コロナが「農業」に与えた影響、各国の対応と日本の未来
所属:創価大学
インターン生:H.Tさん
コロナウイルスは世界中に広まり多くの甚大な被害をもたらしています。そしてそれは多くの人々の命だけでなく経済や当たり前であった日常生活さえ壊してしまいました。しかし、この災禍は私たちの生活に様々な変化をもたらました。それらの変化は多くの副次的な利益を私たちに気づかせました。農業もその一つになると思います。
コロナウイルスによる食品への影響
2019年12月、新型コロナウイルスが中国の武漢省で発生し流行し始めました。それからすでに6か月ほどたつが未だに混乱は収まっておらず感染拡大により世界中で様々な被害が出ていて、特に輸出入の問題や外出自粛で食料品への様々な問題が懸念されます。
新型コロナの感染防止のため、インドやロシアなどの小麦や米などの生活に大きくかかわる作物の主産国が自国優先の食料供給、さらには都市封鎖などの要因が重なり世界への食料供給が一部影響するという事態が起きました。
それに対してG20各国の西側諸国は輸出入規制をしないように合意したことや2008年の価格高騰と比較すると食料の備蓄が潤沢だったため最悪の事態は免れました。
しかしながら、新型コロナの影響はまだまだ把握しきれていない状況下でこの先に世界各国がどう決断し動いていくかは完璧に予測することは不可能であり、特に日本などの食料自給率が低い国はこの問題に真剣に取り組んでいく必要があります。当記事では新型コロナが世界、日本の農業や食品にどのように影響していくかを書いていこうと思います。
世界の農業に対する動き
上記の通りに世界各国では地域によって文化、気候や人口も違うので当然対応も異なっています。欧州やアメリカ、オーストラリアなどの西側の国々とロシア、インド、東南アジアの動きもかなり重要であるといえます。ここではこれらの国々がどのような対応をとっているかを見ていきます。
ロシア
ロシアやウクライナ、カザフスタンなどの旧ソ連諸国は世界的にも小麦やライ麦ひまわり油などの主要穀物の輸出の割合を大きく占めています。
しかしこれらの国々は新型コロナの状況に際して自国民への供給を優先し他国(ユーラシア経済同盟参加国を除く)への輸出制限の措置をとりました。
具体的に、ロシアは4月から6月までの小麦の輸出を700万t(日本経済新聞)に制限しました。しかしながら、この予定していた穀物が終了したということで、6月末まで穀物(小麦、ライ麦、大麦トウモロコシ)の輸出を停止することを発表しました。
欧米
新型コロナの影響で欧米諸国では多くの農産物が行き場を失っている理由としては都市封鎖などの影響によって学校給食が中止になるなど、様々な場面での食料の消費が落ち込んでいるという背景が存在します。
なので、必然的に生産者は多くの農産物を廃棄することを迫られていました。例に挙げると、アメリカは牛乳の消費が落ち込み全体の生産量の5%に当たる1400万リットル(の本農業新聞4/20)が一日に廃棄されています。
EUのジャガイモの主産国であるオランダはレストランやバーなどの閉鎖によりEU圏への輸出が止まり前年の4分の1に当たる150万トン(日本農業新聞4/20)が在庫として余っています。そういった中で欧米などの西側諸国と日本や中国を含む国々は3月30日緊急テレビ会合で新型コロナの終息まで過度な貿易制限を行うことを避けることに合意しました。
インド、東南アジア
インドなどの南アジア地域や東南アジアなどの新興国も新型コロナの影響が大きく農業に影響しています。これらの国々でもやはり都市封鎖などによる労働者などの人手不足により多くの作物が収穫できない状況があるなどのこともあり農作物、主にコメなどの輸出規制さらには停止などの対策を講じる国が出始めています。
さらに新型コロナの影響だけでなく南アジア地域のインドなどでは干ばつにより輸出量が減少されるという問題まで懸念されます。
具体的にコメなどの産出国の主要国とその対応を挙げると、ベトナムが3月末にコメの輸出を制限(4月には再開)。ミャンマーやカンボジアは同様に4月から輸出規制に乗り出した。さらにはインドだけでなくタイも収穫量が干ばつにより減少しているので輸出量も減少が予想され価格の高騰も起きています。
新たな需要や考え方、取り組み
新型コロナの状況下で様々なことが大きく変化し、各国の食糧事情を見直す必要があることは明らかです。そのような中、欧州では新たに大きな需要を持ち始めたものがあります、それは植物の種や苗です。
世界的なパンデミックで多くの情報が行き来し、それらが一般市民に与えた影響は大きく世界の各地で食料の買い占めが起こりました。それに伴い各地のスーパーマーケットの棚からは商品が消えていきました。
そうした問題が影響を与え欧州の人々に家庭菜園などの自給自足に興味を持たせました。もともと欧州では、オーガニックの食品に関心がほかの国より高いこともありますが今回の問題は明らかに種や苗の消費に拍車をかけています。ここでは、具体的にどんな製品が売れてそれがどのように環境に影響しているかを述べていきます。
環境への影響
