酸性雨について

  • 更新日:2020/08/28

所属:神奈川大学

インターン生:K.Hさん

酸性雨についての写真

現在の地球では、地球温暖化やオゾン層の破壊、大気汚染、水質汚染などといったさまざまな環境問題が世界中で発生しています。そんな環境問題の一つに酸性雨というものがあります。私は小学校高学年のときに酸性雨という言葉を知り、雨によって森林の木々が枯れたり、銅像などが溶けたりしてしまうことを学んだことがとても印象に残りました。今回は、そんな酸性雨について紹介したいと思います。

酸性雨とは

まず、物質には酸性・中性・塩基性(アルカリ性)といういずれかの性質があります。例えば水は中性の物質です。水の分子は水素(H)原子2個と酸素(O)原子1個からなり、H2Oという式で表されます。ほんの一滴の水も無数のH2O分子から成り立っており、その一部は水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)に分かれて存在しています。

もともとH2Oだったものが分かれているので、まったく混じりけのない純粋な水の中では水素イオンと水酸化物イオンの数は同じであり、これが中性という状態です。そこに別の物質が溶け込んでイオンが付け加わり、水素イオンの方が水酸化物イオンよりも多くなると酸性、逆に水酸化物イオンの方が多くなると塩基性になります。酸性雨とは、通常より強い酸性を示す雨が降る現象のことです。

酸性雨の基準

物質の酸性、塩基性の度合いの指標として一般的に水素イオン濃度指数(pH、ピーエッチまたはペーハー)が用いられており、酸性度が強いほどpHは低くなります。純水(中性)のpHは7ですが、降水には大気中の二酸化炭素が溶け込むため、人為起源の大気汚染物質が無かったとしてもpHは7よりも低くなります。

大気中の二酸化炭素が十分溶け込んだ場合のpHが5.6であるため、pH5.6が酸性雨の一つの目安となりますが、火山やアルカリ土壌など周辺の状況によって本来の降水のpHは変わります。一般的にはpH5.6以下の雨が酸性雨とされています。

酸性雨が発生する原因

酸性雨の原因は、工場や自動車などが排出する大気汚染物質に含まれる二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOX)といった物質が雨や雪・霧などに溶け込むことによって発生します。これらの物質は、大気中で光化学反応などの化学変化を起こし、強い酸性を持つ硫酸や硝酸となって降水に溶け込み、酸性雨となります。

酸性雨の影響

酸性雨は、自然界にも人間界にも大きな影響や問題を起こします。

湖、沼などへの影響

湖や沼に酸性雨が降ると、そこに生息する生物が減少、または死滅してしまいます。「死の湖」とも呼ばれ、酸性雨によって生物が生息できない湖が世界には多く存在しています。

森林への影響

森林に酸性雨が降ることで、森林が枯れ、土壌が汚染され、砂漠化し、そこに生息する生物もまた、減少し、死滅してしまいます。「黒い森」とも呼ばれ、立ち枯れの状態も見られます。

土壌への影響

土壌に酸性雨が降ることで、土壌が酸性化し、栄養分が酸と反応して流出します。これにより、栄養不足の土壌になり、収穫物の成長が止まったり、収穫物が減少したりする被害が出てしまいます。

地下水への影響

地下水に酸性雨が流れることによって、普段私たちが飲んでいる水が汚染されてしまいます。さらに、その汚染された水を飲むことによって、様々な病気を引き起こしてしまいます。

赤潮への影響

海へ酸性雨が降ることによって、大量の有害プランクトンが発生する赤潮が起こります。これにより、海の生物が減少、死滅し、さらに、私たちが食べている魚なども汚染されてしまい、その汚染された魚を食べることによって、様々な病気を引き起こしてしまいます。

水生生物への影響

海や川・湖沼などに、酸性雨が降ることで、水生生物は生息できない状態になり、産卵できない状態になってしまいます。他には、異常な遺伝子ができることで、雌雄同体など、の異常生物が増加してしまいます。

