プラスチックが引き起こす『海洋汚染』から、海と海の仲間を守るための取り組み
所属:跡見学園女子大学
インターン生:N.Sさん
夏になると、皆さんはどこに行きたいと感じますか?花火大会、夏フェス、プール…。魅力的なスポットがたくさんありますよね。たくさんある中で、“海”を選択肢に入れる人は決して少なくないと思います。しかし残念なことに、海は「環境汚染」という深刻な問題を抱えています。海と海で暮らす仲間を守るために、海洋汚染とは何か、私と一緒に考えてみませんか?
「海洋汚染」とは?
ニュースや記事などのメディアの場で、「海洋汚染」という言葉を耳にしたことはあると思います。しかし、海洋汚染がどういうものなのか聞かれると、上手く言葉にするのは難しいです。
海洋汚染とは、人為的要因によって引き起こされる海の汚染のことを言います。この汚染には、プラスチックなどを含む産業廃棄物の投棄、船の事故などから流出する石油といった一時的なものと、工場や家庭からの排水などの化学物質が流れ出てしまう慢性的なものの2種類があります。本記事では主に、前者の要因について記載したいと思います。
海洋汚染の現状
海洋汚染の原因となる海洋ゴミにも様々な種類がありますが、その中でも最も問題とされているのが「プラスチックゴミ」です。プラスチックゴミが海洋ゴミの半分以上を占めており、プラスチックの素材の性質上、滞留期間が非常に長く、中には400年以上海の中を漂うものもあると言われています。環境省の調べによると、毎年海に流出するプラスチックゴミのうち、2~6万トンが日本から発生したものだと推計されています。
では、そのプラスチックゴミがどこから来ているものだと思いますか?実は、ペットボトルやポリ袋などの海洋プラスチックゴミの大半は、私たちが暮らす街から流れてきたものなのです。街で捨てられたゴミが、雨や風の影響で水路や川に流れ出し、そして最終的に海に流出していきます。こうして、海洋汚染に繋がっているのです。
何の対策も行わずこのままゴミが増えていけば、2050年の海は魚の数よりも海洋ゴミの量の方が多くなると言われるほど、私たちの生活の裏側で、この海洋汚染は深刻化しています。
ウミガメとストロー
ウミガメの鼻の穴に刺さったプラスチックストローを抜く姿を映した動画を、目にしたことはありますか?この動画は2015年にネット上に公開されたもので、2023年現在では1億回以上もの回数再生されています。
この要因も、海洋汚染にあります。動画に映っていたヒメウミガメは、海底に居る甲殻類を捕食する生物です。そのため、獲物と一緒に流出してきたストローを吸い込んでしまったと考えられます。カメの食道と気道は繋がっており、誤飲してしまったストローを吐き出そうとした際、偶然気道に入り込み、鼻腔に詰まったのだと考えられます。
海洋汚染はウミガメだけでなく、それ以外の海の生物にも影響を与えています。魚類をはじめ、海鳥、クジラなどの海洋哺乳動物などの生物が被害に遭っています。餌と間違えてポリ袋を食べてしまったり、漁網に絡まったりして体が傷付いて死んでしまうこともあります。
海洋汚染が与える影響
海洋汚染が起きることで、いくつもの影響を与えます。その影響を、生態系、地球環境、水質の低下そして私たちの健康の4つに分けて紹介します。
生態系
プラスチックゴミは、波や紫外線などの影響を受けて「マイクロプラスチック」と呼ばれる微細片になっていきます。これは、サンゴ礁に大きな危険を及ぼしてしまうのです。
サンゴ礁とは、外洋に面した熱帯や濁っていない澄んだ浅い海に形成される地形のことで、様々な生物の産卵場所や棲み処になっています。またこのサンゴ礁は、海水の二酸化炭素濃度調節には欠かせない存在です。しかし、マイクロプラスチックによってサンゴ礁の成長が阻害されてしまい、最悪の場合にはサンゴ礁が死んでしまう恐れがあります。サンゴ礁が死んでしまうと、サンゴ礁を棲み処にしている生物だけでなく、サンゴ礁に住む生物を食べる生物も姿を消してしまうことになり、支えていた生態系のバランスが崩れてしまいます。
地球環境
海洋に流出してしまったプラスチックゴミは、海水と紫外線の影響で劣化する過程において、メタンなどの温室効果ガスを発生させます。これは地球温暖化を引き起こす原因でもあります。
水質の低下
海洋汚染によって海が富栄養化すると、赤潮などの発生リスクが高まることがあります。この富栄養化とは、海水に含まれる栄養分が増えすぎてしまうことを定義します。原因は私たちが使う洗剤や農薬、肥料などが挙げられます。
富栄養化することで、プランクトンが増殖して魚のエラに詰まったり、水中の酸素を消費しすぎて魚や貝などが死んでしまう危険性を持っています。これによって悪臭が発生するなど、私たちの暮らしにも悪影響をもたらすことが考えられます。
