コロナ渦で増えたフードロス、どうする?
所属:Soka University of America
インターン生:K.Hさん
新型コロナウイルス感染拡大防止のための休業要請や観光客激減により、食材、食品や土産物が全国各地で行き場を失い、滞留し始めました。しかしながら、増加したフードロス対策としてのフードシェアリング が急成長しているのも事実であり、大手企業から小売業者まで日本各地でフードロス削減の意識が高まってきています。
2020年春、日本国内では新型コロナウイルス感染ピークを迎え全国的に緊急事態宣言が出されました。それに伴い全国の観光地や飲食店が外出自粛による影響を受け悲鳴をあげています。
経済的な打撃を受けているのはもちろん、食料や食品を破棄することはお肉や魚などの動物たちの命を捨てることでもあり、作物を作る農業従事者に対しても、エシカル(倫理)的に問題があるとみられます。そんなコロナ渦の中、フードロス削減のためにはどう行った措置が取られているのでしょうか。
国内外での食品ロス削減の動き
日本では2019年5月、「食品ロス削減推進法」が成立し、同年10月に施行されました。内容としては(1)自治体への推進計画の策定、(2)企業への施策協力、(3)消費者への自主的取組み強化を促す条文が盛り込まれています。食品ロスの削減に関して国や地方自治体などの責務などを明らかにしつつ、基本方針の策定や食品ロス削減に関する施策の基本事項を定め総合的な推進を目的としています。
新しい法律の制定にも見られるように、日本社会でもフードロスに対する意識がここ数年でかなり変わってきたように思えます。しかしながら、日本国内での取り組みはまだまだ海外からはかなり遅れている状況であるのも事実です。わかりやすい例でいうと飲食店でのテイクアウト(持ち帰り)に関してです。
海外の飲食店では“Doggy bag”や“To go box”と言われるテイクアウト用の箱をお店側に用意してもらい、レストラン等で食べきれなかった食事を持って帰ることが可能なのが当たり前とされていますが、日本ではあまりその様子を見かけません。日本では万が一の食中毒等のリスクを鑑みて、持ち帰りが不可能な場合が多いように思います。不思議なのは同じお店の持ち帰りカウンターで購入した商品は持ち帰ることができるのに、イートインでの食べ残しの持ち帰りができないことです。
また海外では、飲食店と消費者をつなぐフードシェアリング サービスが早くから始まっています。フードバンクの活動はもとより、売れ残ったり消費期限が近い食料品を専門に取り扱う格安スーパーマーケットがあったり、スマートフォンのアプリを活用したプラットフォーム型のフードシェアリング などかなり発展しています。
フランスでは2016年、賞味期限切れ食品の廃棄を禁止する法律が成立しました。一定規模以上のスーパーマーケットは慈善団体との食品寄付の契約を締結するよう義務付けられました。売れ残った食品は契約した慈善団体に寄付するか、家畜の飼料や肥料に転用することが義務付けられ、違反した場合には罰金が科せられます。
このように世界的にみても食品ロスへの懸念は高まり、食品ロスが出てしまうことが当たり前なのではなく、食品業界はロス削減に対する何らかの取り組みを行うことが当たり前というような潮流ができてきています。
Food loss(食品ロス)とFood waste(食品廃棄)
そもそもフードロスとは食べるために作られた食品が捨てられることを指します。国際連合食糧農業機関(FAO)によると世界全体で人の消費向けに生産された食料のおよそ3分の1、量にして年間約13億トンが失われたり捨てられたりしています。
全体として、開発途上国よりも先進工業世界の方が無駄にされている食料が多いというデータもあり、消費者1人当たりの食料廃棄量は、ヨーロッパと北アメリカでは95−115kg/年であるのに対して、サハラ以南アフリカや南・東南アジアではたった6−11kg/年であると推定されています。エシカルな論点のみならず、食品ロスは廃棄処理にコストがかかり多量のCO2を排出しているという点でも持続可能な地球社会の構築を目指すうえで問題視されています。
日本語では混同されがちな食品ロス(food loss)と食品廃棄(food waste)ですが、厳密に言えば2つの段階に分けられます。食料ロスは生産、収穫後、および加工といったサプライチェーンの早い段階で発生することが多く、例えば、店頭には並ばない規格外品、加工過程で不要となった食材や食品等が含まれます。
食料廃棄は小売や消費段階で発生することが多く、まだ食べられるのに捨てられている物を含み、賞味期限切れの商品や食べ残し等がそれにあたります。日本など「先進国」ではサプライチェーン下流の食料廃棄が多く、まだ食べられるものが多く含まれているため、この解決が課題となっています。
フードシェアリング 業界の拡大
フードシェアリング サービスとは、小売店や飲食店と消費者やフードバンクのような団体をスマートフォンのアプリなどを使ってマッチングし、廃棄されてしまいそうな調理品や食品を提供するサービスです。
