「再生可能エネルギー100%」時代は到来するか?

  • 更新日:2020/08/28

所属:創価大学

インターン生:W.Kさん

「再生可能エネルギー100%」時代は到来するか?の写真

日本では、福島第一原発事故(3.11)を機に、従来の火力、水力、原子力といった「集中型電力システム」から太陽光や風力などの「分散型電力システム」への転換が起こっており、主要電源としての役割を担う可能性があります。果たして、かけがえのない地球を次世代に受け継いでいくために、「再生可能エネルギー100%の世界」は創出されるのでしょうか。

世界で加速する「脱炭素」の動き

地球上の環境破壊が深刻化し気候変動が加速していますが、環境問題はどこか一国が力を出せば解決出来る訳ではないというこの問題が抱える性質が、環境問題が地球的課題たる所以です。日本を含めた世界中の国々、人々が協働してこそ、気候変動に代表される環境問題、そしてエネルギー問題解決への道が開けます。

現在、世界のエネルギー情勢は「脱炭素化」の波に乗っており、大きな転換点を迎えています。脱炭素化とは、温室効果ガスの人為的な排出量と森林などの吸収源による除去量のバランスを取るために、温室効果ガス排出量を低減することを意味します。

すなわち、人間が営む生活などを通じて排出された温室効果ガスの量と、植物などが光合成を通してCO2を吸収することで除去される温室効果ガスの量が、等しくなるようにするということです。

そして温室効果ガスの代表例である二酸化炭素は、(石油、石炭、天然ガスなど)を燃やすと発生します。発電の際には、大量の化石燃料が使用されているため、「脱炭素化」を推進するためには「化石燃料」の使用を減らしていく必要があるのです。

そのための手段として、発電時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーは、脱炭素社会を実現する上で重要な役割を果たすと考えられています。

2015年には、世界的な脱炭素化を志向して、パリ協定が採択されました。これは、温室効果ガスの排出・吸収のバランスを保ちながら、温室効果ガスを最終的にゼロにする事を目指すという目標設定です。

トランプ政権下のアメリカは残念ながら脱退しましたが、参加国のみで温室効果ガス総排出量のおよそ86%、159か国・地域をカバーするものと言われています。図1に示されるように、世界の再生可能エネルギー導入率(2017年)は高いものとなっており、脱炭素社会に向けて国際社会の足並みは揃えつつあると言えます。

世界各国の再生可能エネルギーの導入状況

図1 世界各国の再生可能エネルギーの導入状況 出展:資源エネルギー庁

日本における再生可能エネルギー普及のきっかけ

日本において再生可能エネルギーが本格的に普及する端緒となったのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災、そして福島第一原発発電所での事故(3.11)です。それ以前の日本は、原発および化石燃料への依存度が高かったのです。

しかし、こうした出来事をきっかけに、原発に依存しない社会の実現、グリーンエネルギー(太陽光や風力に代表される有害物質の排出量が極めて少ないエネルギー)革命の実現、エネルギーの安定供給が重要課題となりました。

また、火力や水力、そして原子力などの「集中型発電システム」を基盤として、私達の生活は成り立っています。しかし自然災害の被害を受けやすい日本では、災害などが発生し、ひとたび大規模発電所での発電がストップしてしまうと、たちまち生活を営むことが不可能になってしまうのです。

2018年に北海道で発生した大地震に端を発したブラックアウト(全域停電)は、記憶に新しいと思います。原因はいくつか指摘されていますが、端的にまとめると、当時道内電力需要の約半分を担っていた北海道電力・苫東厚真火力発電所が地震によって停止したことにあります。

道内最大規模を誇るこの石炭火力発電所において一極集中型の発電が行なわれたことによって、3.11の時にさえ発生しなかったブラックアウトが起こってしまったのです。

福島第一原発事故や北海道でのブラックアウトなどの反省に立って、環境負荷が小さく、そして大規模発電所の一極集中を避けるための「分散型発電システム」に日本での注目が高まりました。こうした諸条件にマッチするのが、再生可能エネルギーなのです。