私たちの健康
マイクロプラスチックが海中を舞うことで、魚や貝、カニなどの海洋生物が誤食してしまったり、塩や飲料水の中に含まれていたりすることがあります。そしてそれらのものを私たちが口にしてしまう可能性があります。
また、プラスチックに含まれる紫外線吸収剤や可塑剤、難燃剤などの添加剤が、生物の消化液に含まれる油分に反応して溶け出してしまいます。そのため溶け出した化学物質を、私たちが無意識のうちに体内に溜め込んでしまう恐れがあるため、私たちの健康への悪影響が考えられます。
企業が行っている取り組み
上記のような悪影響を抑えるために、多くの企業では、プラスチック削減の様々な取り組みが行われています。その中でも特に、私たちの身近の企業の取り組みを4企業紹介したいと思います。
スターバックス
世界中に店舗展開を行っているスターバックスでは、2020年1月より紙ストローでの提供を段階的に始めました。これにより、日本国内だけで年間約2億本、全世界では年間約10億本ものプラスチックストローを削減することが実現するとされています。
またストローだけでなく、2023年3月から国内の8割に当たる1500店舗で、繰り返し使える店内用グラスでの提供を開始しました。
他にも、2021年6月23日から同年8月31日までの期間で、国内約500店舗の対象店舗で、壊れてしまったり古くなって使わなくなってしまったスターバックスのプラスチック製タンブラーを回収する取り組みが行われていました。
マクドナルド
マクドナルドでは、2025年末までに、提供用容器包装類を再生可能な素材・リサイクル素材に変更すると目標を掲げています。その目標を達成するために、2022年10月から全国の店舗にて、紙ストロー、木製カトラリーの提供を開始しました。これにより、年間約900トンのプラスチックを削減することが見込まれています。
すかいらーく
ファミリーレストランのガストやバーミヤンを展開するすかいらーくホールディングスでは、2018年8月より、ドリンクバーなどに常備されている石油由来の使い捨てプラスチックストローを順次廃止してきました。その後は、ストローを必要とするお客には、トウモロコシ原料の生分解性のストローが提供されています。
また、2020年8月からは竹割り箸の包装をプラスチックのものから環境に優しい紙に変更したり、2020年2月からはテイクアウトや宅配用カトラリーに関して、石油由来のプラスチックからバイオマスプラスチックに変更するなどの取り組みが行われています。
セブンイレブン
セブンイレブンでは、2022年4月より、植物由来の素材を30パーセント配合したスプーンやフォークなどの環境配慮型のカトラリーを導入開始する取り組みを行っています。
また、石油由来のプラスチック使用量の削減のために、消費者に提供するレジ袋を、環境に配慮したものに変更し、店舗ではレジ袋辞退に繋がる声掛けや、ポスターなど啓発物の展開を行うことで、プラスチックの使用量を削減させています。
団体が行っている取り組み
海洋汚染を防ぐために活動を行う団体の1つに、「グリーンピース・ジャパン」があります。この団体は、世界55国と地域で活動するネットワークを生かし、企業や政府に対して、海洋汚染を防止するアクションを調査や署名活動を通して訴えかけている団体です。
2020年には、東京電力福島第一原発からの放射能汚染水の海洋放出中止を求める署名活動を行いました。この活動の結果、汚染水の海洋放出決断の延期に繋がりました。
また2021年には、健康な海を守るために、2030年までに世界の海の30パーセント以上を保護区にする必要を訴え、海洋保護条約に日本政府も賛同することを求めて署名活動を行いました。署名は世界で350万筆を超え、2021年1月には、日本政府は「自然と人々のための高い野心連合」への参加を表明しました。
この「自然と人々のための高い野心連合」は、コスタリカ、フランス、英国が共同議長を務める90か国以上の国家のグループです。この連合は、大量絶滅の加速を食い止める協定を推進し、人類の生存と経済安全保障の源である重要な生態系を保護しようという活動を行っています。
日本政府が行っている取り組み
日本政府がプラスチックゴミに対して行っている取り組みを4つ紹介します。
海洋プラスチックゴミ対策アクションプラン
これは、2019年に環境省が策定した計画です。計画の内容は、プラスチックゴミの回収から適正処理の徹底、ポイ捨てや不法投棄、非意図的な海洋流出の防止、すでに流出してしまったプラスチックゴミの回収などを多角的に行うというものです。また、プラスチックゴミが海洋に流出しても微生物などに分解され海洋への影響や負担が少ない素材の開発なども促進されています。他にも、ゴミ途上国などにおける海洋プラスチックの効果的な流出防止の活動も行っています。