今まさに人類が直面している新型コロナの問題で外出自粛のために様々な産業が止まり輸出入に大きな影響が出たために大気汚染が一時的に改善されました。
船やトラックが排出する排気ガスによる大気汚染が改善されたのは喜ばしいことですが、長期的に物流物資が停滞し多くの市民の混乱を招くことは避けていきたいので徐々に各国が経済活動の乗り出し、また段々と大気汚染が進んでいく状態に戻っています。
そのような環境保全と生活基盤の維持との狭間で欧州の一部の国は家庭菜園などでこの危機の不安に対処しようとしています。欧州地域の食料自給率は日本と比べるとかなり高くフランス127%、ドイツ95%、イギリス65%となっています。
しかしながらこれらの国々もかなり輸入に頼っている面があり自国でまかなえている食品は穀物などのみで他は輸入です。このように各国が抱える食料自給の問題と新型コロナの時期が重なり輸入される食料の安定した供給が不安視されているのです。
イギリスを例に挙げて見てみると、先ほども述べたように食料自給率が高いように見えるけれども国内で生産している作物は小麦などの穀物が多く生活必需品の多くを輸入に頼っているので新型コロナの影響で危機感を感じたイギリス国民は植物の種や苗を大量に買い、自分の土地で育てることで食糧難に備える動きがみられます。
イギリスのSeed Co-Operative によると前年の6倍もの種などが売れているのです。このように余った土地で家庭菜園に取り組むことは非常に生産的かつ微弱ながら環境的な側面も持ちます。その理由としては農業用に更なる土地を開墾しなくて済むからです。さらには野菜などだけではなく花などの食用でない植物も売れています。
新型コロナの影響で外出が制限される中、家庭菜園やガーデニングを通して環境について深く考える時間ができたという報告もあります。このように今回の新型コロナで大規模な環境改善が短期間で達成されるわけではないのですが、個人が環境について真剣に向き合う大きなチャンスを生み出しているので長期的な環境改善に大きく役立つと思います。
日本が向かうべき方向
新型コロナの影響下で特定の国々は食物の禁輸や輸出制限に舵を切りました。その一方で、日本を含む東アジア地域と欧米諸国は極端な輸出制限などは避けるように取り決めました。
しかしながら様々な地域で買い占めなどが起こり市民は食糧危機の不安に駆られ、欧州地域特にイギリスなどでは植物の種や苗の消費が増えました。
彼らは余った土地を使用して家庭菜園を行い最悪の事態に対応できるように独自に行動しています。このような世界の情勢や動きの中で一体日本はどうするべきなのでしょうか。
欧州に倣い行動してみるのも一つの手段ですが、日本とヨーロッパでは使える土地や気候、文化も全く異なっているのでただ単純に猿真似をするだけでは生産的でないと考えます。そこで、ここではこれから日本がどのように食料や環境の課題に向き合っていくべきかを書いていきます。
食料問題の改善
日本では新型コロナの感染が広がる前から食料自給率に関することで様々な懸念がありました。日本では日本国人が普段摂取するカロリーのほとんどが海外から輸入された食品で賄われています。
そして、今回の新型コロナの影響でその食料に対する体制の脆弱さが浮き彫りになりました。今回のことについて日本で深刻な食糧難などになったケースはないのですが、買い占めによるパニックなどが有事の際での危機感を煽り、日本国民が自国の食料問題について深く考える機会になったと思います。
日本の食料自給率は約38%と言われています、この数字は先進国の中で極めて低い数値になります。しかしながらこの数値はカロリーベースでの食料自給率の考え方になります。
カロリーベースというのは一人一日当たりの国産供給熱量を一人一日当たりの供給熱量で割った数値ですそれに対して生産額ベースという指標があり、それは食糧の子機内生産額と食料の国内消費仕向額の割合になります。
日本ではカロリーベースが食料自給率を示すメジャーな指標で生産額ベースはあまり登場しません、しかし日本国内の食料自給率を品目別にみてみるとコメはもちろん、野菜やキノコ類などが高い数字を示しています。
このことを考慮に入れると比較的カロリーの低い野菜などの自給率が高い日本でカロリーベースを使って表すと低い数字が出るのは必然のような気がしますそれだけではなく日本では食の欧米化が進み自給率の低い小麦や肉類も多く伝統的な食事に代わって食べられるようになりました。
なので単純にカロリーベースの数字が示すように日本が強烈な食料問題に直面しているかどうかは簡単に表せることではないのかもしれません。ですが、カロリーベースの数字が全く当てにならないということでもないのでこの問題を甘く見てはいけないことに変わりはありません。そこでどのように有効的にこの問題に取り組みかつ環境に配慮していけるかを提案していきます。
対策1:耕作放棄地の利用
日本の人口は世界でも上位ですし、人口密度もかなり高いです。さらに国土の約7割を森林が占めているため農地として使用できる土地がほかの先進国と比べ限られています。
