地球温暖化が原因?世界で起こる森林火災
所属:東京農工大学
インターン生:M.Kさん
現在世の中で最も大きな問題として取り上げられている環境問題、それは地球温暖化です。私たちはこの言葉をよく耳にし、恐らく地球温暖化問題について考えている方も多いでしょう。しかし、この地球温暖化が実は、森林火災の被害を増大させることは知っていましたか?また、森林火災が起これば、その分CO₂が増加し、さらに地球温暖化が進み、再び森林火災が…という風に悪循環に陥ります。森林火災にはどのような被害があり、どのようにすれば防げるのでしょうか?私たちにできることはあるのでしょうか?このコラムでは森林火災について考えていきたいと思います。
森林火災とは?
森林火災とは、山や森林で広範囲にわたり発生する火災のことであり、山火事、山林火災、林野火災とも呼ばれます。森林火災の発生には2つの原因があります。それが自然発火と人為的要因です。
自然発火
雷や火山の噴火などが原因で発生する森林火災です。まれに、枯れ葉同士が風で擦れあって、その摩擦で発生する場合もあります。自然発火による森林火災は、太古の昔から起こっていた現象であり、成長しすぎた森林が焼け落ちることで新しい樹木の誕生を促していたと推測されており、森林の多様性を維持するためには必要なことでもありました。
そのため、アメリカやオーストラリアのように、自然発火による森林火災は自然サイクルの一現象としてとらえ、人命に影響しない限りはむやみに手を出さないとしている国もあります。この自然発火は特に、乾燥している、気温が高いという環境下で起こりやすいです。乾燥、高温はまさに地球温暖化による影響によって深刻化しているものです。
人為的要因
現在の森林火災の大半を占めるのが、この人為的要因によるものです。人為的要因とは、焚火や、たばこの不始末、放火、焼畑農業といった人間の営みのことであり、この人為的要因によって森林火災は増加していき、それに伴う被害も大きくなっています。
森林火災の被害
森林火災が起きるとどのような被害が起きるのでしょうか?まず、短期的に見ると、延焼により住居や財産、生命を失う可能性があります。また、煙による健康被害も考えられます。
これは人間だけでなく、その森林で生活している生物にも当てはまることです。長期的に見ると、森林を失うことになるので、森林の持つ公益的機能や生物多様性、水源涵養機能が失われ、また土砂流出による洪水被害が拡大します。
さらに、森林に生息する生物がいなくなると、生態系のバランスが崩れ、特定の生物の大量発生が起こりやすくなるといったことも考えられます。そして、何よりCO₂の増加により、地球温暖化が進行します。
日本での被害
近年の林野火災の発生状況
区分/年次 | 平成22年 | 平成23年 | 平成24年 | 平成25年 | 平成26年 | 平均 (平成22年~26年) |
出火件数(件) | 1,392 | 2,093 | 1,178 | 2,020 | 1,494 | 1,635 |
焼損面積(ha) | 755 | 2,071 | 372 | 971 | 1,062 | 1,046 |
損害額(百万円) | 71 | 1,017 | 190 | 233 | 1,369 | 576 |
資料:消防庁統計資料に基づいて作成
グラフ 昭和22年以降の林野火災発生件数の推移
日本での森林火災発生件数は、近年は減少しつつありますが、それでも損害額は大きいです。また、日本森林監視局によると、日本において特に火災が起こりやすい気象状況にあるとして指摘されるのが、関東や九州北部、中国地方です。これは気温の高さや、乾燥しやすいという条件がそろっているためです。
世界での被害
表.世界で発生した森林火災
2017/10/8 | カリフォルニア州山林火災(アメリカ) | 死者40人 |
焼損面積は900㎢、住宅・店舗合わせて3500棟全焼。 | ||
2014/4/12/∼16 | チリ、バルパライソの山火事 | 死者15人 |
周辺でも大規模な山火事が度々発生している、2017年1月にも4500㎢が焼ける大規模な山火事が発生している。 | ||
2009/2/7∼3/14 | 大規模森林火災(オーストラリア) | 死者175人 |
