経済が発展すればするほど環境負荷が減る?環境クズネッツ仮説とESG投資

2019年11月12日

所属:武蔵野大学

インターン生:B.Dさん

経済が発展すればするほど環境負荷が減る?環境クズネッツ仮説とESG投資の写真

経済が発展すればするほど、環境負荷が減るという説があります(環境クズネッツ仮説)。その背景には、ESG投資やSDGsといった企業の環境配慮行動を促す仕組みがあります。私はそのような仕組みの拡大がなされれば、経済と環境の共存は可能になり持続可能な発展は可能になると考えています。この記事では、近年日本でも注目を浴びているESG投資の視点から、持続可能な発展は可能なのかを考えていきたいと思います。

環境クズネッツ仮説

アメリカ合衆国の経済学者サイモン・スミス・クズネッツは、先進国のデータに基づいて、1人当たり国民所得が低いうちは所得の上昇とともに貧富の差は大きくなるが、さらに所得が増加すると反対に貧富の差は小さくなる、と考えました。

これを環境に当てはめたものが環境クズネッツ仮説です。具体的には、発展途上国においては経済が発展する(一人当たりGDPが増加する)につれてエネルギー利用や廃棄物の発生量が拡大するが、先進国では、一人当たりGDPが変化しても環境効率が悪化する状況は生じえないというものです。

この環境効率を高めることで経済成長と環境保全との両立が可能であるというような積極的な考え方が生まれ、それを統計的に示したもので「環境クズネッツ曲線」があります。

なぜ、このようなことが言えるのかというと、経済が発展すると以下のような状況が生じるためです。

  • 環境効率を高める技術の開発・導入
  • 環境規制の整備
  • 人々の環境意識の向上 など

つまり、国が豊かになっていくにつれて、技術的、制度的、意識的な面で効率が高まり、経済の拡大に伴って増加していた環境からの採取や環境への排出も相殺されるようになってくるということです。

こうして、ある一定の以上の経済水準が実現されると、その後は環境への改善がなされるようになってくるという説です。そしてこの環境クズネッツ仮説を、制度の面からサポートしているのが、近年、飛躍的に伸びているESG投資というものです。

ESG投資とは

ESG とは、環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3つの頭文字をとったものです。このESG 要素に配慮している企業を重視・選別して行う投資を「ESG 投資」といいます。

2006 年に国際連合の責任投資原則(PRI)の中で提唱された後、特に注目を集めてきた投資手法です。ESG 投資においてそれぞれ具体的にはどのようなものが見られているのかと言いますと、E は環境配慮で二酸化炭素の排出量が多くないか、環境汚染をしていないか、再生可能エネルギーを使っているかなどです。

S は社会貢献で地域活動への貢献、労働環境の改善、女性従業員の活躍の推進などをしているか、G は企業統治で、収益を上げつつ、不祥事を防ぐ経営をしているかなどを見られます。

ESG投資とSDGsの関係

また、SDGsという言葉も、最近、新聞やテレビの中でよく聞くようになりました。SDGsとは2015年 9 月に国連加盟 193 カ国すべてが SDGs に合意・採択したものであり、2030年までに貧困撲滅や格差の是正、気候変動対策など国際社会に共通する17の目標が達成されることを目指しています。

このSDGsの大きな特徴は、民間企業を課題解決を担う主体として位置づけている点にあります。企業が SDGs に取り組み、その取り組みによって企業価値が向上すれば、ESG投資による投資をされる可能性が上がる、このようにESG 投資とSDGsは表裏の関係にあるといえます。

ESG投資の拡大

(1)2016年までの動向

2012年、米国最大の公的年金基金であるカルパース(カルフォルニア州職員退職年金基金)はすべての投資判断にESGを組み込む投資原則を採用しました。

実際に、世界のESG投資額の統計を集計している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)のESG投資の統計報告書(2016年版統計)によると、欧州と北米で、年度ごとにESG投資の額が大きく増加している傾向にあることがわかります。

割合でいうと、2016年の時点でESG投資による投資は世界の投資額の26.3%を占めています。しかし、日本を含むアジアは欧州や北米に比べ大きく後れを取っていました。

(2)2017年以降の動向

大きな後れを取ってた日本でしたが、日本の国民年金約150兆円を運用する世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2017年に1兆円規模のESG投資を開始し、今後3兆円にまで増やす予定であると表明したことによりESG投資が拡大していきました。

実際に、2018年に発表されたGSIAの統計報告書によると、日本は2016年の3.4%から2018年には18.3%と一気に飛躍をしています。絶対額でも4,740億米ドルから2兆1,800億米ドルに増加しました。

また、北米、オーストラリア・ニュージーランドでもESG投資割合が増加しました。また欧州は、割合は下がっていますが、絶対額では増えています。世界全体でのESG投資割合も2016年の26.3%から33.4%へと伸びました。このように、ESG投資は欧米を筆頭に現在、世界中で拡大しています。

GPIFによる企業選別

GPIFが採用しているESG評価は3つありますが、そのうちの1つ、MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の「MSCIジャパンESG セレクト・リーダーズ指数」は、日本企業時価総額上位500社の親指数のうち、ESG評価が高い銘柄251社を選定してAAAからCCCまで7段階で評価しています。

2017年、最高位格付けのAAAを獲得したのは、住友化学、NTTドコモ、KDDI、大阪ガス、ダイキン工業、デンソー、オムロン、積水化学、イビデン、国際石油開発帝石の11社です。

その一方で、最低位のCCCに格付けされたのは、東京電力、東芝、SMC、三菱自動車、スズキなどです。また、下から2番目のB評価には、ヤフージャパン、ディー・エヌ・エー、コーセー、ソニーフィナンシャル、スルガ銀行などが挙げられました。