省エネルギー化も当然大切ですが、①出来る限り環境負荷の少なく、かつ②安定的に電力供給が行えるエネルギーを選択するという事が、持続可能な社会を構築する上で重要です。再生可能エネルギー(自然エネルギー)には、発電時に温室効果ガスを排出しないため、環境に優しいという大きなメリットが存在します。加えて、2016年4月から解禁となった電力自由化によって、政府ではなく消費者が電源構成を自由に選択することが可能となりました。

また、気象条件によって発電量が左右されるというデメリットが再生可能エネルギーには存在しますが、IT技術を駆使することによって不安定なエネルギー出力を制御するなど、再生可能エネルギーを効率的に利用し、安定供給をするための仕組みが生み出されているのです。

こうした理由から、再生可能エネルギーは、日本においても普及するようになりました。実際、図2に示されるように、日本国内では太陽光をはじめとした再生可能エネルギーの普及率が高まっています。

日本における再生可能エネルギーの導入状況

図2 日本における再生可能エネルギーの導入状況 出展:資源エネルギー庁

先に述べたパリ協定には日本も参加していますが、そこで「2030年度までに2013年度と比較して温室効果ガスの排出を26%削減する」という目標を掲げました。この目標実現のためには、省エネルギー化と化石燃料の使用量削減が求められます。そのため日本政府は、再生可能エネルギーの拡大を視野に入れており、太陽光発電や風力発電を基幹電源としていく方針を固めました。

今後、日本がどのように自然エネルギー利用を拡大し、脱炭素社会を実現していく上では、市民のエネルギー問題に対する意識を高める必要があるのではないでしょうか。そして、太陽光、風力、バイオマス、地熱、小水力発電などの自然エネルギーに着目し、それらを活用していく事で、化石燃料への依存から脱却することが重要だと私自身は考えます。

デンマークの「エネルギー戦略2050(Energy Strategy 2050)」

この章では、化石燃料から完全に脱却することを掲げる国家、そして日本も今後参考にすることが出来る点が多い国家としてデンマークを紹介します。

デンマークは2011年に、2050年までに石油や石炭などの化石燃料の使用量をゼロにする事を目指す「エネルギー戦略2050(Energy Strategy 2050)」(以下、エネルギー戦略)を公表しました。2050年までに風力、バイオマス、バイオガスなどによる再生可能エネルギー100%を達成することを国家政策として掲げたのです。

デンマーク政府は、この政策実現のためにマイルストーンを設定しました。それは、今年2020年に電力の半分を風力発電で賄い、2030年に石炭の消費をゼロにする。2035年には電力と熱供給を再生可能エネルギーによって行い、2050年に電力、熱、産業、運輸すべての分野におけるエネルギー供給を再生可能エネルギーで実現するという長期的計画です。

このエネルギー戦略が採用された背景として、2010年段階で、アジア地域をはじめとした発展途上国における経済発展に伴うエネルギー需要の増加から、石油や石炭などの化石燃料の価格が上昇することが見込まれていたことが挙げられます。

資源に乏しい小国・デンマークでは、化石燃料の価格が上昇した際に受ける影響は極めて大きいのです。化石燃料価格の変動など、自国内での制御が困難な外部リスクを可能な限り無くしていく事が課題であると考えていた政府は、再生可能エネルギー100%という大胆だが安全保障上の観点から必要と判断された方向へと舵を切ったのです。

再生可能エネルギーのみで運営する国家は、アイスランドなどの非常に人口の少ない国を除くと、未だ世界に存在しないため、デンマークのこの政策は、世界に先駆けて行う「国家規模の実験」とも言えるのではないでしょうか。しかし「実験」を失敗にではなく成功に終わらせるために、デンマークは緻密な計画を立てています。