プラスチック・スマート
これは、環境省が実施している海洋プラスチックゴミの削減に向けたキャンペーンの名称で、2018年10月に立ち上げられました。企業だけではなく、個人消費者、自治体、NGOなどが連携し「プラスチックとの賢い付き合い方」の取り組みを国内外に発信しています。取り組みとして、自治体が「ゴミゼロの日(5月30日)」や「環境月間(6月)」に一斉ゴミ清掃活動を行い、NGO主導による海や川のプラスチックゴミの回収、また、企業によるリサイクル材を使用した製品の開発などを行っています。
この清掃活動は、2019年度は全国約1500箇所で開催され、約43万人が参加しました。同時に海洋ゴミ対策に関する優れた取り組みを全国から募集、選定し表彰する「海ゴミゼロアワード」も実施されています。「アクション部門」と「イノベーション部門」と「アイディア部門」の3部門を設置し、2019年度には254件もの団体から応募がありました。
SDGs目標や条約などの国際的な同意
日本は1980年10月に「ロンドン条約」と呼ばれる、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」を締結しました。この条約の概要は、陸上で発生した廃棄物を船舶、航空機などから海洋投棄したり、廃棄物を海上で焼却処分したりする行為を規制するというものです。また、「持続可能な開発目標(SDGs)」の14番目の目標に「海の豊かさを守ろう」が定められています。
行政の体制整備
1970年に「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」が制定され、船舶などに対して定期的な検査を行うことが定められました。これによって、船舶から漏れる油による汚染を未然に防げるようになりました。また、海上保安庁では指導などを通じて海洋汚染の防止に努めています。
プラスチック資源循環促進法
1・プラスチック資源循環促進法とは?
プラスチック資源循環促進法という法律を知っていますか?これはプラスチックゴミの削減とリサイクルの促進を目的とする法律です。2021年6月に制定され、2022年4月1日から施行されました。この法律では、「プラスチックゴミを出さないように設計する」という考えが取り入れられています。これにより、コンビニやスーパー、ホテルなどがプラスチック製品廃棄物の排出抑制のため、様々な取り組みを実施するようになりました。
2・どのような取り組みを行っているの?
上記に記したように、プラスチック資源循環促進法の施行により、コンビニやスーパー、宿泊施設は新たな提供方法を工夫する必要が出来ました。その方法は以下の通りです。
- カトラリーを有料で提供する
- プラスチックの代わりに、木製カトラリーや紙ストローを提供する
- テイクアウトの飲料の蓋をストローが不要な飲み口機能が付いたものに変更する
- ストローを、利用が必要な場合に声を掛けてもらい、その人にのみ提供する
- ホテルなどの宿泊施設で、アメニティを部屋には置かず、必要な場合のみ声をフロントに声を掛けてもらうようにしたり、アメニティコーナーで受け取ることが出来るようにする
- クリーニング店でハンガーを店頭回収し、リユースもしくはリサイクルを行う
このように、コンビニやスーパー、宿泊施設はプラスチック製のものから紙製のものにしたり、もしくは必要に応じてのみ提供するという工夫をしてプラスチック削減を行っています。
私たちが行うべき取り組み
海洋汚染は、政府や企業だけが取り組んで改善する問題では決してありません。私たちの取り組みがあってこそ改善される問題なのです。私たちが出来る取り組みとして、「プラスチックゴミを出さない」ことが考えられます。
しかし、私たちが生活する中で、プラスチック製品は必要不可欠です。コンタクトレンズも、テレビも、コンビニ弁当の容器も、消しゴムやボールペンにもプラスチックが使われています。私たちは普段から、プラスチック製品に囲まれて生活しています。だから、「プラスチックゴミを一切出さないように」なんてことを言われても、それは不可能に近いです。なので、“なるべく”プラスチックゴミを出さないように取り組むように心掛けてみませんか?
外出の際、喉が渇くと、自販機やコンビニでペットボトルの飲み物を購入するかと思います。しかし、そうするのではなく、水筒を持参してみる。カバンの中にエコバッグを小さく折りたたんでしまっておいて、お会計の際は「レジ袋は要らないです」と言って、しまっておいたエコバッグの中に購入品を入れる。そういった少しの心掛けだけで、全国から排出されるプラスチックゴミの量はグンと減ります。海を守ることは、私たちの健康やこれからの生活を守ることにも繋がります。