2015年あたりからヨーロッパで普及し始め、現在各国や地域で幅広く活用されているものもあります。プラットフォームを活用した方法により、これまでは廃棄されそうなものを消費者が割安で購入するという選択肢さえ与えられてこなかった食品が消費者の元へ出回るようになりました。これにより店舗側は来店しているお客さん以外にも広く即時に告知でき、消費者にとっては選択肢が広がるというメリットがあります。
フードシェアリング サービスの仕組み
プラットフォーム型のフードシェアリングサービスにも様々な特性があり、対象や目的によって主に営利型、チャリティ型、コミュニティ型と、サービスの種類が分けられています。食料ロスと食料廃棄の段階の違いに観点を入れて修正したものが以下の3つのマッチングパターンです。
- 飲食・小売店×消費者
- 飲食・小売店×組織・団体
- 農家・生産加工業者×組織・団体
1.飲食・小売店×消費者
まず一つ目は飲食や小売店と消費者を直接マッチングするサービスです。レストランやベーカリーなどの飲食店やスーパーなどの小売店がその日に売れ残りそうな調理品や食材をアプリ上で割安で販売し、それを購入した消費者は現地に取りに行きます。お店のメニューそのまま決まった品物が販売されていることもあれば、その時に残っているものを自らその場で袋詰めにする場合もあります。
基本的にどのサービスも、ユーザーが支払うのは食品代金のみであり、登録店舗が売上をあげた時点でそのうちのいくらかを手数料としてとっているケースが多くなっています。海外企業で多くみられる手数料額は大体20%〜30%といったところでしょうか。このモデルでは、食料廃棄がどれだけ売れたかどうかが直接売上に関わるため、登録店舗数とアクティブなユーザー数の確保・維持がカギとなります。
また、いずれのサービスにおいても、廃棄をまぬがれた食料やそれに付随したCO2の削減量等の環境面の社会的インパクトを、ホームページ等で強調しています。消費者にとってもただ売れ残り商品を安価で買える「お得感」のみならず、社会貢献度に対する価値を見出していることもうかがえます。
2.飲食・小売店×組織・団体
消費者個人ではなく、団体や組織とマッチングをすることに特化するサービスも存在しています。このパターンは非営利団体による運営が多く、アプリ等を活用しフードバンクのようなチャリティ組織と飲食・小売店をマッチングすることで、食環境が貧しい人々に分配が行われるルートを確保するための取り組みがみられます。
アプリを活用することで、飲食・小売店で扱われることの多い調理済みの食品の余剰を即時に把握できるようになり、より短時間で的確に食料を分配すべき地域や人の特定が可能になっています。1のモデルに対して、このモデルの日本での活動数はあまり多くはありません。しかし、食品ロス削減推進法にはフードバンク支援が明記されており、農林水産省はフードバンクへの寄付に関して企業に税制上の優遇措置を設けるなど促進策を展開しており、今後広がっていく可能性も大いにあります。
3.農家・生産加工者×組織・団体
上記のマッチングに比べると事例は少ないですが、サプライチェーンの上流である農家や生産加工業者等と組織を繋ぐ取り組みもみられます。例えば、アイルランドに拠点を置くFood Cloudでは2種類のサービスを名称や体制を分けて提供しています。1つ目のFood Cloudでは飲食店やスーパーマーケットで出た余剰な調理品や食品とチャリティ組織をマッチングする②の活動を、アプリを通して行っています。
一方でFood Cloud Hubと呼ばれる方は食料ロスをターゲットとしてサプライチェーンのより上流である生産者や加工業者とチャリティ組織をマッチングしています。こちらはより大規模な食品や在庫を扱うため、アプリではなく倉庫管理のITシステムと導入して運営しています。非営利団体としてではなく、社会問題の解決を目的としながらも収益事業に取り組む社会的事業(Social business) として活動しています。
現在存在しているこのタイプのサービスは、食料廃棄と食料ロスの両方をターゲットにしているものが多く、①や②の食料廃棄のみに対応したソリューションに比べると扱う食品量の規模が大きく、また食品らを移動させる距離が長い傾向にあります。
そのため、食品・食材と受け取り手のマッチングだけでなく、ロケーションの把握や移動人員と手段の確保など①や②では重要視されていない項目もカバーされています。こういったサプライチェーンの上流で生まれる食料ロスについては、食料として扱う以外にも、再生可能エネルギーに転換するという取り組みもみられます。
コロナ渦の中で休業要請やお客さんの減少により余ってしまった食品や在庫、売り上げの低下に対する対策として、フードシェアリング サービスを利用する販売者や店舗が増えてきています。登録店舗数が増えれば増えるほど、ユーザーの選択肢も増え、満足度も増加します。そしてユーザー数が増えれば店舗ごとの売り上げや知名度も上がり、サービス全体の向上が期待できます。このコロナ渦でフードシェアリング サービスが日本中でさらに広がり、食品ロスが成長市場になることは間違いないはずです。
日本でのフードシェアリング サービスの普及
日本でも、2018年ごろから、①を中心としたフードシェアリングサービスが登場しています。2018年よりサービスを開始した株式会社コークッキングのフードシェアアプリ「TABETE」や、SHIFFT株式会社が運営する定額制が特徴の「Reduce GO」等が代表例です。しかしながら、海外事例と比較しての大きな違いはその規模です。
