コロナウイルスは気候変動を食い止める?
所属:慶應義塾大学
インターン生:M.Mさん
新型コロナの流行は私たちの暮らしを激変させました。各国は感染者を最低限に抑えるために入国規制や都市封鎖といった行動規制を行い国家間の交流も大きく制限されることになり、企業では自宅で勤務をするテレワークが推奨されたり、多くの人が人との接触を極力控えるようになりました。しかし、新型コロナにより影響を受けたのは人間や経済だけではありませんでした。当記事では、新型コロナが地球環境にもたらした変化とその後について、詳しく考察していきたいと思います。
新型コロナの地球への影響
2019年12月、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)が中国武漢省で流行しました。それから約5か月がたってもなお、地球規模での感染拡大が広がっている新型コロナは、人だけでなく地球環境にも大きな影響をもたらしました。
新型コロナの感染抑止のため各国が行動規制を強めた結果、あらゆる地域で大気汚染が改善したのです。新型コロナを地球にとっての救済者だとする声すらあるようですが、その影響は一概に「良いこと」とは言えないのかもしれません。当記事では、新型コロナが地球環境にもたらした変化とその後について、詳しく考察していきたいと思います。
改善した大気汚染
新型コロナの流行は私たちの暮らしを激変させました。各国は感染者を最低限に抑えるために入国規制や都市封鎖といった行動規制を行い国家間の交流も大きく制限されることになり、企業では自宅で勤務をするテレワークが推奨されたり、多くの人が人との接触を極力控えるようになりました。しかし、新型コロナにより影響を受けたのは人間や経済だけではありませんでした。
新型コロナの蔓延により大きく変化したもの、それは、地球です。新型コロナ関連の報道が日常化してきたころ、メディアでは『4月22日は地球の日(アースデイ) 新型コロナで地球環境は改善か(Yahoo news 2020/4/22)』、『世界の都市の大気汚染、ロックダウンで異例の改善(CNN 2020/4/25)』といったニュースが見受けられるようになりました。SNSでの大気汚染の改善を伝える投稿も増えました。また、CNNは大気汚染改善について以下のように伝えています(CNN 2020/4/25 世界の都市の大気汚染、ロックダウンで異例の改善)。
- 大気汚染の実態を監視するスイス企業、IQエアの研究チームが世界10都市について、有害な微小粒子状物質PM2.5の濃度などを調べたところ、かねてから汚染が激しかった計7都市で状況が大きく改善していたことが分かったという。インドのニューデリーでは、3月23日~4月13日のPM2.5濃度が昨年より60%も低下
- 韓国のソウルも、2月26~3月18日のPM2.5濃度が昨年に比べて54%減となった。
- 武漢は2月26日~3月18日に、昨年より44%下がった。
- 米ロサンゼルスは3月7~28日の期間に昨年と比べて31%、過去4年の平均に比べると51%も低下し、良好な状態が連続18日間続いた
- 欧州でもロンドン、マドリード、ローマでロックダウン期間中、昨年より低い濃度を記録した
一方日本でも大気汚染物質の少なさを表す指数(CII:Clear aIr Index)が2019年3月の全国平均と比べ、2020年3月のものは0.03ポイント高い結果になったといいます(Yahoo Japan news 2020/4/22 4月22日は地球の日(アースデイ) 新型コロナで地球環境は改善か)。
更に、国際エネルギー機関(IEA)は4月末、20年の二酸化炭素(CO2)排出量が前年比8%減の306億トンになるとの分析を示しました(日経新聞 2020/5/11 コロナ後の経済対策、環境投資を軸に EU方針)。
新型コロナによる経済の停滞により工場の稼働が止まったり外出頻度が減少したことでCO2やPM2.5といった大気汚染物質が減少したという観点からは、新型コロナは地球環境にとっては良い影響をもたらしたといえるでしょう。
無視できない負の影響
前述したとおり、新型コロナは地球の大気汚染を改善させ、人間の生活が地球環境にどれだけ影響を与えているのかを私たちに再認識させるものでした。しかしその影響は決していいものばかりではありません。
世界で最初に新型コロナが流行した中国武漢省では4月8日、2カ月半にわたった都市封鎖が解除されました。NASAは5月26日、新型コロナにより停滞した経済の回復を試みる中国の、人工衛星からの観測結果を発表しました。
2月に撮影されたものと比べて5月の都市封鎖解除後はNO2濃度の濃い地域が拡大しているのが見て取れます。NASAは、大気中の二酸化窒素(NO2)の濃度が5月下旬の段階ですでに例年のレベルに戻っていると発表しています。
この観測結果からわかることは、新型コロナによる大気改善は極めて一時的なものでしかないということです。一時的に大気汚染物質の排出量が減少したのは確かですが、その後経済が再び動き始めればその減少分は取り返されてしまうのです。
