便利なプラスチックの裏の顔
所属:武蔵野大学
インターン生:M.Kさん
2015年、A&M大学の海洋生物学調査チームによって鼻にストローが刺さった亀の動画が公開され世界中に衝撃を与えました。私が環境問題を強く意識するようになったきっかけとなった出来事です。 亀を苦しめたストローは「海洋ごみ」と呼ばれるものの1つです。海洋ごみは海の生物たちに多大な悪影響を及ぼしており、世界中で問題視されています。この記事ではそんな海洋ごみの実態について触れていきたいと思います。
海洋ごみとは?
みなさんは海を訪れたとき、砂浜にペットボトルやプラスチック片などが打ち上げられている光景を目にしたことがあると思います。これらはもともと不適切な廃棄等によって海に流され、海流に乗って遠くへ拡散された一部が海岸へと流れ着いているものです。
海洋ごみにはガラス、紙、木材など種類は様々ありますが、その中で最も多く占めるのはプラスチックごみであると言われています。
処理が追い付かない海洋プラスチックごみ
プラスチックごみは自然界では中々分解されません。ですから一度広大な海に流れ出てしまうと、人の手によって回収されない限り半永久的に漂い続け、発生源から遠く離れたところまで流されてしまいます。
わたしたち人間はプラスチックごみを毎年3億トン排出しており、このうち年間1200万トンもの海洋プラスチックごみが発生していると言われています。途方もない数字です。このまま増え続ければ、2050年には海洋プラスチックごみが海に住む生き物の数を超えてしまうとも言われています。
海に放出されてしまったプラスチックごみは雨や紫外線、波によって劣化し、次第に削られて小さくなっていきます。5mm以下のサイズになったプラスチックはマイクロプラスチックと呼ばれています。
サイズが小さくなればなるほど、人の手による回収は困難を極め、海に漂うプラスチック数の上昇はとどまるところを知りません。海に放出されたマイクロプラスチックは海流に乗って世界中に拡散します。現状、一度海に出てしまったマイクロプラスチックの除去方法はありません。
マイクロプラスチックは2種類ある
上記で取り上げたマイクロプラスチックは二つに分類されます。
(1)一次マイクロプラスチック
歯磨き粉や化粧品、洗顔料等に含まれるスクラブの役目を果たす小さなビーズ状のプラスチック、プラスチック製品を製造するための原料として使われるプラスチック粒などを指します。
歯磨きや洗顔、お化粧というのは私たちが毎日当たり前に行っています。歯磨きをする行為、洗顔をする行為、化粧をする行為をするだけでわたしたちは環境中にマイクロプラスチックを知らず知らずのうちに排出してしまっているのです。また、マイクロプラスチックは細かいため下水処理場を通過してしまいます。
(2)二次マイクロプラスチック
環境中に放出されたプラスチック製品が雨や紫外線、波といったものの影響で劣化し、小さく削られたもの(5mm以下)や服を洗濯するときに発生する繊維くずなどを指します。
海洋中に漂うマイクロプラスチックの中で最も多いのは二次プラスチックであると言われています。一次・二次マイクロプラスチックともに小さすぎて回収はできません。
海洋プラスチックが環境に与える影響は?