ビクトリア州を中心に同時多発的に発生した森林火災で、損傷面積4500㎢以上でオーストラリア史上、最悪・最大の森林火災。 | ||
2007/6∼9 | 山林火災(ギリシャ) | 死者84人 |
ヨーロッパ南東部が記録的な熱波と高温に見舞われ、ギリシャ全土で約3000件の火災が発生。市街地にまで火災が及んだ。 | ||
1983/2 | 森林火災(オーストラリア) | 死者75人 |
焼損面積は東京都の面積とほぼ同じ2000㎢。 |
上の表の事例は一部で、その他の場所でも多くの森林火災が起こっています。世界で起こる森林火災は、日本で起こるものより規模が大きく、防ぎにくいです。これは高温・乾燥地域が多く、日本よりも自然発火による森林火災の数が多いからです。
被害の広がり方
森林火災の種類
森林火災は、延焼、燃焼形態、被害程度などで4種類に分けることができます。
①地表火…地表を覆っている落葉落枝、枯れ草などが燃えるもので、風の影響を受けやすく、延焼速度は時速4∼7㎞と速いのが特徴です。特に幼齢造林地で枯死に至ります。
②地中火…地中の泥炭層に引火して燃えるもので、延焼速度が遅く火力も強くないが、消えにくく、数か月も燃え続けることもあります。日本では北海道でも稀に起こります。
③樹冠火…樹木の先端部分が燃えるもので、地表火から燃え移ることが多く、針葉樹林で多く起こります。延焼速度は遅いが、風の強い時には広く拡大し、樹木はほとんど枯死します。主な森林火災のこれに当たります。
④樹幹火…林木の幹が燃えるもので、地表火から幹に移り、あるいは樹冠と共に起こります。
フェーン現象
森林火災が起きやすい条件として、空気が乾燥していることが挙げられます。空気が乾燥していると、枯れ草なども乾燥している状態にあり、摩擦などで燃えやすい状態にあります。
湿っている紙よりも乾いている紙の方が燃えやすいことを考えると分かりやすいと思います。この乾燥をさらに悪化させるものがフェーン現象です。フェーン現象とは、湿った空気が山を登る際に雲となり、雲になることで水分を使い、山を越えた風が乾いてしまうという現象です。
この乾いた風が火災をさらに拡大させるのです。フェーン現象を引き起こす局地風の1つとして、アメリカのカリフォルニア地域に吹く「サンタアナ」という局地風があります。これは、秋から冬を中心にして吹く高温で乾燥した風で、カリフォルニアで起こる森林火災の主な原因の1つです。
風速
風速が上がると、火災は勢いを増し、規模も大きくなっていきます。それに伴って発生する現象が飛び火です。飛び火とは、飛び散った火の粉が落下して離れた部分で燃えだす現象で、森林火災の拡大過程のいろいろな段階で発生します。
飛び火が起こると、延焼速度は増加し、消火活動にも影響を与えます。また、もう一つ被害を拡大させる現象として、火災旋風があります。火災旋風とは、主に風下斜面で起こり、地形の影響で生じた渦流と火事場風の相互作用によって、竜巻上の旋回流が起こり、燃焼物を回転させながら巻き上げて上空で周囲に飛散させる現象です。これによって火災の規模が広がり、被害が大きくなっていきます。
積乱雲発生による雷
森林火災による炎は上昇気流を生み出し、この上昇気流が積乱雲を作ります。この積乱雲によって公成が発生し、火災がさらに拡大するのです。積乱雲は雨も降らせますが、多くの場合、地上に達する前に雨は蒸発してしまいます。仮に地表に届いても、もはや火を鎮めるのに充分ではありません。
森林火災と地球温暖化
世界各地で森林火災が年々増加し、またその規模が大きくなっているのは、地球温暖化による影響があります。地球温暖化によって、夏の温度が上昇する、春の雪解けの時期が早まる、空気が乾燥する、といった森林火災が起こりやすい環境になりつつあるのです。
また、気温の上昇により、森林火災が起きやすい時期が今までよりも長くなったり、以前より焼失面積が広がっています。地球温暖化の影響を特に受けているのが、カナダなどに存在する北方林です。
北方林とは、北米とユーラシア大陸の亜寒帯に存在する森林地帯で、地球表面にある炭素の約30%を貯蔵し、南方の生息地から移動してくる動物の避難地にもなっています。
