企業経営の現状から環境問題の解決へ
所属:跡見学園女子大学
インターン生:M.Aさん
近年よく聞くようになったCSR経営。名前だけ知っている、なんとなく理解しているという方も多いのではないでしょうか?昔と比べて、企業経営の形は大きく変わってきています。そこで、企業経営の現状から、企業の環境問題への取り組みを知り、解決できるのかを考えたいと思います。
企業経営の現状
1960~1990年代前半において大気・水質等の産業公害、廃棄物・リサイクル問題、化学物質問題の発生が問題視され、それによって環境汚染による企業経営への損害も明確化されました。
そして、持続可能な発展を実現するための産業活動の在り方が、世界的に議論され、持続可能な経営の必要性が問われ、環境対策から環境保全経営へと移り変わっていきます。
1990年代後半~現代においては、地球温暖化、廃棄物・リサイクル、化学物質対策というあらゆる社会経済活動に起因する環境問題に対する意識の定着により、経済界の自主的な環境経営の拡大がされ、今日に到っています。
CSR経営とは
CSRというのは英語で直訳すると「企業の社会的責任」となります。それだけではわかりづらいと思うので、改めて「責任」(responsibility)という言葉を考えてみます。
この単語はresponse(反応する)と、ability(力、能力)からなっていて、その原義は「対応力」です。つまり、CSRは「企業の社会的責任」という意味だけではなく、「企業の社会適応力」という意味も含んでいます。
CSRの取り組みの説明
1.「社会的課題の解決」と「(自社の売上高や利益など)経営的成果」の両方を目的としていること。
2.企業内で完結せず、サプライチェーン全体はもとより、専門家、大学やNGO・NPOなどさまざまな外部他者(マルチステークホルダー)との取り組みであること。
3.これらの取り組みを通じて、企業が自社のファンや「未来の顧客」を創造し、企業価値やブランド価値をたかめていけるものであること。
1と2に関しては、企業が自社の利益を追求するだけでなく、自らの組織活動が社会へ与える影響に責任を持ち、あらゆるステークホルダー(利害関係者である消費者、取引関係先、投資家等、及び社会全体)にとってプラスになること全般を指しています。
企業は、活動を続けていく上で様々なステークホルダーと関わります。そのため彼らと積極的に対話し良好な関係を保たなければ、その企業の活動は理解も評価も支持もされず、業績も上がりません。
したがって、CSR経営とは、そもそもの利益を上げてしっかり納税することや法令を順守して企業活動をする、といった当たり前のことももちろん含みます。さらにその上で安心・安全な商品やサービスの提供、人権の尊重、欺瞞のない公正な競争のもとでの事業活動の推進、コーポレートガバナンスの向上、環境への取り組み、地域課題への取り組みなども含まれます。
3については、現代社会における人類の持続的な成長に対する脅威が多くあり、例えば環境汚染、資源・エネルギー・食糧の逼迫、児童労働などの人権問題、自然災害などが挙げられます。つまり企業が自身の利益のみを追求し、社会の発展に寄与しないもしくは反する行為をすれば、社会からの信頼を得られません。
CSRが注目された要因
CSR経営については前述した通りです。このCSR経営が注目された理由としては、この3つが挙げられます。1つは、「企業のグローバル化」です。インターネット・スマートフォンの普及などにより、企業活動はその国のみならず、グローバルに監視・展開されるようになりました。
企業活動そのものがグローバル化して、社会に与える影響規模が大きくなりました。2つ目は、「環境問題」です。日本では、1970年代に起こった子公害問題とは違って、環境に配慮することが企業の価値となる面を持ちます。
70年代の環境問題がマイナス志向なのに対し、現在の環境問題はプラス志向と考えるようになったので、環境問題に取り組んでいる企業は企業経営そのものが付加価値ととらえられるようになりました。
3つ目は、「消費者の価値観の多様化」です。“良い企業”という評価が既存の価値観ではなくなり、商品の価格が多少高価であっても、企業理念やコンセプトを重視してその商品を選ぶ消費者が増えてきています。
CSRで環境問題は解決できる?