これらプラスチックは「使い捨てプラスチック」が6割を占めます。便利で大量生産ができるため手軽に使われ、簡単に捨てられてしまっています。こうした状況が海洋ごみ問題の要因となっていることは明白でしょうさて皆さんは海に放出されたプラスチックが環境に悪影響を及ぼしていることをご存知でしょうか。
(1)ゴーストネットに捕らわれる生き物たち
近年では海に投棄された漁網が問題となっています。多くの漁網はプラスチックが使われており、もちろん分解されることはありません。海に投棄されてしまった漁網は「ゴーストネット」と呼ばれ、魚類をはじめウミガメやアザラシ、海鳥といった海洋生物の体に無差別に絡みつきます。そして生き物たちの動きを制限してしまい餌をとりづらくさせ、やがて餓死や溺死という結果を引き起こしてしまうことも少なくないのです。
(2)餓死と内臓損傷を引き起こすプラスチック
生物の中にはプラスチックと餌の区別がつかず、誤ってプラスチックを誤飲してしまうものもいます。誤飲を繰り返すと胃や腸にプラスチックがたまり続けます。プラスチックに栄養はありませんから、やがて栄養失調となり最後には餓死していまいます。中には腸にプラスチックが詰まり、消化ができないために死んでしまうものもいます。加えて胃や腸にたまったプラスチックにより臓器内部を傷つけられたり、臓器外部を突き破ってしまうことも事実です。
(3)食物連鎖によって巡り巡って私たちに
生物は陸・海に限らず他の生物を食べたり食べられたりする関係、いわゆる食物連鎖でつながっています。海洋生物でいうと、生態系ピラミッドの下から植物プランクトン、植物プランクトンを食べる動物プランクトン、動物プランクトンを食べる小魚、小魚を食べる大型魚と続いていきます。
マイクロプラスチックやマイクロビーズといった微小なプラスチックはプランクトンでさえも飲み込んでしまいます。そしてそのプランクトンを食べる小魚、小魚を食べる大型魚…と次第に生物の体内にプラスチックが蓄積されていきます。
石油由来のプラスチックは有害物質を吸収・吸着しやすいという性質があります。海中を漂う中で、有害物質を含んだプラスチックの毒性は食物連鎖を通じて最終的に100万倍に濃縮されてしまうとも言われています。これを生物濃縮と言います。つまり食物連鎖の頂点に位置する大型魚には当初の100万倍の有害物質が体内で蓄積されてしまう恐れをさしているのです。
私たち人間は日常的に魚介類を食する機会が多くあります。マイクロプラスチックにより生物濃縮をうけた魚たちが知らず知らずのうちに食卓にのぼってしまうかもしれません。
(4)発がん性
上記でもあげたようにマイクロプラスチックは有害物質を吸着する性質があります。具体的にはDDTのような殺虫剤成分や、PCBsを含めた残留性有機汚染物質(POPs)を海水から吸着します。これらの有害物質は生殖異常、発がん作用、ホルモン異常、内分泌かく乱作用などを引き起こすことが知られています。
各国の対応
世界ではマイクロプラスチックの問題に取り組む国が多くみられます。
- EUの欧州委員会は使い捨てのプラスチック製食器やストロー等のプラスチックの流通を21年から禁止する法整備を整えています。
- 欧米やアジア、アフリカなど60を超える国々や地域が有料化や課税、製造、販売・使用禁止といった方法でレジ袋を規制し始めています。
- 米国のマクドナルドは英国の店舗でプラスチック製ストローを紙製に切り替えました。
- 同じく米国のスターバックスは2020年以降のストロー廃止を発表しました。
- 仏では2018年10月から使い捨てプラスチック製品の禁止対象を拡大しています。ストロー・ナイフ・フォーク・ステーキ用ピック・グラス用ふた等を追加しています。
以上のように世界ではプラスチックに対して強く問題視しており、プラスチックを規制する動きが活発化しています。
日本のプラスチック対策
世界のプラスチック対策を見てきましたが、日本ではどうでしょうか。最近では、多くのスーパーマーケットでレジ袋有料化が進んでいるのが見受けられます。スーパーマーケット以外でも、アパレルでショッパーを廃止し、マイバッグを推奨する動きも出ています。
2018年6月9日、「健康な海洋、海、レジリエントな沿岸地域社会のためのシャルルポワ・ブループリント」が採択されました。英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5か国とEUはプラスチック規制強化を進める「海洋プラスチック憲章」に署名しました。
海洋プラスチック憲章には「2030年までにプラスチック包装の最低55%をリサイクルまたは再使用し、2040年までに100%回収する」という目標が盛り込まれています。
しかし日本と米国は署名していません。日本はプラスチック規制により国民生活や産業、国民経済への影響を懸念し、慎重な検討が必要と判断したため署名を見送ったそうですが、プラスチック問題に対する消極的な姿勢が目立つ結果となりました。
プラスチックごみ排出量世界2位と言われている日本だからこそ、早急な対策を講じるべきだと私は考えます。海洋プラスチック問題は世界共通の環境問題です。世界と足並みを揃えた対策を行わない限り、解決までの道のりはまだまだ長いでしょう。
まとめ
海洋プラスチックごみが環境・人間に与える影響は非常に大きいものです。もとを正すと人間の経済活動によりこの問題が発生しました。私たちは問題を解決する責任があります。
自然環境中に放出してしまったプラスチックを回収する手段、これ以上プラスチックごみを排出しないリサイクルのシステムづくり、何より私たち日本人は自国がプラスチック排出量世界2位という「自分事である」という意識を強く持たなければなりません。プラスチックに対する認識を改め、考え直す時がきています。
エコモは各地を飛び回って、電力・エネルギーや地球環境についてお勉強中なんだモ!色んな人に電気/ガスのことをお伝えし、エネルギーをもっと身近に感じてもらいたモ!