圃場整備と環境問題
所属:宇都宮大学
インターン生:Y.Nさん
皆さんが食べている米や野菜が作られている田畑で、土地改良が行われているのはご存知ですか?農村部の高齢化が深刻化している現代では、農業を営む上で田畑の整備を行うのは必要不可欠です。しかしながら、それは田畑周辺の環境に影響を及ぼしているのです。
圃場整備とは
今ある水田や畑を、より良い基盤条件をもつ農地に整備する一連の土地改良のことです。つまり、土地生産性(安定した多収穫の農地)・労働生産性(労働が容易に行える)が高い圃場に整備する必要があります。大型機械が簡単に導入できるようになり、生産コストが低減することで農家の後継者不足を解消する目的もあります。
具体的には①水田そのものの整備(区画整備・暗渠排水の整備)②作物に必要な用水と排水の整備(用排水路の整備)③作物を運搬する農道の整備(農道整備)の3つにわけられます。
私が目の当たりにした圃場整備による環境問題
大学近くの農家へボランティアに行った時のことです。ある農家の「昔は蛍がたくさん見られたのに、今じゃ皆無だ。あの頃のように戻ってきて欲しい。」という言葉が印象に残っています。その周囲では農業用水路の改修が数十年前に行われ、従来の土水路が三面張りコンクリート水路になったことで蛍の生息環境に影響を及ぼしていたのです。蛍がたくさん見られた頃は、たくさんの光が漂っていてまるで星空のような田園風景であったと聞き、現在まで受け継がれなかったのが残念で仕方ありません。
また、授業でのフィールドワークである地区の圃場に生息しているカエルの数を調査しましたが、数年前のカエルの個体数と比べると減少していました。これも圃場整備による三面張りコンクリート水路が原因の1つでした。従来の木、土、石などで形成された水路ではカエルは容易に水路を昇ることが出来ましたが、コンクリート水路ではそうはいかず、一度水路へ落ちてしまうとそのまま流されて死んでしまうのです。しかしながら、美しい田園風景・生物多様性を守るためと言って圃場整備を行ってこなかったら、今の農業生産性や農業経営者の数を維持できてはいないでしょう。前述の農家は蛍の生息を願うと同時に圃場整備のおかげで農業がやり易くなったとも述べており、皆さんが国内産の美味しい米や野菜を食べられることに繋がるのではないでしょうか。
環境配慮型の圃場整備
現在の技術進歩のおかげで、続々と環境と調和した製品が開発されています。例えば蛍の生息条件を満足できるように特殊素材で開発された水路や水路の側壁にコケの早期繁茂を促すように設計されているものもあります。実際に蛍の個体数が増加し成果を見せている例もあります。
しかしながら環境との調和が進む一方で、今までに失われた自然環境は簡単に戻ってくるでしょうか?長い年月がかかる、もしくは現状の維持となるかもしれません。今後は圃場整備と環境配慮の妥協点を探していくことが大切だと考えられます。