東日本大震災の原発被害から考えるエネルギー事業あるべき姿 ―福島県いわき市での野外調査より―
所属:中央大学
インターン生:A.Kさん
わたしたちが気にするべき「環境」は地球環境だけではありません。その地域に暮らす人々の生活環境も「環境」の大事な要素です。ここでは、私自身が2015年9月11日に福島県いわき市で行った野外調査での記録をもとに、東日本大震災により原子力発電が人々の生活にもたらした影響と、今後のエネルギー事業の展開を考察します。
1、いわき市の漁業関係者のお話
今回私は大学のゼミ合宿で「いわき市」についての多角的な調査を目的にいわき市を訪れました。私の班のテーマは「食」で、いわき市南部に位置する小名浜地区の「いわき市観光物産センター ら・ら・ミュウ」という、福島県の近くの海でとれた海産物を販売する魚市場や、東日本大震災後のいわき市における被害のパネル・映像展示コーナー、福島県が取り組む新エネルギー事業の紹介ブースなどを見て回れる観光施設を訪れました。そこの魚市場では30名以上の従業員の方々が朝から元気よく挨拶をして、全国から来た観光客に仕入れた海産物の説明を積極的にしてくださいます。しかし、並べられた海産物をよく見てみると、いわき市小名浜港でとれたものも福島県産の海産物もほとんどありませんでした。理由をお伺いすると、「小名浜でとれたものはみんな、毎日線量検査をしなくちゃならない。検査にかける時間もお金もないから、茨城のものを仕入れている。」と答えが返ってきました。いわき市名産の「めひかり」という魚でさえも、一週間に1度しか水揚げできないようになっているというのです。その方は「もう放射線反応は出ないのに、国が許してくれないから仕方がないんだ。」と話されていました。その市場の外には現在のこの地点の放射線量を測る測定機械がおいてあり、東日本大震災での原発事故はいまだにいわき市の漁業に影響を与えているのだと実感しました。
2、いわき市のスーパーでの観察より
JRいわき駅から徒歩5分のイトーヨーカ堂の食料品売り場では、常設の食品コーナーとは別に、「いわきふるさと産品フェア」という名前で福島県産の果物や野菜が売られていました。福島県民のなかでもまだ福島県産の食材に対する風評被害の記憶が残っているのかもしれません。
3、今後のエネルギー事業の展開
エネルギー事業は、人間の生活のために必要とされる取り組みの一つです。数々の被害を生んだ原子力発電でさえ、もとは人々の生活環境をよりよくするためにつくられました。しかし、関東圏の人間に電力という利益をもたらしてきた原発の被害は福島県に集中しました。これはひとつのエネルギー事業における「利益を受ける地域」と「苦難を受ける地域」に差があることをあらわしているといえるでしょう。つまり、関東圏の人間は何の対価も払わないまま原発のエネルギーを享受し、福島県の住民は関東圏の人間の分もその被害を負ったということになります。一度に大量のエネルギーを生産できる原子力発電は経済的に好条件なのかもしれませんが、沖縄県の辺野古移設計画問題でもわかるように、「受苦圏」と「受益圏」の隔絶は人間の生活環境における問題の一つと言えるでしょう。今回私が野外調査で得た事実は、この問題のほんの一部分にすぎませんが、エネルギー事業において表面化しだしている問題の一つでもあると考えます。今後のエネルギー事業は、地球環境への配慮だけではなく、その事業がもららす地域への影響が妥当なものなのか、だれに必要とされていて、だれがその対価をはらい、だれがその恩恵を受けるのか、といったそのシステム自体への疑問に答えていかなければならないでしょう。