対”獣”交通事故

  • 更新日:2020/08/28

所属:東京農業大学

インターン生:A.Tさん

対”獣”交通事故の写真

皆さんは郊外や山道などで、右の写真にあるような交通標識を見たことがありませんか?これは、「動物が飛び出す恐れあり」という警戒標識で、野生動物の飛び出しの危険性が高い道路に多く設置されています。そして、動物が車にぶつかって死んでしまう事故のことをロードキルといいます。今日はこのロードキルについて、詳しく紹介させて頂きたいと思います。

ロードキルという言葉について

ロードキルとは日本語では轢死(れきし)といい、動物が車とぶつかってはねられたり潰されてしまい死んでしまった現象のことを指します。広義には側溝に落下したり電灯にぶつかるなど道路の存在そのものに起因する動物の死傷すべてを含む場合もあるようですが、ここでは車によるものだけを扱わせていただきます。

ロードキルの発生原因

野生動物が道路上で車に轢かれてしまうのにはいくつか理由があります。

従来の移動によるもの

動物は生きていくために日常的に餌場や産卵場への移動を行います。それは、移動ルート上に道路が設置されても基本的にルートを変えません。その結果、横断しようとしてロードキルに遭うことがあります。

繁殖期や子別れに伴う特別活発な行動によるもの

動物は一般的に繁殖期には相手を求めて通常よりも行動が活発になり、行動圏が拡大します。また、秋になると子は親を離れ遠方へ移動します。そのため、普段は通らない道路を横断する機会が増えてしまいます。これは、中型の哺乳類に多く見られます。

種ごとの行動習性によるもの

動物には様々な習性があります。例えばタヌキは何かに驚くとその場でうずくまって身を隠す習性があります。この習性によって車に驚いて道路上でうずくまってしまうとそのままロードキルに遭う可能性が高くなるでしょう。このように、種ごとの習性によってはよりロードキルに遭いやすくなるものもあります。

法面利用によるもの

道路の建設によって整備され草地のある法面はネズミなどの動物にとっても良好な生息地として機能します。そういった動物を求めて肉食動物が近づいてきます。その結果、道路に侵入して事故に遭ってしまうことがあります。

道路上の餌を求めにくることによるもの

動物の中にはカラスやタヌキなど、死体を餌として食べる動物がいます。道路上でロードキルに遭い死んだ動物の死体にも、それを餌とする動物が近づきまた新たな事故が発生するという悪循環が繰り返されることがあります。

ロードキルの発生件数

全国のロードキルの発生件数に関しては報告されないものが多すぎて推計のしようがありませんが、少なくとも全国の高速道路では年間で約35000件(2014年)ものロードキルが発生していることが分かっています。しかも、過去10年間のデータと照らし合わせると発生件数は平成5年の2万件台から経年的に上昇しています。

これは、高速道路の区間が延長されたことに加え、近年に新規開通した高速道路は比較的野生動物の多い山間部を通過していることが関係していると思われます。また、動物によっては分布域が都市部へ拡大していることも増加要因の一つとして考えられます。

一般道に関しても、筆者の感覚ではありますが地方にドライブへ行くと必ず1回は見かけるため相当数のロードキルが起こっていると思われます。

道路延長とロードキル件数の推移 出典:国土交通省国土技術政策総合研究所

被害動物の内訳

日本道路公団によると、高速道路上でロードキルの被害に遭った動物の割合は、タヌキが14000件で全体の約4割と圧倒的に多いです。これは、分布域の広さと個体数が多いことに加えて先ほど述べた驚くとうずくまる習性が関係していると思われます。

ほかにはネコが4000件、イタチやウサギ、トビやカラスなどがそれぞれ2000件発生していることが分かっています。特にトビやカラスは道路上にある死体を食べるためにやってきた二次的なロードキルだと考えられます。

ロードキルの事例

ロードキルでよく問題として取り上げられるものには、観光地化された自然公園や希少動物の保全が関係していることが多いです。ここでは富士国立公園とイリオモテヤマネコの2つの事例を紹介したいと思います。

富士山のロードキルマップ

富士山といえば、日本でも有数の観光地です。特に、登山シーズンには約25万人(平成28年)もの登山客が訪れています。このため、樹海周辺の国道ではロードキルが多発しています。そこで、首都大学東京は地域の環境保全団体「富士アウトドアミュージアム」と協力をして富士山周辺の国道や県道を一年間調査して発見したロードキルのあった地点を地図化しました。

これは、インターネット上で『富士山「動物交通事故死」マップ』という名称で公開されています。これにより、特に被害の多い道路区間や季節ごとの被害動物の特色が分かるようになりました。さらに、「動物注意」の標識のある地点が140か所ありましたが、残念ながら標識周辺でも被害が減っていないことが分かってきました。

富士山周辺にご旅行の際には通過ルートに事故多発区間がないか調べるなど、ぜひ活用してみてください。

イリオモテヤマネコの危機

沖縄県西表島の固有種であるイリオモテヤマネコは平成19年の推定では既に100頭程度しか生息していないと言われており、絶滅の可能性が極めて高い絶滅危惧IA類に分類されています。ロードキルはこのイリオモテヤマネコを脅かす最も深刻な問題と考えられています。

IWCCによると1978年から2017年までに78件ものロードキルが発生していたことが分かっています。また、一年間の事故件数は2016年の7件が最も多く、2007年から10年間の傾向として事故件数は増加しています。これは絶滅の危機に瀕しているイリオモテヤマネコにとってはとても致命的なものです。