大学生である私の身近にあるCSRについて考えたときに、思いつく企業でのCSRについて挙げてみます。ビニール袋有料化、プラスチックストローの廃止、割りばし廃止、森林保全活動発展途上国への寄付、スターバックスコーヒーのフェアトレード、H&MやUNIQLOの洋服回収、フリマアプリの普及など…。意識していなくても、身の回りで多くの企業のCSRがありました。
しかし、私はこれらが果たして本当に“環境問題の解決となっているのか”そして“消費者の理解・関心を得られているのか”ということに疑問を持ちます。
ビニール袋・プラスチックストローの廃止について、消費者にとって今まで当たり前だったものがなくなったり、有料化された際、消費者にその企業が事前にちゃんとその情報を告知したり発信したりしていたかというとそうは思えないからです。企業がいくらCSRに取り組もうと実践して取り入れても、それに消費者が直接かかわるものであった場合、消費者の理解と関心が得られないことには、始まらないと思うし、消費者があっての企業だと思うからです。
そして突然当たり前だったものが何の告知も報告もなく、消費者も戸惑うし、それこそ従業員にも少し負担がかかってしまうと思います。割り箸廃止についても、それだけ聞くと企業が環境のことをちゃんと考えていると思うかもしれません。
ですが、森林保全活動で森林保全のために伐採した木を使えばそれも環境のことを考えていると感じるし、割りばしを使わなくしてプラスチックで作られた箸を使うとしたら、洗う時に洗剤を使用してしまうこと・プラスチックごみになってしまうことも容易に想像できます。
また、最近どこにでも見かけるようになったスターバックスコーヒーはフェアトレード商品を取り扱っています。三大生産地のコーヒー生産者の50%が小規模農家であり、すべての生産者が潤沢な資金のもとにコーヒー農園を運営しているわけではありません。
収穫前に資金不足に陥ったコーヒー生産者は、しばしば本来よりも低価格で地元のバイヤーと取引してしまうことがあります。そこでスターバックスは、コーヒー生産者に融資を行う非営利団体のRoot Capital、Verde Ventures Calvert Foundationに対し、2015年までに2,000万米ドルの投資を目指しています。
これによりコーヒー農家は低金利の融資を受けることができます。融資を受けることで、コーヒー生産者は品質の高いコーヒーの栽培に専念でき、適切な時期に収穫し、品質に見合った価格で、たいせつに育てたコーヒー豆を販売することが可能になります。
コーヒー生産地域への投資、改善、支援のためにスターバックスが毎年財政支援を行うことも、売買契約の中に入っています。これも一見、あんなに人気で儲かっていて、さらに自分たちと契約している生産者・環境問題についても考えているなんて素晴らしい、このお店に行けば環境問題の解決・貢献になると思うかもしれません。
でも、もっと掘り下げてみると、違う見方になるかと思います。そもそもフェアトレードというのは、生産者が人間らしく暮らせるように、より良い暮らしを目指すため、正当な値段で作られたものを売り買いすることです。生産されている裏側では、十分に生活することができない賃金で働き、貧困に苦しむ途上国の生産者たちがいます。
その中には、児童労働者として働き、教育を受ける機会を奪われている子どもが多くいます。なぜなら、途上国と先進国、または企業間の取引がそもそもフェアじゃないから起こります。
だから、フェアな取引をして、お互いを支え合おうというのがフェアトレードのコンセプトです。フェアトレードの基準には、労働者に適正な賃金が支払われること、労働環境の改善、自然環境への配慮、地域の社会・福祉への貢献などが含まれ、「子どもの権利の保護」および「児童労働の撤廃」も盛り込まれています。
そしてスターバックスコーヒーが扱っているフェアトレードのコーヒー豆というのは、児童労働をしていない農家のものを取り扱っています。ですが、考えてみると一生懸命家族が暮らしていけるように働いている児童がいつにも関わらず、買ってもらえないとなってしまったら、その児童も家族も暮らしていけなくなってしまうのです。
そこで、児童労働している農家から生産物を適正な価格で仕入れたフェアトレード商品を使ったカフェ・販売している会社が世界にはあります。確かに児童労働は深刻な問題ではあるかもしれませんが、買わないということはその子供が、家族が生活できなくなる、結果的に命を奪ってしまっているということに繋がっているのです。
私が今まで述べた例について、皆さんはどう思いましたか?私は、企業のCSRへの取り組みが果たしてすべて本当に環境のことを思ってされているのか、CSRを身勝手に利用し、消費者へのイメージや購買意欲を刺激することだけを考えているのではないか、と思ってしまいます。
CSRは現在、多くの企業で取り組まれ、事業に取り込まれていますが、企業のCSRへの取り組みがさらなる環境問題を生み出してしまうことも秘めていると思います。
“本当に環境にとっていいことはなんだろうか”ということも企業も、消費者もじっくり考えて知識を得ることが必要です。特に、私も一消費者の視点からして、企業のイメージ戦略に流されないために、1つの視点でこれは環境に良いとするのではなく、知識を得て、そこから色んな角度で、色んな人の立場から考えることが大事だと思います。
CSVとは
CSV(Creating Shared Value)とは、2011年にハーバードビジネススクールの教授であるマイケル・E・ポーター氏とマーク・R・クラマー研究員が発表した論文『Creating Shared Value』(邦題『経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略』)で提唱されたものです。
日本では、「共通価値」「共有価値」などと訳され、CSR(Corporate Social Responsibility)の発展形と言われることもありますが、ポーター教授いわく、CSVとCSRは似て非なるものです。
CSVは、企業にとって負担になるものではなく、社会的な課題を自社の強みで解決することで、企業の持続的な成長へとつなげていく差別化戦略なのです。
CSRは社会的な課題を解決することは企業とは別物のようにとらえられますが、CSVは企業の成長の中に社会的な問題の解決が当たり前として組み込まれているような感じです。
名前は違いますが、CSRもCSVも目指していることは変わらないので、どちらも環境をよりよくしようとしているととらえることができます。少し違うのは、自社の強みで環境問題を解決するという、環境問題の解決・企業の成長に繋がるということで、効率の良さがCSVにはあると思いました。どの企業においてもCSVが実現できたら、多くの企業があるのでそれぞれが違う環境問題に取り組めるのではないかなと感じます。
まとめ
現在の企業の経営現状から、環境問題に対しての取り組みは表面的にみると、多くの企業で行われていますが、果たしてそれが本当に環境と消費者ともに同じ立場で考えられているのかと考えると、まだまだ日本は遅れているし考えられていないように実感しました。
私も、自分=消費者の立場でしか企業のCSRをみれていませんでしたが、その視点でしか物事を考えられていなかったり、企業に操作されている人が多くいるのが現状なのではないかと思います。違う視点から考えられることを知る機会が、もっといろんな場所で多くの人に知ってもらえる環境づくりが今後の世界には必要だと思います。