニに言える話ですが、レジ袋不要のお客様にそのまま商品を渡す、もしくはお客様のマイバックに店員が商品を詰めるどちらにせよ、レジの回転率が下がってしまう恐れがあります。もしレジが1つしか稼働してない店舗だとしたら、長蛇の列ができてしまい、購入を諦めてしまうお客様が多くなり、売上が低下する可能性も考えられます。
この問題を解決するためには、レジスペースを改良しサッカー台を設置することが有効的だと考えました。会計後にすぐに商品を袋に詰めるサッカー台を作れば、スーパーマーケットのようにスムーズな流れができるはずです。さらにサッカー台がレジの隣に設置されていれば、店員が商品を袋に詰めていた時間が短縮され、以前よりもレジの効率が上がるかもしれません。
このようにレジ袋有料化を実行する場合も、デメリットが発生する場合があります。そういったデメリットをカバーしていくことで、持続可能性の高い世界に一歩近づくのではないかと思います。
最後に
これまでレジ袋有料化に関する海外の事例やメリット、デメリットについて説明してきましたが、一概に有料化、無料化どちらが正しいと現時点で判断することは難しいです。イギリスのように日本が変わるかどうかは、導入からしばらく時間が経過してみなければ誰にも分かりません。
だからこそ数年後に、レジ袋の有料化は結果的に成功だったと言われるように、今私たちはプラスチック問題に対して当事者意識を持つ必要があると私は思います。レジ袋有料化を機に、「私には直接関係ないからいいや」とそっぽを向いていた状態から少しでも関心を寄せることで、プラスチック問題は解決に向かいます。たとえ1人の小さな変化でも1億2000万人全員が変化すれば、全体では大きな変化になるはずです。私自身小さな努力をすべく、最近はなるべくペットボトルを買わずに、家から水筒を持っていくようにしています。
もしあなたの身の回りに小さな努力をすれば変えられることがあれば取り組んでみてはどうでしょうか。そうした小さな努力を全員で積み重ねることで、地球は必ず持続可能な世界になるはずです。