土壌汚染とバイオレメディエーション
所属:武蔵野大学
インターン生:K.Mさん
2016年8月31日に築地市場の豊洲への移転を延期すると都知事が表明した。移転を延期する理由の大きな原因の一つに土壌汚染の問題があります。そのため、連日のように豊洲の土壌汚染がニュースとしてテレビで流れ、国民の関心も高まっているように感じます。
導入
2016年8月31日に築地市場の豊洲への移転を延期すると都知事が表明した。移転を延期する理由の大きな原因の一つに土壌汚染の問題があります。そのため、連日のように豊洲の土壌汚染がニュースとしてテレビで流れ、国民の関心も高まっているように感じます。
土壌汚染の改善方法は何通りかあります。その中で私はバイオの力に着目して記事で紹介させていただこうと思います。
土壌汚染とは
農薬の意図的な過度な散布、重金属や難解性有機物が意図しないまま土壌へ混入などで土壌が汚染されてきました。人為起源物質の中には長期間残留し、作物の生産に悪影響を及ぼしたり、人間への健康被害、生態系破壊の原因になったりもします。
土壌の浄化方法
土壌汚染浄化の方法はいくつかあります。従来では重機で土壌掘削、除去を行い、土を入れ替えるという物理的方法や、薬剤を投与するという化学的方法があります。加えて生物を利用して浄化、有害物質の分解を図る生物的方法があります。この生物的方法を用いた環境修復技術をバイオレメディエーションと呼びます。
バイオレメディエーションとは
バイオレメディエーションは先に述べたように、生物機能を用いて環境の修復を図ることを指しますが、狭義には微生物の分解能、除去能を用いて環境、特に土壌環境を浄化する技術のことを言います。
バイオレメディエーションにも種類があり、菌類を利用するマイコレメディエーション、植物を利用するファイトレメディエーション、土着の微生物を活性化させるバイオスティミュレーション、汚染物質を分解する能力を持つ微生物を外部から取り入れるバイオオーグメンテーションがあります。
バイオスティミュレーションとバイオオーグメンテーション
ヨーロッパでは土着の生態系への影響を考慮してバイオスティミュレーションが主に開発されてきたのに対して、日本やアメリカではバイオオーグメンテーションが主に開発されており、分解能の高い微生物を環境中から選び取って微生物製剤という有用な微生物群を多く含む粉末、液体の商品化がすすめられています。
バイオレメディエーションの利点
バイオレメディエーションは多様な汚染物質除去への適用可能性があること、投入エネルギーが少ないこと、基本的に浄化コストが比較的に低いことが挙げられます。従来通りの重機での土壌の掘削、入れ替えは非常にコストがかかってしまいます。以上のことから将来の技術向上が求められ、注目を集めている技術と言えます。
バイオレメディエーションへの懸念
バイオレメディエーションもいいことばかりではなく、懸念材料も存在します。特に外部から高い分解能力を持つ微生物を投与するバイオオーグメンテーションは、外部から意図的に微生物を導入するという技術ながら、その安全評価においては技術者の経験が浅く、統一的な安全評価、管理手法が求められてきました。
そのため、環境省と経済産業省は共同で、生態系を考慮した安全評価、管理手法のための考え方の指針を示し、バイオレメディエーション事業の健全な発展と環境保全を目的として、平成17年に「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」を策定しました。
バイオレメディエーションによる石油汚染浄化
現代の多量の石油の使用により、油田からの自然流出、採掘などの家庭での流出、工場、産業排水などによる汚染など多数発生しています。現在の日本では期間の短さと確実性から掘削後焼却する手法が6割を占めています。
石油汚染土壌のバイオレメディエーションは難分解性の有機物が残留してしまうことが多いため、日本やアメリカではバイオオーグメンテーションによる浄化効果の効率向上を目的として、難解性有機物に対応できる微生物が分離され、その分解特性の研究が進められています。
バイオレメディエーションによる浄化は環境負荷が掘削除去に比べ非常に小さく、加熱処理すると土壌中微生物が死滅してしまうという掘削除去のデメリットも改善することができます。
バイオレメディエーションによる有機塩素化合物汚染土壌浄化
有機塩素化合物による土壌汚染ではバイオオーグメンテーションの研究が活発に行われていて、欧州では脱塩素機能に優れるDehalococcoides属細菌の微生物製剤が製造され、また土壌汚染の修復に利用されています。日本で初めて「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」の適合確認を受けたのはこの微生物を用いた工法でした。
バイオレメディエーションによる重金属汚染土壌の浄化
重金属汚染土壌の浄化は微生物よりも植物によるファイトレメディエーションによる報告がほとんどです。土壌でのファイトレメディエーションとは植物が根から水分や養分を吸収する能力を利用して、汚染物質を吸収し、除去、分解する技術です。
バイオレメディエーションの今後
微生物には好気性(酸素がある環境に生息するもの)嫌気性(酸素がない環境に存在するもの)がいます。好気性微生物の方は研究室内で容易に培養できますが、嫌気性微生物は取り扱いが難しく、いまだに培養が困難なものも存在します。好気性微生物はエネルギーを多く使い、有機物をはやい速度で分解します。嫌気性微生物はゆっくりとした速度ですが好気性微生物が分解できなかった有機物を分解します。
今後技術革新で嫌気性微生物の培養が容易になったり、嫌気性微生物の遺伝子の抽出、特有の酵素の生産が可能になった社会が来るのではないでしょうか。そのような未来が実現し、環境負荷の少ない、クリーンな手法の土壌浄化によって、すべての基盤である土壌がきれいになることで現在より豊かな社会を築いていけるのではないかと考えます。