国際的にも知名度が高く、今や欧州14 カ国に展開するデンマークのToo Good To Goは2020年2月時点で登録者数は2000万人を超えています。それに対し、TABETEの登録者数は現在およそ20万人です。「TABETE」の創業者は、「Too Good To Go」に着目して日本でのサービス展開を考えたと語っています。類似の課題に対して、既に広く普及しているものからヒントを得てそれを応用することは物事の発展に重要な一歩ではありますが、サービスの背景にある考え方や環境が異なれば、サービスモデルがすぐさま日本で機能するわけではないことを認識しておく必要もあります。
フードシェアリングサービスの利用が日本で増えていくかは、消費者や企業がこういった取り組みに価値を置くかどうかに左右されます。それには食料ロス・廃棄問題に対して社会全体がどのように考え取り組んでいるかが大きく影響しているといえるでしょう。
欧州では、そもそもの社会的背景として循環型経済や持続的な社会のあり方の模索のなかで、社会全体の基礎に根付く価値観や体制が変化している点があります。①に限らず、②や③のような取り組みが広がっているのも、こういった背景が大きく影響していると言えるでしょう。ここで、日本で運用されているフードシェアリング サービスを紹介します。
TABETE
一つ目は上記でも紹介した「TABETE(タベテ)」。2018年にサービスが開始し、開始当時は少なかったユーザー数もコロナ渦でさらなる注目を集め増加しています。運営する株式会社コークッキングによると、2020年1月には21万6496人だったユーザー数は、4月には25万1104人と三ヶ月で約16%増しています。
Webサイトに掲載されている店舗数も506軒から878軒へと1.7倍に増加し、「レスキュー」と呼ぶマッチング回数は月間1870回から同6392回と、3カ月で3.4倍に急増しました。お店側の初期費用とランニングコストは掛からず、販売者はマッチング手数料としてTABETEに1食当たり150円を支払います。
TABETEはサービスを提供するエリアを限定して、密度を高めるドミナント戦略を取っています。サービスエリアは現在、首都圏を中心に金沢・浜松・名古屋・大阪・神戸などで、特にエキナカでの一番相性がいいそうです。東京駅構内では、商業施設の「GRANSTA(グランスタ)」の運営側がTABETEと協業して、食品ロス削減に取り組んでいます。そのほかにも、東京農業大学の学生食堂がビュッフェで余った食材を弁当にして販売するといった施策を生み出し、TABETEを導入した上で学校という場所でどのように使えるかを検討しています。
コークッキング代表取締役CEO、川越一磨氏は「食品ロス対策に関して、EUなどと比較すると認知度がまだ低い。宗教的、文化的な違いもあるし、飲食店と生活者との密接な関係が、日本の大都市圏では根づきにくい」と語っています。「日本の消費者に、フードシェアリングサービスに親近感を持ってもらうためには、サービスを翻案する必要があると考えた」と言う川越氏が考え付いたのはサービスにストーリー性を持たせることでした。「食品ロスとなってしまいそうな料理を、食べ手(=TABETE)がヒーローになって助ける」というストーリーを作り、TABETEでは購入することを「レスキュー」と呼んでいます。
Wakeari
二つ目に紹介するのは、このコロナ渦のなかで新しくオープンしたサービス、「Wakeari(ワケアリ)」です。新型コロナが経済的にも猛威を振るう中、飲食店舗、卸売業者、小売業者、製造業者などの、経営困難に陥った状況を解消したい思いから始まったサービスです。上記のTABETEのようなプラットフォーム型のサービスとは少し異なり、売上の打撃を受ける食品業者の商品を、訳あり価格で販売できる通販モール(マーケットプレイス型ECモール)です。
事業者は販路確保の選択肢の1つの手段として、自社商品や在庫を「訳あり商品」として出品し販売できます。消費者にとっては、意外な商品や掘り出し物に出合えるチャンスとなり、通常よりも安い価格で「買って応援、食べて応援」ができるシステムです。
Wakeariを運営するInSync株式会社の理念は、事業者と消費者の双方が相互的な協力関係を築き続けることです。経済というものは「人と人との間での取引が継続的になされること」でその活動を維持、活性化できる一方で、現在の状況はその根源である「人と人」という最も重要な活動原資が制限され、上流から下流に至るまで、あらゆる取引が停止せざるをえない状況にあります。
しかし、たとえ人と人との接触を要する対面的な取引は難しいとしても、インターネット上の取引であれば経済活動を少しでも継続的に維持できるのではないかという可能性を見出し、「買って応援、食べて応援」を実現しようとしています。
このように、中食・外食産業において、フードシェアリングプラットフォームはコロナ禍の中で数少ない希望の光となっており、これからの成長が期待できる産業分野でもあります。私たちも外食や観光が自粛中の今をきっかけに、食品ロス削減のためにできることを初めてみませんか?