そして実は、その“リバウンド現象”を、私たちはすでに経験しています。2008年、米国で起きたリーマンショックにより世界は大変な不況に陥りました。そのとき地球全体の温室効果ガスの排出量は3パーセント減少したものの、その後の経済回復によって数年間で元に戻ったといいます(WIRED 3/26 新型コロナウイルスの影響で、温室効果ガスの排出量が世界的に激減している)。以上を考慮すると、新型コロナによる一時的な大気汚染改善は手放しで喜べることではないことがわかります。
各国の経済回復に向けた動き
それでは、新型コロナの後の経済回復を狙う各国の景気対策を見てみましょう。日経新聞では各国の景気対策のうち環境重視のものを以下のようにまとめています(日本経済新聞 2020/5/17 コロナ経済対策、環境重視 長期的視野で各国立案)。
- フランス:航空救済に当たり近距離路線の減便を要請
- オーストラリア:航空救済に環境関連の条件を検討
- カナダ:石油・ガス企業の温暖化ガス削減の取り組みに融資
- スイス:太陽光発電設備の助成金増
- 中国:電気自動車なその購入補助を2022年末まで延長
- パキスタン;植林事業で雇用を創出
- アフリカ連合委員会:水汲みや医療用に再生可能エネルギーを利用
同紙は“英戦略コンサルタントのビビッドエコノミクスは主要16カ国のコロナ対策を分析し、フランスを高く評価する一方、自動車の燃費など環境規制を緩める米国の点数を先進国で最低にした。”とも伝えています。気候変動をこれ以上悪化させないためにも、各国には、経済回復だけでなく、環境問題も視野に入れた景気対策の施行が期待されます。
日本はどうするべきか
以上では、新型コロナが地球環境にもたらした影響のプラス面とマイナス面、また、その後の他国における景気対策についてお話ししました。以下では、それらを踏まえて日本はどのような景気対策を講じればいいのかを考えていきます。
まず大前提として、国内の停滞した経済を回復させることは第一に考えるべきでしょう。いくら環境保護を重視して国民が仕事を失うようなことがあってはならないからです。
よって、政府は「経済回復への対策に環境保護の視点を盛り込む」という軸を持ち対策を練るのが望ましいと考えます。私の考える、その具体的な方法について、政策面でのアプローチと企業に働きかける形のアプローチとの二つに言及していきます。
政策面でのアプローチ
「経済回復への対策に環境保護の視点を盛り込む」ための政策としては、前章にて紹介した各国の景気対策が参考になります。上記景気対策全てにおいて共通しているのは、環境保護への取り組み度合いにより融資額や補助金額を変えていることです。
「国内企業に対し一律に救済措置はとるが、環境保護に取り組むのならば追加の補助をする(もしくは、最低限の環境保護への取り組みを条件として救済措置をとる)」というスタンスで国内企業を支えていけば、経済回復と環境保護の両立が可能です。
企業に働きかける形のアプローチ
経済回復を図るうえで欠かせないのが、各企業の協力です。前述した軸に沿って各企業の協力を仰ぐ方法の一つとして、在宅勤務の推奨が挙げられます。経済活動の自粛により大気の状態が改善については、世界各国で人の移動が途絶え、自家用車や公共交通機関、航空機といった交通機関の利用が激減したこともその理由の一つです。
ですから、経済活動が再開した後でも、交通機関からの大気汚染物質排出を最低限に抑える努力はすべきであり、感染の再拡大を防ぐという意味でも、各企業ないし政府は、これからも在宅勤務を推奨するべきです。とはいえ在宅勤務が難しい業界も世界には存在します。そのような業界については在宅勤務とは別の方法、例えば、電力について再エネ利用を増やす取り組みの推奨をするなど、臨機応変に考える必要があるでしょう。
そのために必要なのが、在宅勤務をより行いやすくする環境の整備です。例えば、5Gの導入や6Gの開発を通して日本のネットワークを円滑にすることなどが考えられます。それらの最新技術を活用することで、日本企業での働き方は大きく変わるでしょう。
また、前述の政策面でのアプローチにも通ずることですが、在宅勤務の促進につながる事業や研究に対し補助金を出すことも有効だと考えられます。新型コロナの蔓延は、これからの世界におけるIT技術の重要性を私たちに再確認させました。在宅勤務に適した環境を整えることで、IT技術の推進にもつながるでしょう。
まとめ
当記事では、新型コロナが地球環境にもたらした変化とその後について、詳しく考察しました。新型コロナは私たちの生活と世界経済を大きく変えてしまいました。
しかし、こんな状況でも地球環境は着実に悪化しています。私たちは、新型コロナとともに生きながらこの地球を守る術を考えなければなりません。
新型コロナは私たちの社会を大きく揺るがし、世界中で多くの犠牲者が出てしまいました。しかしそれと同時に、私たちが既存の生き方を変えるチャンスでもあります。今こそ、自分や社会、地球にとって何が最善なのか、私たちはどう生きるべきなのかを考えてみませんか?