歴史的建造物への影響

酸性雨は、コンクリートや大理石の床、さらには歴史的建造物などである彫刻や銅の屋根まで溶かし、銅像にはサビを発生させてしまいます。

人体への影響

人体への影響は、髪の色が緑色に変色する、目や喉、鼻や皮膚を刺激するなどがあります。金属は酸に溶け出しやすいので、土壌に固定などで使われているアルミニウムなどを酸性雨が溶かしてしまいます。溶け出した物質が、河川や海などに溶け出すことによって、飲料水などに混ざり、アルミニウムなどの化学物質が、私たちの体に蓄積することによって、アルツハイマー病などの病気の原因のひとつになっています。

酸性雨の問題の発端

19世紀のイギリスでは、産業革命の進展により大量の石炭やコークスが消費されるようになりました。そのため、排ガスの影響によって、すでに降水が酸性化していたことが分かっています。

1960年代になって、スウェーデンの科学者オーデンは、スカンジナビア地域の降水が酸性化し、環境に悪影響を及ぼしていること、その原因がイギリスやヨーロッパ各地で排出された大気汚染物質であることを示し、酸性雨が広域的な環境問題であることを明らかにしました。

日本では1973~75年に関東地方に酸性度の強い雨が降り、多くの人に目の痛みなどの健康被害が発生しました。このころから酸性雨問題が表面化し、多くの自治体で酸性雨の観測が始まりました。

酸性雨による世界への被害と対策

欧州

欧州では、1950年代後半から、ノルウェーやスウェーデンなど北欧の湖沼や河川が酸性化して魚などが激減したり、木々が立ち枯れて森林が衰退したりしてしまうなど、生態系に深刻な影響を与えていることが大問題となり、その原因をつきとめることが緊急の課題となりました。

スウェーデンの政策担当者は経済協力開発機構(OECD)に、酸性雨モニタリングのための国際共同プロジェクトの実施を呼び掛け、1972年にはOECDは大気汚染物質の国際共同プロジェクトを発足させました。

これらの情勢を背景に、1977年には、国連欧州経済委員会(UN/ECE)が事務局となって、欧州全域を含んで、欧州における大気汚染物質の長距離輸送評価・監視のための共同計画(EMEP)が発足し、ヨーロッパ全域に酸性雨の測定網が広げられました。

また同年、ノルウェーは、スウェーデンとフィンランドの協力を得て、越境大気汚染を引き起こす大気汚染物質の削減に関する国際条約の締結の提案を、UN/ECEの会議において行いました。欧州での大量の汚染物質排出国であるドイツ、イギリスなどは最初、自分たちの国からの排出が北欧等での酸性雨の原因であるとは認めようとしませんでしたが、モニタリングやモデルでの計算結果などの科学的な証拠とともに、世論の関心の高まりなどを背景として、徐々に認識を改めるようになっていきました。

その後得られた科学的な知見を基にして、国際交渉が行われた結果、1979年に採択された長距離越境大気汚染条約では長距離大気汚染を削減することを明記し、各国が大気汚染物質に関する情報の交換や協議、共同の研究やモニタリングを行い、対策に取り組むための政策や戦略を作ること等が規定されました。

この条約には、汚染物質排出削減のための具体的な規定は組み込まれていませんでしたが、その後この条約を実際に実行するための国際的取り決めとして、これまでに8つの議定書が制定されてそれぞれ発効しており、「枠組み条約」として気候変動枠組み条約などのこの後の他の地球環境問題の環境条約のモデルとなりました。

北米・カナダ

カナダでは、1960年代から魚類等が減少する湖沼が次第に増加し、また米国でも湖沼群などで魚類が消滅しつつあることが警告されました。このため、カナダでは1976年に「カナダ降水採水網」(現在はCAPMoN)を、米国では1978年に「国家大気降下物測定プログラム(NADP)」を発足させ、両国は酸性雨の包括的なモニタリング等を開始しました。