エネルギー戦略の独自性

エネルギー戦略は、①再生可能エネルギー、②エネルギー効率、③電化、④研究開発と実証、の4つの柱から構成されています。それぞれ詳細な分析に基づいた行動計画が決められています。また、原則と仕組みがしっかりと組み込まれていて、戦略を実行可能なものに落とし込む努力がなされていることが見て取れます。

エネルギー戦略実現のための原則として、①コスト効率性を追求する事、②公共財への影響を最小限にする事、③戦略が導入されてもデンマーク経済の競争優位性を維持する事、④国際的なフレームワークを完全に活用する事、デンマーク一国の目標達成にとどめるのではんなく、国際的なエネルギー市場の枠組みの中で展開する事を挙げています。

更に、戦略を実行していくための仕組みとして、3つの重要な目標が設定されています。〈エネルギー2050に転換するための手順〉においては、再生可能エネルギーとエネルギー効率の改善、〈計画と準備段階における手順〉の項目では、スマートグリッド(IT技術などに駆使する事で、需要サイド・供給サイドの双方から電力量をコントロールすることが可能な送電網)などの最新エネルギーシステムの採用、電気自動車など運輸に関する諸施策、〈国際間の分野横断的な連携、技術開発の手順〉では、大規模なヒートポンプ(空気中から熱を回収し大きな熱エネルギーとして利用する技術)や地域熱暖房の実証実験や、再生可能エネルギーなどの新技術開発のための支援などを定めています。

各手順に具体的な数値目標や、その数値目標へと至った分析、加えて目標達成のための個別施策まで詳細に決められています。前例のないこの取り組みを成功させるために、具体的で実施可能な枠組みが設けられているのです。

もう一つ、デンマークでのエネルギー戦略が持つユニークさは、再生可能エネルギー100%社会を実現するために、包括的なアプローチが採用されている事です。

「再生可能エネルギーで発電する」。これだけで終始しないよう、①エネルギー効率の高い社会システムを築く事、②デンマークが得意とする風力発電を有効活用してグリーン電力化を推進する事、更に、③持続的な研究開発への投資と実証によってエネルギー分野でイノベーションを巻き起こしていく事を視野に入れて、戦略を練っているのです。

デンマークの政策では「包括的アプローチ(holistic approach)」が良く取り上げられますが、エネルギー戦略もその一環となっています。

デンマークから日本が学び取れる事

化石燃料から完全に脱却することを目標に掲げるデンマークを紹介しましたが、私自身、日本はエネルギー政策を考える上で、デンマークに学ぶ事が多いのではないかと考えています。<資源が少ない日本とデンマーク両国は、外国産の化石燃料に依存すると、石油危機などに見舞われた際に大きな打撃を受ける可能性が高いです。

更に、両国とも国土が狭いために放射性廃棄物の最終処分場を建設する土地が無く、仮に原発事故が発生した際に、莫大な補償金が必要となり、原発を廃炉にするための予算も考慮しなければなりません。

このように、デンマークと日本両国ともエネルギー安全保障上の共通問題を抱えており、いち早く変革へのスタートを切ったデンマークとのギャップを埋める努力を日本はする必要があると感じます。日本においてデンマークのエネルギー戦略を参考とする場合には、デンマーク特有の「包括的アプローチ」をモデルとするのが良いと考えます。

先述の通り、デンマークのエネルギー戦略は、①エネルギー効率の高い社会システムの構築、②デンマークが得意とする風力発電を有効活用したグリーン電力化の推進、③持続的な研究開発への投資と実証によるエネルギー分野でのイノベーションをも目的としたものでした。

このアプローチを採ることによって、例えば、スマートグリッド発展のために国内外からの投資誘致が期待でき、産業の発展を見込むことが出来るのです。

また、自動車が電化されれば、「脱炭素」が実現され、排ガスなどによってもたらされる健康被害に悩む市民も減り、健康増進を促すことが出来ます。市民が健康に暮らすというのは社会保障費の削減にもつながるので、削減した分を再生可能エネルギーや教育分野へと振り分ける事も可能になるのです。