このように、一部の動物にとってはロードキルは種の保存に関わる重大な危機なのです。ロードキルからイリオモテヤマネコをはじめとする野生動物を守るためには、スピードを出しすぎないことと常に警戒することが大切です。動物の生息地の近くで車を運転するときは、彼らの家にお邪魔していることを忘れないようにしましょう。

防止の手法

ロードキルには多様な対策が取られおり、そのうちのいくつかを取り上げたいと思います。

フェンス

動物の道路への侵入を防ぐ代表的なものは、フェンスで道路を囲み、動物が道路内に物理的に侵入できないようにすることです。一般的なフェンスでは、シカに上を飛び越えられたりイタチに下からくぐり抜けられてしまうためフェンスの高さの嵩上げやフェンスの下部が地面と密着するような工夫がとられています。

ボックスカルバートとオーバーブリッジ

動物の通り道を道路上以外に設けて動物が道路を横切らずに済むような工夫も考えられています。ボックスカルバートとは箱型で中空のコンクリートのことで、これを道路の下に設置することで動物はそこを通って安全に道を通ることができます。一方、オーバーブリッジは道路上に橋を設置することで同様の効果が得られます。

警戒標識の設置

冒頭の写真にあるような「動物が飛び出す恐れあり」という警戒標識を事故多発区間に設置することで、車の運転手への注意を呼び掛けます。

二次被害の防止

動物の死骸に集まる動物のロードキルを防ぐために、交通巡回による速やかな対応が行われています。

動物を守るエコロード

エコロードとは、自然に及ぼす影響を最小限にとどめるように生態系に配慮し、道路周辺の自然環境を保全する道づくりで、ロードキルを防止するうえではとても重要な考え方です。日本では、1980年代頃からエコロードという考え方が意識されるようになりました。

ロードキルに配慮したエコロードの事例としては、国道108号に設置された鬼首エコロードがあります。この鬼首エコロードではカモシカがよく出没する区間に道路の下を横断できるようボックスカルバートでトンネルが作られました。

カモシカはこのトンネルを利用することで、道路上を横切ることなく安全に移動することができます。また、このエコロードでは、カモシカだけでなく鳥類や爬虫類も利用する姿が確認されています。

運転手にできること

野生動物との交通事故を避けるために運転手が心がけるべきことには次のように挙げられます。

  1. 動物注意の標識があったら警戒する。
  2. 夕方と朝方は動物が活発に活動するので特に注意する。
  3. 夜間は、可能な限り前照灯をハイビームに切り替え、前方又は道路脇に動物がいないかを確認する。
  4. もしもの場合に備え、飛び出してくることを予測した運転にも気を配る

以上の事柄以外にも,鹿笛というシカやイヌなどの動物が敏感に反応する超音波を発する笛をバンパーなどに取り付けることで動物が発信元を避ける効果があると言われています。

ロードキルを起こしてしまったら

もしロードキルを起こしてしまったら、安全な場所に車を停めて一般道であれば自治体、高速道路であれば道路管理者に連絡をしましょう。その後、安全を確認したうえで二次被害を避けるためにできれば死体を路肩に移動させてください。

ただし、動物はダニをはじめ寄生虫やウィルスを持っていることもあるので不用意に素手で触らないようにしましょう。

また、ロードキルが起こった場合、傷つくのは動物だけではありません。衝突したのが中型以上の哺乳類であれば車がへこんでしまう可能性もありますし、北海道ではエゾジカと衝突し運転手が死亡した例もあります。当然野生動物には責任能力はないので、自損事故扱いとなります。したがって、任意保険を適用する場合は警察に来てもらい事故証明書を発行してもらう必要があるのでご注意ください。

ロードキルに似た問題の紹介

ロードキルによく似た問題として、バードストライクというものがあります。バードストライクとは、飛行機やビル、風力発電施設などに鳥がぶつかって死んでしまう事故のことを言います。鳥は哺乳類と違って骨がとてももろいので、飛行中障害物にぶつかるだけでも骨が砕けてしまうのです。

どちらも人の行動圏が野生動物の生活圏に拡大した結果、意図せず動物を傷つけてしまうという点で共通しています。バードストライクのうち、飛行機によるバードストライクは日本国内では平成20年に1200件発生しています。

特に高速飛行中だとぶつかってしまうと小鳥でも衝撃が大きく故障の原因になってしまいます。その対策として、多くの飛行場ではバードパトロールと呼ばれる追い払いやバードストライクのデータを収集してモニタリングが行われています。

おわりに

私は旅行に行くのが趣味で、休日になるとよく車を使って地方へ行きます。東京近郊では野生動物なんてめったに見かけませんが、首都圏を離れるにしたがって次第に動物を見かけるようになります。山道に入ると、いつ飛び出てきてもおかしくないのでいつも緊張しながら運転しています。

私は実際に動物を轢いてしまったことはありませんが、動物が突然道に飛び出してきて急ブレーキを踏んだ経験は何度もあります。一歩間違えば轢いてしまったかもしれないと思うと、なかなか怖いものです。また、誰かに轢かれてしまった動物で死後硬直が解けるほど放置されているのを見かけると哀れに思います。

説明した通り、現在ロードキルについて様々な対策が取られています。しかし、私は車が使われる限りロードキルはなくならないと思います。少しでも動物が安心して道路を通れるようにするためには、我々人間が彼らに注意して運転することが最も重要なのです。なので、もし高速道路や山道で運転をするときは車だけでなく動物にも気を配りましょう!

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エコモ博士
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