1990年には米国で大気清浄化法が改訂され、有害大気汚染物質の対象範囲を大幅に広げて排出基準を厳しくし、また二酸化硫黄(SO2)の排出権取引の制度を発足させました。米国、カナダの間でも最初から協力して酸性雨問題のための対策を始めたわけではありませんが、共同のモニタリングやモデルの計算結果を基にした継続的な協議によって、両国は歩調を合わせるようになりました。

米国での大気清浄化法制定後、米国とカナダ両国は協定交渉を開始し、1991年には米加二国間越境大気汚染協定が調印されました。この協定では、両国が科学技術的活動及び経済的研究を継続的に行い、情報交換の実施や大気質委員会の開催などを行うことによって越境大気汚染削減のための対策を講じることが決められました。

汚染物質である二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOX)の排出削減については、Annex(附属書)1(二酸化硫黄及び窒素酸化物に関する特定目標)で具体的に規定され、附属書2(科学技術的活動と経済的研究)ではモニタリングや情報交換活動などが規定されました。

アジア

アジアでは、近年の経済発展に伴うエネルギー消費と汚染物質排出量の増大を考慮すると、欧米で現れた酸性雨の被害が東アジアでも深刻な問題となる恐れがあることが指摘されています。そこで1993年から1997年にかけて日本国内で4回の専門家会合が日本の主催で開催されましたが、その議論の結果を踏まえて、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET: Acid Deposition Monitoring Network in East Asia)の活動が1998年から開始され、東アジアの酸性沈着及び生態系への影響監視・評価の国際協力プログラムが実施されることになりました。

EANETは約2年半にわたって行われた施行稼働の後、2000年に新潟で開催された第2回EANET政府間会合で、2001年からのEANETの本格的な稼働開始が決定されました。

また新潟市に設置されている酸性雨研究センターがEANETの科学技術的機能を担うネットワークセンターとして指定され、事務局はバンコク郊外にある国連環境計画アジア太平洋地域資源センター(UNEP RRC.AP)が指定されました。

EANETは参加国での酸性雨のモニタリング活動の他、酸性雨に関する調査・研究、参加国への研修活動等を行ってきており、東アジアの酸性雨のモニタリングデータや状況に関する報告書を公表しています。2006年に公表された「東アジア酸性雨状況報告書」では、EANET参加国の酸性雨を含む大気汚染に関する状況と対策の実施状況とともに、欧州や北米の酸性雨の状況と比較して、地域全体としては概ね同程度の強さを持った酸性雨が観測されているが中国北部では黄砂等の影響で酸性度が低くなっていることなどその性質に東アジアの特徴があることや、酸性雨の生態系への影響を正確に把握するには長期間のモニタリングが必要なことなどが指摘されています。

東南アジアでは、東南アジア諸国連合(ASEAN)が国連環境計画(UNEP)の協力を得て、1978年から1992年にかけて3つのASEAN小地域環境計画(ASEP)を策定し、また1993年には新規ASEAN戦略環境行動計画が採択されて、プログラムが実施されてきています。

ところで、1990年代に入るとインドネシアの山火事による煙害が海を越えてマレーシア、シンガポール、ブルネイ、フィリピンまでもたらされ、被害は極めて膨大・多岐にわたったことから、近隣諸国はインドネシアに対して対策をとるように要請しました。

1997年になるとついにインドネシア政府も規制に乗り出し、ASEAN煙害対策閣僚会議で地域的煙害対策行動計画(RHAP)が策定され、また2002年には越境煙害に関するASEAN協定が締結されて、地域でのモニタリング及び早期警戒システムの設置など、全域的監視体制に基づく情報交換や、技術的相互協力の推進などが図られてきています。