しかし、北方雨林は現在、気温の上昇により他の地域の2倍のスピードで気候変動が進行しています。北方林は大気中の炭素を土壌や樹木に貯蔵することで、気候の調節に重大な役割を担っています。
北方の森林火災がさらに大規模に、頻繁に発生すれば、炭素を貯蔵してくれる北方林が、逆に大規模なCO₂の排出源へと変わってしまいます。このように地球温暖化と森林火災は互いに密接に関係しあっています。
アメリカ宇宙航空局(NASA)の統計によると、多い年で年間約5000万haの森林が消失しているとされています。本来、CO₂の減少に大きく貢献するはずの森林が、火災によってCO₂を増加させる原因となってしまうのです。
森林火災の消火方法
まず一つの手段として、航空機やヘリコプター、消防車などの散水によって直接火災を鎮める方法があります。日本ではこの直接的な消化方法を用いて消火に当たりますが、アメリカなど、森林火災の規模が極めて大きくなりがちなところではあまり効果が見られません。
そのため、消火活動の一環として、延焼が予想される地域の樹木をあらかじめ伐採し、防火帯を作るという方法があります。日本では、森林法で定められ、管理されている森林もありますが、全てに配備されているわけではありません。
また、直接的な方法を用いるにしても、消防車は道が整備されているところまでしか行けず、航空機やヘリコプターなどの消火活動は天候に左右されやすく、強風の時は飛べないことも多いです。
つまり、いまだ直接的な森林火災の消火活動は人力に頼るところが大きく、中々消化することはできません。そのため、森林火災を起こさないように活動する、また、起こってしまった場合に備えて活動することが重要なのです。
森林火災を防ぐために
森林火災の拡大を予防する手段として挙げられるのが防火林です。防火林とは、森林火災の延焼を防ぐために設けられる林のことです。樹木は可燃物ですが、樹種、針葉樹・広葉樹別、樹齢、森林密度などによって燃えやすさが異なります。
例えば、針葉樹よりも広葉樹の方が、葉が厚く水分を多く含むため、防火林に向いています。これらの防火性の高い樹木は1本では効果はなく、群落になって初めて防火機能を持ちます。
広葉樹の中でも常緑広葉樹が防火林には適しており、カシやツバキなどが該当します。このように防火林を作ることで、森林火災が発生した際に、被害が拡大することを抑えることができます。これは森林に限らず、市街地にも設置されています。
私たちにできること
一度発生してしまうと、中々鎮火することは難しい森林火災ですが、森林火災を発生させないために私たちにできることはあるでしょうか?
実は、私たち一人ひとりの行動で、森林火災の被害をかなり抑えることができるのです。なぜなら、現在発生している森林火災の原因は、人間のちょっとした火の取り扱いの不注意から発生しているからです。具体的には、
- 枯れ草などのある火災が起こりやすい場所では、たき火をしないこと。
- たき火など火器の使用中はその場を離れず、使用中は完全に消化すること。
- 強風時及び乾燥時には、たき火、火入れをしないこと。
- 火入れを行う際、許可を必ず受けること。
- タバコは、指定された場所で喫煙し、吸い殻は必ず消すとともに、投げ捨てないこと。
- 火遊びはしないこと。
などが挙げられます。どれも当たり前のことのようですが、誰も見ていなかったり、友達や家族とバーベキューなどで盛り上がっているとついつい疎かになってしまいませんか?私たち一人ひとりがこれらのことを心掛けて行動するだけで、森林火災が大幅に減るのです。
森林火災を防ぐために、国や地方公共団体も制度を設け、森林のパトロールなどの活動もしています。また、過失により森林火災を発生させてしまった場合は、森林法に基づいて、罰金が科せられる可能性があるほか、立木などの被害に対して賠償を求められる場合があります。実際に訴訟を起こしたケースも存在します。
何気ないタバコのポイ捨てや、火の不始末が森林を、地球を、そして自分の人生までも破壊してしまうかもしれないのです。恐ろしいことですよね。森林は生物多様性の維持や、CO₂の吸収・貯蔵など様々な機能を持っています。
森林の大切さを認識し、高い防火意識をもって生活することが最も大切です。まずはそういった意識づくりからスタートさせて、森林を、そして地球を守っていきましょう。