さらに余っている土地などは住宅地になってしまうケースが多いのです、そこで近年農地として注目されているのは耕作放棄地と言われる土地です。耕作放棄地は一年以上放置され尚且つ過度な再生作業を必要としない土地と定義されます。これらの土地は年々増加傾向にあり、このような土地が増えてしまう主な要因は農業人口の減少です。
さらにこのような土地が増えてしまうと環境についても様々な影響が心配されます。例えば、害虫の発生やイノシシなどの害獣の生息圏となってしまうという懸念があります。
これらの問題は人間の生活エリアのみならず他の森林などにも悪影響が及ぶ可能性があります。耕作放棄地に生息していたイナゴやザリガニなどが大量発生することでそのエリア周辺に生息していた植物や小動物などに被害が出て生態系が破壊されるケースがあります。
そのような事態を防ぐため人間の手によりしっかりとこのような土地を整備し有用につかうことで環境にも農業にも良い影響をもたらすことができます。これらの耕作放棄地を円滑に改善していくために役立つのが農地バンク(農地中間管理機構)です。これは平成26年に全都道府県に設置され中立な立場で農地の貸し借りをスムーズに進める役割をしています。
例えば、農地を所有している農家が高齢などの理由でリタイアを考えている場合、農地バンクが新たに農地を必要としている人捜します。つまり農地バンクとは農地のための不動産に相当するものです。この制度のおかげで新たな農業の担い手を獲得し耕作放棄地を改善し尚且つ地主には賃料、協力金が入るという持続可能なサイクルが生まれるのです。
対策2:地産地消
私たちが住んでいる土地にはそれぞれの気候や地形などの環境に適した食べ物が育ちます。一人ひとりが地元で育った食べ物を食べる取り組みが食料自給率の向上さらには余分な輸入される食材を切り捨てることで運送などで起こる排気ガスによる大気汚染なども長期的な目で見れば改善されるでしょう。日本屈指の農業地域である東北地方を例に挙げて見ましょう。
25年度 | 26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度(概算値) | |
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全国 | 39 | 39 | 39 | 38 | 38 |
北海道 | 198 | 207 | 222 | 185 | 206 |
青森 | 118 | 124 | 124 | 120 | 117 |
岩手 | 105 | 111 | 110 | 103 | 101 |
宮城 | 74 | 76 | 73 | 72 | 70 |
秋田 | 181 | 191 | 197 | 192 | 188 |
山形 | 136 | 142 | 142 | 139 | 137 |
福島 | 76 | 77 | 77 | 75 | 75 |
出展:農林水産省、平成29年の都道府県別食料自給率について
ほとんどの県が100%越えもしくはそれに匹敵するくらいの食料自給率を記録しています。もちろん田舎の農業地域と東京都のような都市部では大きな差があり、都市で地産地消をするには限界があります。
しかし、一人ひとりが国産の食べ物を意識して消費することは可能です。そのような意識改革をしていくことで、国内での農業への関心も高まり耕作放棄地も減少し国内の環境改善さらには食糧自給率の上昇によって不要な食物の輸送による排気ガスの減少も予想できると思います。
まとめ
当記事では、新型コロナウイルスによる世界各国の食料の輸出入への方針と食料物資に対する一般市民の新しい考え方を説明し、その中で日本が世界の状況にどのように生産的にわが国なりの最適解を考えるかということについて述べました。
欧米やその他の諸外国と違って、日本は大きな農業用地を確保しづらい環境にあります、なので食料の多くを輸入に頼っていて今回のような新型コロナの影響で実質的には大きい打撃は受けてはいませんが、これから先の新型コロナの世界への広がり方やその他自然災害などが起きたときにこのままでは私たちの食生活は立ち行かないと考えられます。
現時点ではロシアやインドなど日本には直接人が摂取する食物を生産している国ではない国々が禁輸措置を行なったため実質の影響は感じなかったのだと思います。しかし、アメリカやオーストラリアなどの日本と食料の貿易が盛んな国々の農業が気候変動などによって傾く可能性もあります。
さらには日本の農業を盛んにすることは食料自給率を上げるだけではなく、将来的に日本の農産物の安全性を国際社会に売り出し農業を日本の貿易の柱にできると思います。新型コロナは私たちの生活をおびやかす脅威である一方、私たちが将来的に向き合わなければならない深刻な問題について考える大きな機会をもたらしたのも事実であると思います。
世界の農業をより安全かつ効率的に環境に配慮すること、そうすることで私たちの健康も地球の環境も改善されるはずです。未来の私達の生活を豊かにするためにも美しい地球を守り続けるためにも、自分たちで何が大切かどう生きていくのかを考えていくべきなのではないでしょうか?