2017年にCCC及びB評価を受けた企業は、すでに2018年のMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数からは除外されました。それはつまり、GPIFのESG投資対象から除外されたということを意味しています。今後の企業の価値についてフォーブスジャパンのライターである嶺竜一さんは以下のように述べています。

「機関投資家が保有する株式を市場に売却すれば、当然、株価は下落する。企業の価値はこれまで、主に四半期ごとの業績を良く見せること(短期的な業績)によって高められるものだったが、これからは業績に加え、ESGへの取り組み、すなわち中長期的な成長戦略やリスクマネジメントも企業の価値を上下させることになる。」

大企業による取り組み

このように、ESGへの取り組みを強化しなければ、投資を受けにくくなり資金調達がしにくくなるという時代の流れが来ました。そのため、アメリカと欧州の大企業の多くは、ESGの取り組みによって企業価値を高めています。

実際に、スターバックスは、現在、全世界で使っているコーヒー豆の99%がフェアトレードで、もう直ぐ100%を達成します。みなさんがスタバで何気なく飲んでいるコーヒーはほぼフェアトレードです。アフリカの森林の多くはコーヒーのプランテーションによって土が痩せ、砂漠に変わりましたが、フェアトレードでは労働環境と自然環境を守ります。

揚げ油やチョコレート、マーガリン、石鹸、シャンプーに使われ、植物油として最も生産量の多いパーム油の原料となるアブラヤシは、インドネシアやマレーシアが大生産地で、その多くは焼畑農業によって生産されていました。しかし今、P&Gやユニリーバは一切、焼畑農業によって生産された原料を使いません。

ナイキやGAPでは、数年以内に全ての綿製品がオーガニックコットンに変わります。オーガニックではない従来のコットン生産は、大量の枯葉剤を使うため、農業従事者と紡績産業従事者の健康を害し、土壌や水質、大気環境を汚染します。

マクドナルドはかつて、調達する牛肉に対して厳しい基準を設けていなかったため、農家は牧草に対して多量の農薬を使い、牛の出荷を早めるために大量の成長促進剤を使っていました。しかし現在は、マクドナルドは5年前に環境や健康に配慮した基準を設け、トレーザビリティを厳格化し、さらにそれをファストフードの業界全体に広めるべく、業界団体を作りました。また数ヶ月前、マクドナルドは全てのプラスチックをリサイクルする方針を打ち出しました。

このように、世界の大企業は、ESGの取り組みを強化しています。逆にいえば、環境や社会に不誠実な企業は、資金を集めることが難しくなり、どんどん不利になってくるということです。

発展途上国におけるESG投資

ここで一度、環境クズネッツ仮説に話を戻します。環境クズネッツ仮説は、経済発展しはじめの場合は、環境負荷が増加することが前提でありますが、そのような状況に置かれている途上国においてのESG投資は、現在どのような状況にあるのでしょうか。

結論から述べますと、途上国におけるESG投資はまだ浸透していないと考えられます。しかし、世界銀行は2019年10月に、ESG投資を支援するため、国別のESGデータを掲載した無料オンラインプラットフォーム「ソブリンESGデータポータル」を開設しました。データを分析する指標にはSDGsの17目標がすべて含まれており、各国の民間企業から新興国や途上国への投資を促進する狙いがあります。

また、ロンドンの投資運用会社ハーミーズ・インベストメント・マネジメントで、運用資産11億ドルのカルバート・エマージング・マーケット・エクイティ・ファンド(CVMAX)のサブアドバイザーを務めているゲーリー・グリーンバーグ氏は新興国におけるESG投資においてこのようなことを述べていいます。

「ガバナンスと社会的責任の欠如が懸念される開発途上国投資においては、ESGの重視は一段と重要であると考えられる。」

実際に同氏と共同マネジャーのエレナ・テデスコ氏のチームは、3000社以上のスクリーニングを通して長期的に持続可能なリターンを生み出す最良のポジションにある企業を抽出し、最終的に約50銘柄のポートフォリオに絞り込みESG投資を行いました。

これは何を意味しているのかと、つまり新興国や途上国でもESG投資の対象となる企業は存在するということであり、ESG投資の流れの予兆もあるということです。

ESG投資の今後の動向

世界最大規模の年金基金によるESG投資の強化、世界各国で上昇するESG投資割合、GPIFによる企業の選別、世界の大企業によるESGへの取り組みの拡大、途上国や新興国におけるESG投資拡大の予兆、このことからわかるようにESG投資は今後、さらに規模を大きくすることは間違いないと思います。

また、アライアンス・バーンスタイン株式会社のポートフォリオ・マネジャー兼シニア・リサーチ・アナリスト真野克彦さんは、今後のESG投資の動向についてこのように述べています。

「ESGへの配慮を重要視する流れは、今後さらに早くなり、かつ広範囲に広がって当たり前になる。そして、実際に「ESG」が当たり前になった世界では、逆に「ESG」という言葉自体が使われなくなっていくだろう。

~中略~ESG投資がそうなるまでに何年かかるかはわからないが、遠くない将来、そのようになると考えられる。また、おそらくそれがESG投資の向かうべき世界だろう。」

まとめ

ESG投資は経済が発展すればするほど環境負荷が減るという環境クズネッツ仮説を大きくサポートする制度です。そのESG投資は、欧州、北米を筆頭に、日本やオーストラリア、ニュージーランドで規模を大きくしています。

また途上国や新興国でも、ESG投資の流れがあります。逆に言えば環境や社会貢献に配慮しない企業は、投資されにくくなり淘汰されるのではないでしょうか。このような時代の流れの中で、世界中で環境に配慮した企業がますます増えていき、環境と経済は共生されると私は考えます。

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