このように、再生可能エネルギーというワードを軸として包括的に政策をデザインする事で、単に化石燃料からの脱却だけで終わらずに問題の本質へと迫り、解決策を探る取り組みとなるのです。

最近では、課題を抱える日本の自治体がデンマークを参照点として注目するケースが増えています。機械やテクノロジーなど科学関連の産業や発展している事、日本の自治体と同程度の面積と人口である事など日本との共通点が見出せる事が大きな要因となっています。

デンマークと連携して課題解決に取り組む自治体はいくつか存在しますが、今回は環境エネルギー分野で連携を行った北海道札幌市の事例を紹介したいと思います。

北海道札幌市での事例

札幌市中心部にある建物の多くは、1972年の冬季オリンピックに合わせて建設されたもので、建て替えが予想され、また2011年の東日本大震災をきっかけとして、自然災害に強く環境にも優しいエネルギー計画を作成することになりました。

その際、同程度の人口、農業を中心とした産業構造、寒冷な気候などの共通点が存在することから、北海道はデンマークでの先例を参考に出来ると考えました。

札幌市は2013年に調査を開始し、2014年には現地視察を行いました。現地視察は、デンマークで実施される大規模な熱電併給事業の状況の調査や、エネルギー政策の枠組み、導入条件、実施体制の調査など実装ノウハウの把握を中心としたものでした。

デンマーク視察でノウハウを学んだ札幌市は、翌2015年に都心エネルギー施策(中間素案)を取りまとめ、その後、コペンハーゲン市の技術・環境市長を招いてのフォーラム開催などを経て、2018年3月に「都心エネルギーマスタープラン」(以下、マスタープラン)が策定されました。これは、札幌都心の低炭素で持続可能なまちづくりのビジョンと、その実現に向けた戦略を示したものです。

本文中にはデンマークとの連携は記載されていませんが、コペンハーゲンでのプロジェクトが参考事例として紹介されていたり、目標期間を2050年に設定することで、デンマークの「エネルギー戦略2050」との類似性を示しています。

マスタープランの興味深い点は、太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及について言及するだけではなく、環境とエネルギーを同じ枠組みで捉えたアプローチや、「低炭素」や「快適・健康」などのテーマも包括的に取り扱う事が重視されている事です。

つまり、デンマークの「包括的アプローチ」が採用されているのです。札幌市での事例は、環境エネルギー分野において日本の公的機関がデンマークを参考として策定された初めてのアクションプランとして意義があり、注目を集めるプロジェクトです。2050年に向けて、今後も注目は高まっていくのではないかと思います。

まとめ

この記事では、自然災害や環境問題などの影響から、太陽光、風力、バイオマス、地熱、小水力発電などをはじめとした再生可能エネルギーが日本と世界で注目され、導入されている事を書きました。また、「化石燃料からの完全な脱却」「再生可能エネルギー100%」を掲げ邁進するデンマークの「エネルギー戦略2050」を紹介しながら、この戦略の独自性を考察しました。そして最後に、デンマークをモデルにエネルギー計画を策定した日本の自治体の例として、北海道札幌市を紹介しました。

今後日本は、資源の乏しさ、自然災害への脆さなどの障害を乗り越えるために、再生可能エネルギーの導入を更に加速するのではないかと考えています。その上で、再生可能エネルギー100%を目標とするデンマークは、日本にとって学ぶ事が多い国家なのではないかと思います。

私達日本人一人ひとりが、かけがえのない地球を次世代に受け継いでいくためには今のままのエネルギーシステムで良いのかよく考えていく事がまず重要です。そうした歩みから、持続的なエネルギーシステムをより活発に議論する土壌が育まれたらと考えています。

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エコモ博士
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