二酸化炭素が増えると植物の栄養素が減る?
所属:お茶の水女子大学
インターン生:R.Mさん
環境問題の一つとして地球温暖化があります。地球温暖化の主な原因は二酸化炭素濃度の上昇によるものです。地球温暖化は、海面上昇や異常気象、動物・植物の分布の移動などの様々な問題を引き起こしますが、二酸化炭素濃度の上昇によって問題視されるのは地球温暖化だけではありません。二酸化炭素濃度の上昇により、私たちの健康にも被害が及びます。一体どのような点から私たちの健康に被害が及ぶのでしょうか。
二酸化濃度の上昇
気象庁によると、地球温暖化の原因となる二酸化炭素濃度は、1万年間にわたって280ppmと安定していましたが、工業化により、現在では400ppmを超えるまで上昇しています。また、このまま対策がなされず経済活動が続くならば、二酸化炭素濃度は1000ppmを超え、対策を行ったとしても500ppmは超えると言われています。
二酸化炭素の増加は光合成を行う植物にとってメリットなのか
光合成により、二酸化炭素から炭素を取り出しその炭素により成長する植物にとって、一見二酸化炭素の増加はメリットであるように思えます。しかし、現在の2倍の二酸化炭素濃度で植物を栽培したとしても光合成速度や、植物の成長速度はそれほど増加しないことがわかっています。
さらには、長期的に見たときに光合成速度が下がってしまうこともわかっています。多くの植物は二酸化炭素濃度が280ppmである大気環境に適しているので、植物にとっての栄養素を大気中に急激に増やしたとしてもそれをすぐに取り入れるようなことはできないということがわかります。
植物は、二酸化炭素濃度の上昇より葉の気孔の開き方を小さくすることも知られています。このことにより、大気中の二酸化炭素濃度が高い方が植物における水の消費が少ないというメリットがあります。しかし、水の消費が少なくなると、品質的にみると食味に関わるタンパク質を減少させているということもわかっています。
では、なぜ二酸化炭素濃度の上昇が私たちの健康に被害を及ぼすのでしょうか。それは二酸化濃度の上昇により、私たちの食の栄養に大きな影響を与えるからです二酸化炭素が植物に関係するのは光合成だけではなく、植物に含まれる様々な栄養素にも影響を与えます。
植物の栄養が減少する
日本と中国で2050年に想定される大気中二酸化炭素濃度のもとで稲を栽培するという実験が行われました。その結果、タンパク質は約10%減少し、鉄分は約8%、亜鉛は約5%減少しました。ビタミンについては、ビタミンB1とビタミンB2が約17%の減少、パントテン酸ビタミンB5が約13%減少、葉酸が約30%減少しています。
このような栄養素の減少によりどのような被害があるのでしょうか。例えば、亜鉛、鉄分不足により、食欲が減退、亜鉛欠乏、マラリア、下痢疾患、肺炎、鉄欠乏性貧血などがおこります。
調べによると、2050年までに1億7500万人が新たに亜鉛欠乏症となり、1億2200万人が新たにタンパク質欠乏症になることがわかっています。特に減少が顕著に表れている葉酸ですが、葉酸は胎児の発育にとても重要な栄養素となっていて、葉酸を十分に摂取しないと子供が異常をもって生まれるリスクがかなり高くなります。
これらの食物の栄養減少は、でんぷん質の食物などを主食にしている貧困層や、野菜から主に栄養をとっている国や人々にとって深刻な状況になり、発展途上国でも影響を受ける人々の数が劇的に増加するとされています。日本からみると関係のないように思われますが、発展途上国だけでなくヨーロッパやアメリカなどの先進国にも影響を受ける人々が現れることがわかっています。
現代の日本では、50代よりも若い世代の人々は低栄養状態にあると言われていて、ビタミン・ミネラル・食物繊維の18種類のうち、16種類の栄養素が不足していることがわかっています。
朝食の欠食や野菜不足、偏った食事などが原因です。現代でも栄養不足と言われていますがもし今後このまま植物の栄養素が下がってしまったらさらに私たちの栄養状態が悪化すると思われます。
現在と同じ食事をしていても必要な栄養を吸収できなくなってしまうのです。また、世界では食糧危機も問題視されています。一つ一つの植物の栄養が下がってきていることにたいし、さらに食料が減っていってしまったら私たちは十分な栄養を吸収できなくなってしまいます。
影響は人だけじゃない
二酸化炭素濃度の増加による栄養不足は人間だけでなく、牧草や草木を食べる生物にも、穀物を使用したペットフードを食べる犬や猫などにも、すべての生き物に影響します。
二酸化炭素濃度上昇の理由
CO2排出による環境破壊が問題になっていることはご存知の方も多いと思いますが、具体的にはなぜ年々と大気中の二酸化炭素濃度が上昇しているのでしょうか。その主要な要因につき、下記にて3つご説明いたします。
①産業の発展のため
二酸化炭素の間接排出量の割合が一番大きいのは産業部門であることからわかるように、産業革命後より、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料をエネルギー源と使うようになり、大量の二酸化炭素が大気中に排出されることになりました。
②森林面積の減少のため
二酸化炭素を吸収してくれる森林の減少も二酸化炭素濃度上昇にとても大きく関係しています。世界森林資源評価より、世界の森林面積は1990年の41.28億haから、2015年には39.99億haに減少したことがわかっています。
③生活が豊かになったため
私たちの普段の生活からも二酸化炭素は排出されています。全国地球温暖化防止活動推薦センターによると、1世帯で年間に排出されている二酸化炭素は平均で約4500kgです。日本の世帯数は約5700万世帯なので1年間で私たちの二酸化炭素の排出量は約2億6000万トンと計算できます。
私たちにできること
現在世界では地球温暖化対策、二酸化炭素濃度減少のため様々な活動を行ってきています。森林火災、農地への転換などによって森林は伐採されていき森林面積は減っていますが、世界の植林面積は徐々に増加傾向にあります。また、森林減少の抑制や、劣化の防止取り組みも行われています。二酸化炭素削減の目標も立てられています。
では、具体的に私たちにできることはなんでしょうか?全国地球温暖化防止活動推薦センターによると、私たちの二酸化炭素排出量の約50%は電気からによるもので、続いてガソリンからによるものが多いことがわかります。
発電するためにも二酸化炭素が排出されています。電気の無駄使いをやめてみたり、むやみに車を使わず近距離であれば徒歩や自転車を手段として選んだりみたり、私たちの小さな行動もたくさんの人が行動すれば大きな成果になると思います。なかには、環境を考慮したエコな電力会社も増えてきているので、そのような会社を利用するのもとても効果的だと思います。
まとめ
大気中の二酸化炭素濃度の上昇と聞くと、イメージするのは地球温暖化ですが、直接私たちの健康にも被害を及ぼします。また、二酸化炭素濃度上昇による光合成や栄養素に与える影響は他の環境問題などを全く無視した結果です。
なので、地球温暖化などを考慮してくるとさらに作物がとれなくなり、もっと影響が大きいと思われます。現在と同じ食事をしていても得られる栄養素はうんと低くなります。
2050年は決して遠い未来ではありません。現在でも全世界で約20億人もの人が栄養不足の状態です。食物の栄養素や飢餓状態が顕著に悪化してから対策を取るのでは遅くなってしまうと思います。
二酸化炭素濃度の上昇により影響を受けるのは地球だけではないことを認識して、二酸化炭素の排出を抑えたるために、一人一人のできることを進めていきたいです。