一方南アジアでは、南アジア地域の国際環境協力を進めるために、1982年に南アジア共同環境計画(SACEP)が設立され、UNEPやノルウェー開発協力庁(NORAD)などの協力により環境アセスメントや研修事業など様々なプロジェクトが実施されてきています。

その中でも、1998年にSACEP第7回管理協議会で設立することが決定された、南アジアの大気汚染とその越境影響防止及び規制に関するマレ宣言は、参加国での大気汚染モニタリングの実施、行動計画の作成、排出インベントリの作成など、越境大気汚染問題対策に関する包括的な活動を実施してきています。

酸性雨における日本での被害

日本における酸性雨の被害として記憶されているものに19世紀末に起きた足尾銅山事件があります。今でも現場では、周囲の木々の立ち枯れが生々しく残っており、当時の被害の大きさを表しています。1973~1975年の間では、関東地方で3万人以上もの人が目や皮膚の刺激といった健康被害を訴えました。

現在、全国調査の結果から日本に降る雨の7~8割が酸性雨と判明しています。現在のところ、日本では明らかに酸性雨による被害と断定された報告はありませんが、環境省による「酸性雨対策調査」の結果によると、pH4台の酸性雨が全国的に観察されており、今後さまざまな影響が現れることが懸念されています。

酸性雨に対する国際的な監視・観測体制

酸性雨の原因となる大気汚染物質が放出されてから酸性雨として降ってくるまでに、国境を越えて数百から数千kmも運ばれることもあり、その動向を監視するために世界各国が協力してさまざまな観測・分析を行っています。世界気象機関(WMO)の推進する全球大気監視(GAW)計画の下で、ヨーロッパや北米を中心とする約200の観測点で降水の化学成分の測定が行われています。

アジア地区では、「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)」の下で、酸性雨モニタリングを共通の手法で行うための取り組みが進められています。

酸性雨を防ぐための生活

私たちの日常生活の中で、何に心がけたら酸性雨を防ぐために効果があるのか、私たちでできる酸性雨を防ぐための生活の一例を示します。

買わずに済むのに買う無駄をしない

ルームエアコンや乗用車、テレビなどを家族で融通しあい、複数台購入する無駄を避けるようにします。

不要な機能の付いた製品を購入しない

製品に新たな機能を付与するために、開発、製造、販売する段階で、大量のエネルギーが消費されています。使わなくても済む自動機能がついた製品を購入しないようにします。

使わずに済む無駄をしない

バスや電車を利用できるのに、乗用車を利用する無駄、徒歩あるいは自転車で済むところで自動車を利用する無駄、冷暖房器具を使用しなくても過ごせるのに、使用する無駄などをしないようにします。

機能を過大に働かせる無駄をしない

冷暖房器具の設定温度で夏に冷やし過ぎ、冬に暖め過ぎないようにします。暗くても済むところを明るく照明したり、冷蔵庫へ物を詰め過ぎたりしないようにします。

利用していないのにエネルギーを消費する無駄をしない

人のいない部屋でルームエアコン等の冷暖房器具、テレビ、照明を使用しないようにします。製品が修理不能となるまで十分使い切らずに捨てる無駄をしないようにします。

最後に

私は今回、酸性雨についての記事を書きました。記事を書いていく中で、酸性雨についての歴史、酸性雨がもたらす影響などについてさまざまなことを知ることができました。酸性雨はその他の環境問題とも深い関係があります。

酸性雨が川や海、湖などに降ることによって、水質が汚染されてそこに生息する生物が減少して絶滅したり、酸性雨が森林に降ることによって木々が枯れて減少してしまい地球温暖化が進行したりする危険性を引き起こしてしまいます。

酸性雨を防ぐためには私たち一人一人の行動が大切です。電気の無駄使いをしない、自動車をなるべく使用せず電車などの公共交通機関を使用するなどといった省エネを進んで行っていきましょう。そのことは、酸性雨だけでなくその他の環境問題を抑えることにつながるのです。

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エコモ博士
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